第8話 日本酒の完成、そして大商人が現れる
翌朝起きると、一晩置いたお米を送風で乾かす。そして細かい木の箱に入れて平らにならした。
この過程でも、リヒトは魔法を使った。三日間も乾かす必要があるということで、エミリーが小さな送風機を召喚してあげた。
リヒトの魔法の方が送風機よりも効率がよかったから、リヒトの休憩中だけ送風機で乾かすことにした。
麹からは栗のような甘い香りが漂っている。
――うーん……栗ごはんが食べたいっ!
そして完成した麹を除湿した後に、麹とリトジャ島の恵みの水を合わせる。そして水と麹を擦り合わせる。これがお酒造りの素になるものだ。これが出来上がるまで14日ほどかかる。
「
リヒトは適切な温度に保てるように魔法で計っている。こんな杜氏はリヒトだけだ。
お酒の素ができたら、水、麹、蒸し米を三回に分けて入れこんでいく。その間、リヒトは
そうしているうちに、樽の中のお酒の素がぶくぶくと白い泡を吹いてきた。
そんな時、ヨシノがやってきた。
「先輩、ずっとリヒトと同棲状態じゃないですか!」
そうなのだ。エミリーがお酒造りに参戦してから、50日以上経過している。季節もどんどんと肌寒くなってきた。
日本酒が気になり過ぎて、家に帰るのを忘れていた。その都度ヨシノには知らせていたのだが。
「それにしてもすごいいい香り! お米の洗練された香りがしますね!」
飲兵衛のヨシノが鼻をひくひくさせている。
「もうこの辺りにきたら完成だ。エミリーも家に帰っていいよ」
リヒトはそう言うと、ヨシノが「はぁ?」と気色ばんだ。
「先輩をここまでこき使っておいて、肝心の出来たては飲ませないつもり!?」
もちろんヨシノもそれが目当てで来たに違いない。
「……もちろん二人に飲んでもらうよ」
リヒトも苦笑している。そしてヨシノは目を輝かせてエミリーに言う。
「ああ言ってるってことは、もうリヒトはソロで出来るってことね? ねぇ、先輩。ここの島の近辺、何が取れるか知ってます? 知らないでしょー? 答えはイカです!」
クイズを出しておいて自分で勝手に正解を言うヨシノ。するとリヒトもおおっ! と歓声をあげる。
「日本酒と言えば~?」
「「塩辛!!」」
エミリーとリヒトは同時に答えを言う。
「よし、夜が明ける前に私とヨシノでイカを釣ってくるよ。リヒトは最後の仕上げをよろしくね!」
そしてエミリーはヨシノと共にリヒトの家に泊まり、夜が明ける前にイカ釣りへと出かけた。
◇◆◇
「段々と冷え込んでくるね。そろそろ雪が降り始めるんじゃない?」
「温泉の季節ですねぇ」
そんなことを話しながらイカを釣っていく。新鮮なイカだから身が透明だ。そんな美味しそうなイカを見ていたら、ますます酒が欲しくなるというものだ。
こんなに透明で美味しそうだし、お刺身にしてもいいかもしれない、とエミリーは思う。
イカに思いを馳せていたら、沖から小さな船がこちらに向かってくるのが見えた。
「あれは王家と公爵家の船ではなさそうですね。また怪しいのが来ましたよ」
ヨシノが嫌そうな顔をする。
「どうしようか。警備兵を呼んでくる?」
女二人で対峙するのは怖すぎる。リヒトの家の近所に住んでもらっている警備兵を何人か呼ぶことにした。
警備兵が見守る中、船はだんだんと近づいてくる。砂浜によっこらせ、と船を置いて、二人組の壮年の男性がこちらに歩いてくる。
警備兵はエミリー達を守るように前に出た。そんな警備兵を見て、男性達は怯えることもなく笑顔だ。
「怪しいものじゃないんですよ、エミリー様、ヨシノ様」
エミリー達の名は既に知っているようだ。
「私はこちらのファラユース王国の隣のライブリー王国に住む、商会を営むクリス・アンダーソンといいます。私もまた、貴方達と同じ日本人の記憶を持っています」
なんと。リヒトと同じパターンかと、エミリーもヨシノも驚くよりも呆れてしまった。
「……なんでこんなに日本人多いの?」
「もしかすると、日本人以外の転生者もいるのかもしれないですよ? でもリトジャ島の評判がThe・ジャパンだから、日本人がたまたま来ちゃってるだけで」
ヨシノがそう言うと、そのとおりとばかりにクリスが頷く。
「そうなんです! 実はうちの使用人であるこっちの彼はオーストラリア人の記憶を持っています。日本の温泉が好きでよく来日してたって言ってたんですよ~」
こっちの彼、と呼ばれた人物も前に出る。
「日本の温泉、そしてパウダースノーは最高ですよ。オーストラリアと日本は季節が逆ですからね。夏に日本に来て、スノボーやって温泉入って日本酒クイッが楽しみだったのです。あぁ……懐かしい。そしてそれがまた味わえるなんて! あ、私はクリスの部下であるピーター・アルモンドと申します」
まくしたてるように喋るピーターの言葉に引っ掛かりを覚える。
また味わえるなんてとは……。
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