第5話 見覚えのある光景

 翌日朝早く、サラとアミルとは別行動で外出した。今日も活動へ出掛けると言う二人に、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないからと散歩をしてくると告げて。

 嘘ではなかった。サラやアミルたち活動員の行動範囲である区域では何かを思い出せそうになることはなかった。そうなると、普段は行かない区域へ行ってみることで、失ってしまった記憶を刺激する何かがあるかもしれないからだ。



「…西へ行ってみよう」



まだその瓦礫の山の中でロボットたちが助っ人を待っているかもしれないという懸念すらないのか、瓦礫はきれいに道端へと避けられ、瓦礫を粉々に粉砕する大きな機械が通った後、それを掃除する車が通っている。その機械から弾かれた瓦礫を拾うと、小さな鳥型ロボットの頭部だった。目から映し出されているのは、あの瓦礫を粉砕している巨大な機械が迫り来る中身動きが取れずにどんどん粉砕機の刃が迫り来る映像だった。少しすると映像はプツリと消えてしまった。



「なんて惨いことを…」



この鳥型のロボットは恐らくMEMORYやMemories1と同じ記憶媒体型ロボットだったのだろう。自らが砕かれ瓦礫の一部と化する直前まで。自身の存在理由である記憶をいかなる時もしなければならないように造られたロボット。この鳥型ロボットに恐怖はあったのだろうか。考えた途端、腹からせり上がってきたものを足元に戻してしまった。壊れたり、バッテリーがなくならない限り、自らログアウト出来ない仕組みを造ったのも人間、そして今この鳥型ロボットを壊した《ころした》のもまた人間。動じることなく今も道を走る巨大な粉砕機の装甲には、西方の住居区の紋章。



「行かなきゃ」



ワタルは鳥型ロボットの胴体部分を懸命に探したがみつけることが出来ず、泣く泣く東部だけを胸ポケットにしまい、西方にある住居区へ向かった。

 その最中、ワタルは二つのことを感じた。

 一つは、粉砕され道端にきれいに積み重なった瓦礫が全て先の鳥型ロボットと同じように瓦礫の山に埋もれてしまっていたロボットたちに見えて、生温かい風が吹く度にその残骸から嘆きや悲痛なシャットダウンやエラー音が聞こえてくる気がした。

 もう一つは、この悲惨は光景に見覚えがあることだった。

 妙な胸騒ぎに、やたらと乾く喉。サラやアミルのいる住居区へ引き返そうと思い立った――その時。声をかけられた。



「閣下…閣下ではありませんかッ」



振り返ると、安堵しきった様子のまだ幼さの残る少年が駆け寄ってきた。



「顔色が悪いです、真っ青じゃないですか。ただちに本部へ戻りましょう。歩行がお辛いようでしたら私がおぶらせていただきます」



ワタルは戸惑いながらそれを断ろうとするも、まだ続いている気持ち悪さと突然の頭痛で話すことが出来ない。



「いつもなら許可をいただくのですが…緊急事態ですから、失礼いたします」



小さな体躯に背負われると、ワタルはそのまま意識を手放した。

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