6.トラブルメーカー
被害者はズィスト・オフブレヒェン。47歳男性。近所でも悪名高いトラブルメーカーだった。
「ああ、あの人死んだんですか。当然の報いですね、せいせいした。ホッとしてる人多いと思いますよ」
彼の死を聞いた近隣住民の反応は概ね同じだった。生活態度があまりよろしくなかった彼は、近所の人々との不和を多く抱えていた。職を失った彼は昼間から酒を飲んでは大声で喚き、騒音トラブルで揉めるのは日常茶飯事。物に当たり散らしたり、隣近所の敷地にゴミを投げ込んだり、酷い時にはすれ違いざまに他人を殴ることもあったようだ。その度に役場にも被害報告は届けられていたが、注意喚起程度ではズィストの横暴の抑止にはならなかった。
「成程ね。被害者は殺されても仕方ないクズだったと。となると、被害者への怨みから悪魔が生じた可能性は高いっすね」
報告を受けたズィヒェルは眉を顰めて唸った。ミカエラとは異なり表情豊かな少女だ。
「悪魔は人の欲から生まれるんですよね? 個人への怨みが悪魔に変わるなんて、そんなことあり得るんですか?」
首を捻るハンスに、ズィヒェルは重い口調で告げる。
「人の欲は様々っすよ。厄介者にいなくなってほしいと願うことも立派な欲っす。けど、怨んでる人間が多いとなるとその中から悪魔憑きを割り出すのは難しいっすね」
確かに今回の場合、同じ欲――被害者への怨みを抱えている人間は多数存在している。その中から容疑者を絞り込むのは容易ではなさそうだ。
「被害者を怨んでる人間を片っ端から斬って退魔する、数撃ちゃ当たる戦法も骨が折れるっすからね〜」
「やめてくださいよそんなこと!」
過激な発言をするズィヒェルを嗜める。ズィヒェルが力技を行使した暁には、教会や警察に苦情が殺到すること間違いなしだ。
「いやー、力づくでも早めに片づけた方がいいのは確かっすよ。個人への怨恨がトラブルメーカー自体への報復に変わるかもしれない」
「それは……流石に飛躍しすぎているのでは?」
首を傾げるハンスに、ズィヒェルはちっちっ、と指を振った。
「いいっすか、ハンスさん。ズィストを殺して気をよくした悪魔憑きは、他にもトラブルを抱えてる人間を狙うかもしれない」
ハンスは息を呑んだ。その可能性を見逃していた。
「自分はいいことをしている。自分の行いは正しい。そう思い込むのも欲に溺れた人間の末路なんすよ。徐々に悪魔に思考を呑まれていく。被害が広まる前に食い止めたいっすけど、何せ手掛かりがない。悔しいけど、巡回を強化して犯行を未然に防ぐしか手はないっすね」
ハンスの脳内に、ミカエラを凝視していた男の姿が蘇る。明らかに怪しい素振りを見せていた男は、事件と関係があるのだろうか。確証も何もないが、警戒は怠らないに越したことはない。ハンスは今一度気を引き締めた。
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