第7話 ワタルとして、ヤエトナとして

 遠くからワタルが歩いてくるのがサラとアミルの目にも見えた。



「あいつ、心配かけさせやがって」


「遠くまで散歩に行くなら言ってほしかったっすよね。言ってくれたらついて行ったのに」



 急に姿を消したワタルを心配し活動を中断してまで探してくれていたサラとアミルは、西の方角からやって来るワタルの後ろに続く集団に息を呑んだ。

 ワタルを挟むようなかたちで対峙したサラたちとアルガたち。先に口を開いたのはサラだった。闘志を顕わにした瞳でワタルの後ろに整列する研究員たちを睨みつけた。



「ワタルを人質に取って、君たちの要求は一体なんだ」


「ワタルを返せっす」



今にも飛びかかりそうなアミルを制止し、ワタルは静かに事情を説明した。

 今朝二人に黙って西方の住居区の者たちに説得をしに向かったこと、そこで気分が悪くなったこと、そして記憶を取り戻し自分が西方住居区で活動する研究員のトップのヤエトナという人物であること。



「…記憶を取り戻したから沢山の仲間を連れて潰しに来たってことっすか」


「よせアミル」


「でもッ」


「話も聞かずに門前払いをしたら、私たちも彼らと同じになってしまう。話を聞こうアミル」



サラの判断に、渋々身を引くアミル。



「ワタル…ではないのか、ヤエトナといったか?。君はどうしてわざわざ私たちの元へ戻ってきた」


「これまで拒否していたのはこちらなのに今更と思われるかもしれないけれど、話し合いをしに来たんだ」



ヤエトナは記憶を失くしている間ワタルとして知ったサラたちの活動が素晴らしいものであると感じた。今まで自分たちが話し合いに応じずに追い返して、サラたちの行っている活動について知ろうともしなかった姿勢を恥じ、詫びた。

 ヤエトナが頭を下げると、アルガやユウシンを始めとした研究員たちもそれに倣い頭を深々と下げた。



「ワタ…すまない、慣れなくてな」


「ワタルでいいよ」


「誠意のある謝罪、受け入れよう」



頭を上げたワタルは笑顔になる。



「ありがとうサラ。俺たちがサラたちのことやみんなが行っている活動を誤解していたように、サラたちにも誤解があるんだ」



ヤエトナはサラに一つ提案をした。西方の住居区にある自分たちの研究所で何がどのような目的で行われているのかを見てみないかと。

 承諾したサラとは反対に、サラを彼らから隠すようにアミルが立ちはだかる。



「まだ信用したわけじゃないっす。言葉巧みにこっちのトップであるサラを騙してどうにかしようとしているだけかもしれないっすよね」



アミルの態度に「貴様ヤエトナ様に何という口の利き方を…」と青筋を立てるユウシンを制止したヤエトナは、少し切なげに目を細めた。



「アミルの懸念は最もだよ。もしユウシンが同じ立場でも、同じことを言うんじゃない?」


「ですが…」



アミルはただ提案を断るのではなく、サラの代わりに自分がまずはヤエトナたちの活動を見に行くと宣言した。もし自分の身に何かあればサラはヤエトナたちを信用しない判断を下せるし、自分がいなくなったくらいでは自分たちの活動に支障は出ないからというのが理由らしい。



「アミルの言い分はわかった。私ではなくアミルがヤエトナの活動を見に行くことにも反対はしない。だが、君がいなくなったら私は活動を続けられない。アミルは私の大切な仲間だからな」


「サラ…ごめんっす」

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