第7話 何いきなり話かけてるわけ? いや、お前それで良いのか?

==  7  ==



 あれからすぐ。


 ──おかあさまと相談してきますわ!


 とのありがたい一言をいただき、<モニカ>は姿を消した。

 オレは何か致命的なミスをしたのではないかと一瞬もだえたが、なるようにしかならないとすぐに切り替えて、日課の訓練に励むことにした。


 魔触部位アルカナム・エレメントは不明だが、魔力の保有量が上がってきたらしい。身体強化も順調だ。今では前世の自分では不可能だった動きが可能になっている。


 もっとも、この世界の戦闘職に就く人達は化け物である。武器をぶん回しながら宙返りだのゲームみた動きが出来やがる。

 ものすごい疲れるらしい事と、隙がデカすぎる&視界を広域に保てないなどなど、あくまでプレイの域を出ないそうだが。仲良くなった不良騎士に教わった。


 まあ、それでも前世と違い、目に見えて増すちからというのは中々にモチベーションを刺激されるらしく、僕もそうだが、ここ数日<アレク>も自然と訓練に打ち込んでいる。


 アレクもアレクで着実にちからを着け、訓練初日に絡んできた頃に比べると、随分と身体つきが変わってきた。目つきも鋭くなった気がする……。こういった苦行に耐性がある僕とおなじ量の訓練をこなせているあたり、子どもとしては大したものだ。結果が目に見えて付いてきてるのは意欲モチベーションにすごい影響出るからかな。


 そういえば、おかしいこともある。


「次は何をしますの!」


 子どもらしい丸々したほっぺたを赤らめ、汗ばんだ額を手で拭いながら、目が覚めるような輝く金髪をしゃらんらとなびかせた彼女・・は嬉々と報告してきた。

 なんか新しい(?)仲間が増えました。いや、<モニカ>おまえは守られる側だろ何ばしよっとんねしてんだよ


 そう、モニカだ。領主様の長子で御息女の彼女が、何を血迷ったのか暇さえあれば僕の訓練に紛れ込むようになったのだ。

 そうか、そりゃアレクも目の色変えるわ。時折モニカが隣を走ってるのを見かけるが。お貴族様が近くにいたら、そりゃ気が休まらないよね。僕にとってはただのアホの子認定なんだが……いや、前世に置き換えてると、事業主の親族をアホの子認定するのは中々リスキーか。少し考えを改めよう。


「何をうんうんとうなっていますの。殿方らしくしゃんとなさい」

「いや、お嬢様がここにいるのが原因だからね?」


 こてんと可愛く首を傾けてはいるが、言葉に可愛さの欠片もない。


「何をな事を。わたくしも貴族の端くれ。いざ戦場に立つからには、武器が持てない、なんてことは許されませんことよ?」

「考え方が実践的すぎる…」


 ふつう、貴族って戦場では指揮を取るのが仕事だろう。ましてモニカは蝶よ花よと領主様に溺愛されてきた娘だ。何故こんなNOUKIN思考になっているんだ……?

 胡乱うろんな僕の目つきを察したのか、モニカは胸を張ってまた答える。


「お母様は戦場魔術師をでしたの。杖を振り、喉が枯れれば剣を振るい、味方を鼓舞こぶする。そんな完璧パーフェクト淑女しゅくじょに、私はなりたいんですの!」


 それは淑女じゃありません。流石に口には出せず、僕は心の中で呟いた。

 なるほど、ゲームのモニカがNOUKIN思考だったのは母親からか。父親が、この双子姉妹を目に入れても痛くないぐらい可愛がっていたのはシナリオで垣間見れたが、彼女らの母親が登場することはなかったからな。

 確かに、彼女のステータスは加入時は主人公にちから以外すべて上回ってた筈。だからなのか、現時点で子どもとしてはかなりすごい方にある、僕やアレクの走り込みにちょっと汗をかく程度で追いついてきている。戦場魔術師らしい、母親の姿勢を見習って自分で鍛えていたのかもしれない。


 いや、そうじゃなくて。


「そもそも、なんでお嬢様は僕達と一緒にいらっしゃるのですか?」


 至極当然のようにいるけど。

 僕の言葉に、アレクがこくんこくんと首を縦に振っている。


「あら。こういった訓練で得た友は信頼出来る、と相場が決まっていてよ?

 なんでも、”おなじ釜のご飯を食う仲は恋くらいしか超えられない”……? でしてよ?」

「ちょっと君のお母さん呼んできていい?」


 5歳時にどんな教育してるんだ。


「それはこま……いえ、ぜんぜん!へいき、ですわ!それより、はやく次は何をしますの!」

「いっぺん怒られてしまえ」


 どうやらモニカの見つける”暇”とは、授業とかを抜け出して作っている疑惑があるようだ。疑惑は深まったって奴だね。

 かといって、へいみんがお貴族様の事情に踏み入るなんて無理な話だし、仕方ない、目をつむろう。

 そんな漫才ことをしていると、ひとりの騎士……騎士か……?が、やってきた。


「まぁたお嬢様が抜け出してらぁ」


 たるんだ雰囲気の茶髪の男が、手を組んで気だるそうにそう言う。起き抜けてきたばかりのような緩さのまま、僕らに向かって歩いてくる。

 騎士にしてはすこし心許こころもとないような中肉中背ちゅうにくちゅうぜいの体格に、数打ちの片手剣をいた革鎧の青年だ。腕には幾条にも及ぶ古傷が浮かんでおり、頬にも一筋刀傷のような古傷がはしっている。

 ミモザ家のごく潰し、歩く不良債権、働かずして食う飯は旨いと平然と豪語する不良騎士、<ドウェイン>だ。


 ふあぁ、と大きな欠伸あくびをひとつしてモニカに近づくドウェインドゥーネ


「まあ!またおサボりですの?ドゥーネ」


 不良騎士の様子に慣れたもので、モニカはほっぺたを膨らませてぷりぷりと怒る。


仕方ないしゃーないじゃないですか、お嬢様ぁ……。ここ最近騎士達が目ぇ吊り上げてくだんの盗賊を嗅ぎ回ってるのに見つかんねっスよ。暴力あらごと専門の俺はもう暇で暇で……」

「なら、貴方も捜索に加わってはよろしくて?」

「生憎、そういった部分にゃ鼻が効きやがらねぇ性質タチなんでね。飯と鉄火場ぐらいしか役に立たねぇんですわ!」


 モニカ(とアレク)のいかがわしいものを見る視線を、ドウェインはからからと笑って受け流している。

 不良騎士と自称するだけあって、その言動は騎士としての責任に欠いているが、実のところは違うことを僕は知っている。


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