第8話 互いのことを知るために

 アミルを含めた数人の活動員は、早速翌日にはヤエトナの研究所へと足を踏み入れた。南東の住居区よりも人が多く住んでいて、そこには活気があった。というのも、南東には存在しない食べ物や衣類があったからだ。有害物質の影響を受けている様子もなく、子どもたちは楽しそうに研究所の傍で遊んでいた。



「アミルさん、ご質問があればお答えしますよ」



アミルは首筋に触れながらアルガに尋ねた。



「ここでの食料はどうしてるんすか。南東の住居区では保護区で育てている植物やその植物がつけた実を少しだけ収穫して食料に当てているんすけど…」


「我々もアミルさんたちと同じで、植物から食料を得ています。あなた方と異なる点は、我々は植物を一種のみ採取しただけなのです」



アミルは思わず「は?」とアルガを凝視した。

 こちらは真剣に話を聞いているのに、冗談を言われたのではないかと機嫌を損ねたアミルは棘のある言い方でアルガに疑問をぶつけた。



「一本の草から西方の住居区に住む人間全員の飯が賄えるとは思えないんすけど」


「ご説明いたします。ヤエトナ様を中心に私どもが開発した技術を用いて、その植物をコピーしたものをいくつか栽培します。ある程度育ったら、味、栄養素、水分量等々予め様々な調整を施したプログラムに沿って植物に育ってもらうのです」


「そんなやばいことが出来るんすね…」


「最新技術をもってすれば、可能です」



アルガは同じような植物が並ぶ室内から、プログラミングされて様々なかたちに姿を変えた植物たちの並ぶ部屋へとアミルを案内していく。



「この技術があれば、南東の住居区に住むみんなも腹いっぱい飯が食えるんすかねぇ」


「ヤエトナ様に頼めばそちらの保護区で管理されている植物にこの技術を施すことも可能ですが…そのお顔だと抵抗がおありのようですね」


「自然じゃないっていうか、ちょっと怖いんすよ。ロボットもそうっすけど、人間が新しいものを生み出したことによって助かることもあるのかもしれないっすけど、それによって起こる害みたいなものがないとは言えないっていうか」


「…理解しかねます。私は人間がよりよく生きるために必要な技術は今すぐにでも試用し、安全を確かめ、活用していくべきだと考えていますから」


「ああ、別にアルガさんに考えを押し付けてるわけじゃないんで、お気になさらずっす。それにサラはもっと違う反応をするかもしれないんで」


「大丈夫ですよ。アミル様のご意見は一意見として認識しています。あなた方の総意だと一括りにしたりはいたしませんよ」



 そこで見聞きしたこと、新しい技術がどのようなことに役立っているのかや、彼ら研究員について誤解していたことなどを知る。

 アミルは早速サラに研究所でのことを話し聞かせ、近々彼女も研究所に足を運ぶこととなった。



「この前は黙っていたが、咳が苦しでしたのでよろしければこれを」



サラは研究所に足を踏み入れるなりすぐに、アルガから最新技術を駆使して作られた薬を処方された。

 活動を始めてからずっと苦しんできた咳を止めることができるなんて思ってもみなかったので、サラはありがたくそれを受け取った。



「アミルさんにも、変色した肌を元に戻す塗り薬を処方させていただいています。あなた方が活動を続ける限り、有害物質の影響を受けることは避けられませんがこちらで少しでも健康のサポートが出来たらと思いまして…」


「お心遣いに感謝する」


「いえ。閣下のご指示ですから、お礼なら閣下に。では」



素っ気ない別れを告げてどこかへ向かおうとしたアルガだったが、勢いよく振り返り再びサラの元へ戻ってきた。



「ど、どうした。そんな恐ろしい顔をして」


「……せんでした」


「?すまない、聞き取れなかった。申し訳ないがもう一度言ってはくれな…」



サラの言葉を遮るようにアルガは大声を上げた。



「これまで少しも話を聞かずに追い返してしまってすみませんでしたッ。以上です」



どうやらその謝罪はヤエトナの指示のものではないらしく、アルガは顔を真っ赤にして今度こそどこかへ行ってしまった。

 サラは研究所で働く研究員が、西方住居区に住まう人々のために汗水たらして活動しているのを目の当たりにした。活動内容は異なっていても、自分たちが植物やロボットを守るために必死であるのと同じように、彼らもまた滅びへの道を辿りながらも尚生き延びている自分たちのような人間を守るために必死であるのだと知った。

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