第9話 心
一方で、研究員である彼らもまたサラたちの活動を知るために南東の住居区へと足を運んでいた。
「お前がMEMORYだな。アミル氏から話は聞いたが…やっぱり人にしか見えないな」
研究員であるユウシンは植物の保護区を見学した後、ロボットの住まう建物へ来ていた。
ユウシンを含めた研究者たちは瓦礫の山の中にロボットなるものが存在していることを知らなかった。そのため、今後は粉砕機でロボットを巻き込まないための改良が必要だと考えた。それからロボットも人間と同じように生きていくために必要なことを知るために、まずは人間とは異なる生き物であるロボットの生態についての研究を始めることとなった。
「私は記憶媒体型ロボットだから、今この時も私が見える範囲で起きていることを記憶して保存しているの」
「なるほど…」
「あなたの顔やユウシンという名前も記憶しているから、私のコアが壊れない限り100年先にも1000年先にもあなたの映像データや名前を伝えることが出来る」
「それはちょっと…」
そこでユウシンは何かに気がついたように口を噤んだ。
「申し訳ない、酷いことを言った」
「…どういうこと?。私はロボットだから、詳細に伝えてくれないと人の気持ちはよくわらかない」
「傷つけてしまうかもしれないが、きちんと僕が発した言葉についての説明をするよ。100年先や1000年先に自分のことが知られるのが嫌だという意味の言葉を君に言ってしまった。君は先に話してくれたような長い年月を壊れない限り生きて、その間ずっと記憶し続けるということだろう?。それなのに僕はそれを嫌悪するようなことを口走ってしまった。申し訳ない」
「…よくわからないけど、ユウシンが私みたいなロボットに気を遣ってくれて、自分の発言で私を傷つけてしまったかもしれないと心を痛めてくれてていることはわかったよ。アミルに言われたんだ、私にはそのうち心が生まれるって」
「心が…?」
「うん」
頷く少女は、少し微笑みながらユウシンを見据えた。
初めユウシンはサラたちからロボット存在を聞かされた時、ロボットなど瓦礫の山から生まれたお人形に過ぎないと笑い飛ばしていた。子ども時代瓦礫を組み合わせたもので遊び、暇な時間を持て余していた自分がどこかで言うのだ。あんなガラクタに心などあるはずが、ましてや生まれるはずなどないと。
けれど目の前で「心がない」と言う瓦礫と同じ物質で出来たロボットの少女には、心が既に生まれているように見える。
混乱するユウシンを他所に、MEMORYは続けた。
「ユウシンはロボットのことを勉強してるんだよね」
「そ、そうだけど」
「なら私があなたにロボットについて知っていることを全て教えてあげる。その代わり、私に心を教えて」
そう告げたMEMORYの両手をユウシンはそっと握った。
子どもの頃、自分の手で組み合わせた歪な瓦礫の塊が自分に話しかけてはくれないかと、動き出して辛い現実から助けてくれないかと夢を見た時のことを何となく思い出した。
今目の前にいるMEMORYというロボットの少女は、その夢なのではないだろうか。それならば、自分の望みを叶えてくれたその夢が望むことを今度は自分が叶えてやりたい。
「わかった」
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