第4話 西方の者たち

 アミルと住居区に戻りながら、ついため息を吐いてしまう。



「疲れたっすか」


「それもあるけど、今のは違くて…」



胸の当たりをおさえながら話していたMEMORYのことを思い出す。



「MEMORYみたいな子…ロボットは他にも沢山?」


「いるっす。この建物で住んで《保護して》るロボットでもかなりの数なんすけど、まだ発見出来てないロボットも含めたら全体数はわからないっすね」



憤りを隠せずにそう話すアミルはけれど明るく振舞いながら話を続けた。



「先人たちは新しい技術ばかりを求め、生み出して来たんす。環境の変化に適応出来ずに多くが死んだ人間の代わりに、居場所や存在意義を失ったロボットたちが何もない地に残された。自分の祖先を悪くは言いたくないっすけど、先人たちは後先考えずに生きてたんすかね」



話によると、この建物はまさしく病院のようなもので、サラやアミルを始めとした活動員たちが交代制でロボットたちの様子をみに来ているらしい。

 壊れてしまったロボットには、瓦礫の山から壊れたパーツに代わる物やバッテリーといった物を探しに行って交換作業を行うという。



「MEMORYちゃんみたいな記憶媒体型ロボットでデータの保持を希望したロボットは、どういうメカニズムかはわからないんすけど、心が生まれる。その心のケアなんかもしますね」


「そうなんだ。先人たちは彼らがそういう思いをすることがわかっていながら彼らを造り出していたのかな?」


「さぁ、さっぱりわからないっす。ただ、苦しんでるロボットがいるのは事実ってことっすよ」



アミルは変色した首筋をかきむしりながら言う。変色した肌について尋ねると、これは機械の油や壊れた機械から出ている有害物質によるものらしく、どうにも出来ないのだと彼は苦笑した。



「サラの咳も同じようなもんっす。この活動をしている限り、有害物質の影響はどうしても受けるみたいで」


「そう…」



 サラもアミルと同じ憤りを覚えながらも、彼らの未来についても目を向けることの方に気持ちを切り替えようと努めているのだと教えてくれた。


 ある日の就寝前。サラは洗浄済みの水を温めたものをコップに注ぎながら、ロボットたちについて教えてくれた。



「私もアミルも憤るだけ、彼らを保護するだけではだめだと思った。先人たちと同じ人間として、今度は無責任に生み出すのではなく、彼らのこれからについて彼らと一緒に考えていくことにしたんだ。難しいことだけれどね」



サラは苦しそうに咳込みながら苦笑した。

 全く気がつかなったけど、活動員の中にはMEMORYと同じような記憶媒体型ロボットも一員として活動していたり、重機型ロボットは瓦礫の山を片付けるのを手伝い新たな保護区を作るのを手伝ってくれていたりするそうだ。



「私たち人間と同じ仕組みで動いたり、考えたり、感じたり、生きていたりするわけではないが、人間とは異なる仕組みで彼らもまた動き、考え、感じ、生きているんだ」


「ま、新しい技術を生み出すことばかりで、ロボットを瓦礫と同一視して、儚く咲く花も平気で踏み潰すようなやつらもいるっすけどねぇ~」



アミルの刺々しい物言いに、サラも険しい表情になる。



「そんな人たちが?」


「まあな。ライゼルサの主に西方に住居区を持つ者たちで、私たちとは折り合いが悪い」


「あいつらのやってることは先人たちと同じっす。このままじゃ地球ごとなくなる。そう説明しても聞く耳を持たないどころか、気に食わないのか嫌がらせをしてくる始末っすよ」


「落ち着けアミル。ワタルに当たるな」



はっとした様子のアミルは申し訳なさそうにコップに口をつけた。



「どうすることも出来ないの?」


「話し合いを求めても、代表に会わせてもらえないからね」


「そう…。もどかしいね」


「あいつらに私たちと同じ活動をしろと言うつもりはないんだ。こうして健康にも被害が出る活動だ。無理強いは出来ない。ただ話し合いがしたいだけなんだがな」


「今のところは望み薄っすねぇ」



活動員としてここにおいてもらってからまだ数日しかたっていないけれど、俺も二人と同じように憤りを覚えて、その西方に住居区を持つ人たちに交渉が出来ないかと思った。そこでひとついい案が思い浮かぶ。



「まだここの活動員だと思われていない俺なら…」


「ワタル、今何か言ったっすか?」


「ううん、何も。俺はもう眠るよ」


「私たちもそろそろ就寝しないと明日に響く、消灯するぞ。おやすみ」



活動員とみなされていない俺なら、話し合いの場を設けてもらえるかもしれない。

 ワタルはそんなことを思いながら、アミルのいびきとサラの寝息を子守歌にところどころ破れた毛布にくるまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る