第4話 僕は弱いとわかっているから本能的長寿タイプ


== 4 ==



 つらい時、くるしい時。きみなら、どうする?



 正解がない問いだとおもう。


 前世の経験きおくとて長いものでも褒められたものでもないのだが、それでもオレはひとつの"こたえ"に至った。


 ──"原点さいしょ"に立ち返る。


 その決意を抱いたのは何が理由か。何が自分自身をき動かすのか。反芻はんすうし、咀嚼そしゃくし、もう一度飲み込む。腹の中に据わった覚悟ものを、想起おこしてあげることが、大事であると思っている。

 無論、その人その人で違う解があるはずだ。僕の解を押し付ける気はないし、共感してもらおうとも思わない。


 さて、何故そんなことを走馬灯のように思い返しているかというと。


 身体を鍛錬いじめ抜いた果てに、天を仰いでぶっ倒れているからだ。

 玉のような汗が額に浮かんでは流れていき、息も荒い。指一本動かすことすら億劫おっくうで、油断していると吐き気もこみ上げてくる。

 完全なオーバーワーク。つらいきついを超えて、無理・・とおもえるような心境に陥ったので、僕の原点に立ち返って覚悟を想起してあげる作業の過程で、ふと先述したことを思い出していた。


 <御嬢ソフィア様>と出会ったのはつい先日のことで、あれから三ヶ月経過している。

 未だ、魔触部位アルカナム・エレメントは判明していないが、魔力を枯渇するまで身体強化して走ったり筋トレしたり、魔力を身体に循環させて少しでも魔触部位を増やそうと色々やったおかげか、同年代と比べるとだいぶ魔力量がある、っぽい。比較対象が庭師の息子仲間の<アレク>と使用人の子ども達ぐらいでよくわからんし。そもそも、普通の人は魔力量なんて魔法やら身体強化やら使って体外かられ出てるのを見て多寡たかを判断するしかない為、貴族という良質な血統を持つ御嬢様を見てもわからない。


 ちなみに、何故か<アレク>も隣に倒れている。

 確か……訓練初日にオレが走っているのを見て、「競争だ!!」と対抗心を燃やしながら付き合ってたのだが、気が付けばその日はいなくなっていた。その翌日、訓練開始前にアレクが現れて、ものすごい覚悟ガン決まった顔で「俺はまだまだだった…」と言って、一緒に訓練するようになったんだっけか。スポ根漫画の主人公みたいな奴だな。


 ひとりで走るには味気ないと思ってたので歓迎したが、「負けないからな!」と対抗意識を燃やされてしまった。よくわからんお年頃だ。

 それでもこの三ヶ月、アレクとともに励む環境は悪いものではなく、年甲斐もなく「あいつよりもさきへ出てやる」と躍起になって、自分の限界以上の身体の使い方をし続けた結果、体力スタミナ及び筋力ともに上昇著しく、非常に有意義な訓練の日々であった。


 ──だが。


 同時に、限界を感じている。

 一応、前世で培ったスポーツ知識と漫画のなんちゃって訓練を真似出来る範囲で真似て実践してみて、僕もアレクも並の子どもとは思えない体力・魔力を手に入れられたが、所詮並の子どもにまさるだけだ。

 鍛えている大人相手なら普通に力負けするし、まだまだ肉体労働が多いこの世界の大人達の体力バイタリティに勝てるかはなはだ疑問だ。

 ただでさえ、体格差がある大人相手にどこまで抵抗出来るかどうか……そんな程度の強さじゃ、御嬢様をあらゆる事からお護りするなんて、口が裂けても言えたもんじゃない。


 要するに、今のままじゃ駄目ってことだ。


 もし、今この時に御嬢様が悪漢あっかんに襲われたら?ひとりふたり程度なら、まあ頑張れば倒せるかもしれない。

 では、武器を持った大人十数人が相手なら?ここでだいぶ無理がある。もしかしたら、奇跡的に何かが噛み合って勝てるかも知れないけど、持てる手をすべて使い切って勝てたとしても満身創痍まんしんそういだろう。


 じゃあ、その先。シナリオのボスである、皇国の魔界の皇子らに勝てるか?


 ──無理無理、到底無理。逆立ちしたって勝てやしない。


 【AASアークス】はRPG部分はしっかりと出来た作品だったからな。何か道具を使っただけで敵がバラバラになったり、極限弱体化するギミックなんてなく、普通に才能ある主人公パーティを壊滅させるだけの実力ちからを持っている。そんな相手に、素人に毛が生えた程度の僕が勝てるかって聞かれたら、首をひねらざるを得ない。


 なにか、飛躍的に強くなれるギミックがあればいいんだが……学園パートでも地道なステ上昇が攻略の鍵だっただけに、ゲーム知識はあまり役に立ちそうにない。なら、どうする……?


「──いつまで無視するんですの!?」


 きんきんとした声が、鼓膜を打つ。


 うるさいなあ。聞こえてるよ…。

 オレが気持ち悪い疲労に全身を投げ出した状態で、思考の海に漂っている間、ずっと声をかけて来ている少女がひとり居た。


 目が覚めるような輝く金髪ブロンド。あんまり知性を感じさせない碧眼あおいひとみ。見ろよ、御嬢ソフィア様と違って、目がつり上がってるせいできつい印象受けるぜ。

 愛くるしさとは縁がなく、まあ、それでも御嬢様に大部分似てるせいか、可愛らしいと思うけどどこかツンツンととんがった雰囲気をかもし出している。


 そのの名前は、<モニカ=フォン=ミモザ>。

 【AAS】のヒドインヒロインズのひとり。ツンデレならぬツンギレ・・の異名を持つ、暴力系少女。そして、御嬢ソフィア様の双子の姉でもある。認めたくないけど。





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