第6話 二度目の米の収穫と日本酒造り

 季節は巡り、またお米の収穫シーズンとなった。今回も聖女・ヨシノのおかげで豊作だ。


 今回はリヒトも参戦してくれたおかげで、ローソン家の警備兵達は随分と楽ができたようだ。意外なことに無尽蔵の体力で一気に刈り取ってくれる。


「意外に役に立ってくれてるね」


 改めてそう言うと、ヨシノは面白くなさそうにツンとしている。


「先輩が年下好きだとは思いませんでした!」


「へ?」


「リヒトを気に入ってるんですよね? でもあの人、オッサンですからね! 見た目に騙されちゃダメ!」


「別にそういう意味で気に入ってるんじゃないわよ。それに年下といっても一個下なだけじゃない」


 ヨシノは焼きもちを焼いているようだけどエミリーは知っている。


――自分だって気になる人いるじゃないの。ほら来た。


 王家の船に乗ってやってきたのはファラユース王国の第二王子――現在の王太子だ。正式にダニエルは廃太子となってしまったのである。


「ヨシノ、エミリー嬢、僕達も手伝うよ」


 なんと王子自ら稲刈りの手伝いを買って出てくれる。ダニエルとは偉い違いである。あまり農民ファッションが似合うとは思えないのだが。


 エミリーはそっと席を外そうとする。


「先輩、どこ行くんですか?」


「ちょっとそこまで。あんたはイアン王子の相手してあげなさいよ。稲まみれになると後々身体がかゆくなるからね」


「な、なんでですかっ! それにイアン王子の相手は先輩がすればいいじゃないですかッ!」


「私は王子様はコリゴリなのよ。王子様の相手するくらいなら、見た目は美少年で中身はオッサンのほうがいいの」


――自分こそ年下好きじゃないの。まったく……。


 イアン王子も16歳。そしてイアン王子もヨシノのことが好きなのだ。イアン王子のことは子供の頃から知っているが、仕えている人達への思いやりも忘れない優しい性格である。


 ヨシノがここまでこの島の運営に王家の力を引っ張ってこれるのはイアン王子のおかげでもある。エミリーはその場を離れ、リヒトの小屋へと移動した。


 

 リヒトは水車を作り、水を引いて水車精米を行っていた。意外と器用な男である。


「あ! エミリー、お米の提供ありがとう」


 人懐っこい笑顔で微笑んでくる。多少怪しくても鑑賞用にはいい生き物だとエミリーは思うことにする。


「食用米だしどこまで削れるかわかんないんだけど、60%は削りたいな。最近では食用米でもいい酒作ってる蔵もあるし、全力を尽くしてみるよ」


「私も手伝いたい。実はリヒトが来なくても日本酒造りには挑戦してみたいと思ってたの」


 やはり召喚するだけでなく、作ってみたいと言うのが飲兵衛の心だ。


「お互い飲兵衛だねぇ……ところで、エミリーにお願いがあるんだ」


「なに?」


「きょうかい酵母777号※を召喚してほしいんだ。○▼酒造でそれを使っていたから」


「わかったわ。でも私達、お互い17歳と16歳なのに、お酒作って飲んでいいのかしらね」


「今さら何を言ってるの? 郷に入っては郷に従えと言うじゃないか。ここは15歳で成人なんだからいいの。サムライだって15歳から酒飲んでたしね」


 リヒトの強引な理屈でとりあえず酒造りに突っ走ることにした。



◇◆◇



 エミリーとリヒトは精米を終えた米を水で丁寧に洗う。


「なんか大量のお米を炊飯するみたいね」


「……この辺りは○▼酒造では機械でやってたんだよね。手作業だと大変だからちょっと横着してみよう」


 リヒトは水の中に魔法で風を起こし、高速で米を洗っていく。


「そういやリヒトは魔法剣士って言ってたわよね? それって魔法と剣両方使える人ってこと?」


「そうそう。器用貧乏であんまり強くないんだけどね。俺は庶民出身だから魔法もちょっとしか使えないし。てへっ」


――てへっ。じゃねーよ。


 いつしかヨシノが突っ込んだように心の中で突っ込んでみる。庶民出身はどうも嘘くさいのだ。


 


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※架空の酵母です。本当は種麹から作る工程を書きたかったのですが思いの他資料がなく諦めました……本当に日本酒造りは長い年月をかけて作り上げた複雑かつ高度な技術で支えられているのですね!


なお、お酒の作り方はこちらのページを参考にいたしました。

https://www.gakken.jp/kagakusouken/spread/oedo/04/kaisetsu2.html

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