第3話 リトルジャパン召喚!
結局、王家とローソン家で話し合いが持たれ、フェリックス島はローソン家の領地として下げ渡されることが決定した。
あの卒業記念パーティーで、ダニエルの悪行がヨシノによって暴露されてしまったことが大きい。加えて、ローソン公爵家当主であるエミリーの父は富士山が噴火するほどの激怒を見せた。
ファラユース王国の筆頭公爵家であるローソン家の圧力によって、ダニエルはそう遠くない未来に廃太子になるであろう。
そして、エミリーは傷心の傷を癒す……という名目でフェリックス島へ滞在している。王家からは第二王子との婚約を打診されたがお断りした。
――もう男はこりごりなのよね。
「先輩、私が水魔法と土魔法を駆使して、水路を引いて土を耕し田んぼをつくってみました。どうでしょう?」
「……で、私が稲を召喚するわけね」
なぜか聖女である川村――ヨシノまでフェリックス島に住み着いてしまった。
エミリーとヨシノは令嬢としてのドレスを脱ぎ棄て、農民衣装を膝までズボンを捲っている。農民が履く長靴を身にまとい、ばしゃばしゃと田んぼの中に入っていく。
そして手に力を込める。ヒロインを毒殺するための毒薬を召喚するために付けてあげたスキルがこんなところで役に立つとは。
緑に輝く稲の苗が掌に現れる。それをひとつひとつ丁寧に植えていく。骨の折れる作業ではあるものの、スローライフだと思えば楽しいものだ。
エミリーはヨシノにも手伝ってもらおうと両手でどんどんと稲の苗を召喚していく。二人で協力しながら15日ほどで一面の田んぼの苗を植えることができた。
「次にリトルジャパンときたら温泉じゃないですか? この地を掘り出せば、なかなかいい温泉が湧きそうですよ!」
またヨシノが聖女のチート魔法である土と水の魔法を駆使して、温泉を掘り当て、二人が入れるように整備する。そしてエミリーが召喚魔術でケロリン、風呂椅子、石鹸、シャンプーとコンディショナーを召喚する。これは生前佐伯恵理が愛用していたお風呂道具である。
「やっべぇ……残業もなしにこんな温泉に入れるなんて」
ヨシノがしみじみと温泉に入りながら蕩けるような表情だ。
「私も幸せだよ。こうやって自分のペースで農業やって、温泉入って。もう締め切りもお妃教育もなく、興味のない男に媚びを売ることもなく……すべてから解放されたんだぁぁ~」
前世でも今世でも手に入らなかった暮らしがここで手に入った。本当に前世でヒロインと悪役令嬢に付けた特殊スキルと、そしてエミリーを追いかけてきてくれたヨシノに感謝しかない。
「ヨシノ……あんたが前世でのこと、気に病むことないんだからね。こうやって幸せを手に出来たし、あんたには感謝しかないんだから」
改めてヨシノに感謝を述べる。ヨシノはもしかすると、この世界の創造主であるエミリーのためにこの世界に召喚されたのかもしれない。王家のためではなく――。
「先輩からそう言ってもらえると嬉しいです。私も社畜のように働かされる生活から解放されて幸せです」
ヨシノは相変わらず先輩、と呼ぶが、エミリーは川村、からヨシノに変えた。ヨシノは元の世界でも川村の本名だったから、二人の関係は前世とは何も変わっていなかった。
ローソン家の財力とヨシノが王家を引っ張りこんでくれたおかげで快適に過ごしながら、フェリックス島は徐々にリトルジャパンの体裁を整えていく。
日本料理には欠かせない味噌、醤油の原材料となる大豆、小麦の栽培も始め、日本の最新鋭の釣り道具も召喚し、魚も大量に釣れるようになった。
小川には沢わさびの苗を植える。お寿司に載せるためだ。
庭には梅、栗、ミカンの苗を植えていく。
ダニエルがすり替えたロバも元気に島の移動手段となってくれて、たまに草も食べてくれる。
草が各地にぼうぼうと生えていたけれど、ヨシノの土魔法と、公爵家と王家の兵士達によって徐々に整えられていった。
そしていよいよ収穫の時。鍬を召喚し、またヨシノと、公爵家と王家の兵士にも手伝ってもらい今度は4日で収穫を終えることができた。
ロバも大活躍した。
醤油は大豆と小麦から作るのだが、作り方がわからなかったため、また江戸時代の生活の知恵、という本を召喚し、江戸時代の方法で醤油を作り上げていく。
手伝ってくれた兵士さんにもお寿司を味わってもらいたくて、兵士さん達の人数分、釣り竿を召喚した。
土鍋も召喚し、米を炊く。そして日本の包丁も召喚し、釣った魚を捌いていく。この世界にも鍋と包丁くらいはあるのだが、やはり日本の道具が一番使いやすい。
そして寿司酢だ。酢は造れなかったからこれまた召喚した。
そしてヨシノに教わりながら、シャリを握っていく。回転寿司屋のバイト仕込みではあったものの、もう二度と味わえないと思っていた寿司が完成した。
「これが聖女様がいらっしゃったジャパンという国の食べ物ですかぁ~」
しかし何かが足りない。そう、日本酒だ。日本の有名な日本酒も召喚し、兵士達に振る舞う。
「くぅぅ~。こんな飲みもの初めて飲みましたぁぁぁぁ」
べろんべろんになった兵士達はご満悦なご様子だった。
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