第6話 取り戻した記憶
目が覚めると、どこか見覚えのある天井があった。
「か、閣下ッ…」
なぜだろう。
「よくぞご無事で」
この鼻水をたらしながら号泣している部下を、俺はよく知っている…気がする。
「泣くなアルガ。俺は大丈夫だから」
どうしてこの青年の名前がすんなりと出てきたのか。今思えば先に俺をここまで運んだ少年の名もわかる、ユウシンだ。
あるひとつの仮説が思い浮かび、そうであってほしくないと願いながら尋ねる。
「おかしなことを頼んでもいいかな」
「ええ勿論でございます」
「俺の名前を呼び、俺がどんな人物かも話してくれ」
「かしこまりました、ヤエトナ様」
――ヤエトナ。
アルガは語った。ヤエトナは西方の住居区での最高権力者で、人々のためにできるだけ住みやすい環境に近づけるべく誰よりも奮闘している人物なのだと。現時点では、有害物質を発している壊れた機械の山々を正装する機械の運営、西方の住居区で生活をする者たちの毎日の食糧を生産するのに必要な新しい技術の開発を成し遂げた実績があるそうだ。
彼の話を聞いて、全てを思い出した。俺は、そのヤエトナだ。
「心配をかけてすまなかったね」
「謝らなくてはならないのは私の方でございます。閣下の行方がわからなくなってしまった日の朝、私は南東に住居区を持つわけのわからない集団が話し合いに応じろとしつこいのだと閣下にこぼしてしまいました。そうしたら閣下自ら「俺は彼らに面が割れてないから」と仰って、得体のしれない彼らの素性を調べるために潜入へと向かわれてしまった。お出かけになられた数時間後には行方がわからなくなってしまって…全て私の力不足のせいでございます。閣下に余計なお手を煩わせてしまった挙句、その身を危険に晒してしまった」
「自分を責めるのはもうおしまい。恐らく瓦礫の山の足場が崩れて頭を強く打ったんだ。俺のヘマだよ」
「と、とんでもありませんッ。それもこれも私のせいでございます…なんてお詫びを申し上げたらいいのか」
「涙を拭きなよ、俺はアルガのせいだと思ってないから。それより、今日の仕事を終えたら全研究員を集めてくれるかな」
「それは構いませんが…」
「ありがとう。とりあえずそれまで少し…眠…らせ…」
眠ってしまったヤエトナを見て、アルガは指を鳴らした。
「お呼びですか、アルガ様」
「そこで聞いていたんでしょう?。全研究員へ閣下のご帰還と今頂いたご指示の伝達をお願いします。私は閣下に何か温かい食事を用意しますから」
「承知いたしました」
ワタルはアルガやユウシンを始めとした沢山の部下に、記憶を失い南東で活動する得体のしれない集団――サラたちの活動に加わっていたこと、そこで見聞きし体験して感じたことについて話し聞かせる。
これまで知り得なかった彼らの活動は、地球に僅かに残された植物や先人が残したロボットたちの保護であることを説明した。自分たちもまた彼らを誤解していたように、彼らもまた自分たちを誤解していることも伝える。
それでもまだ現実味がなく、不安そうな顔をする部下たちを連れてワタル――ヤエトナはサラやアミルのいる南東の住居区を目指した。
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