第16話 ダンジョンは終わり

 俺が物資を奪った結果か、聖堂騎士団は再度物資を調達しムキになってダンジョンに挑んでいた。冒険者が物資を奪ったと難癖を付けてダンジョンの入口を封鎖し冒険者を中に入れないという暴挙にまで出ていた。

 こんなダンジョンなら必要無かろうと俺はダンジョンコアを回収する事に躊躇いを感じなくなっていた。


 冒険者を排除した聖堂騎士団は、通路を見張っていた団員を戦闘に参加させて、8階層まで活動を広げていた。

 俺は10階層からまた、魔物を殲滅しながら100階層まで進み、硬貨でガチャを引いてドロップ品をマーニの収納に保管したあと、ダンジョンコアも収納に収めてもらった。


 コアが収納に収まった瞬間、ダンジョン内を薄く照らしていた光が消えて真っ暗になった。そのあとゴゴゴゴゴという地鳴りのような音が響いたので、急いでマーニの瞬間移動で外に出た。

 案の定コアが無くなりダンジョンでは無くなったおかげで、同階層の中でしか瞬間移動出来ないという縛りが無くなっていて一気に外まで飛べるようになっていた。


 地鳴りは10分以上続いていたと思う。ダンジョンの祠があった周囲は深さ100m以上ある大きな穴になっていた。

 ダンジョンの祠の周囲に冒険者をちかづけないよう見張っていた聖堂騎士団員達もその穴に落ちたらしくその場には居なくなっていた。


 生きているのか微かに動いている聖堂騎士団員が数名穴の下に見えた。原型を留めず血溜まりや肉塊になっているだけの聖堂騎士団員も多く見えていて、生きているのはかなりの奇跡的な事なんだと分かった。


 ダンジョンの空間の真上は、建物の建築が制限されていたため、昼間は移動の屋台街になっていたけてど、今は冒険者がやって来ない事に屋台が聖堂騎士団相手の営業をボイコットしており撤収されていた。そして聖堂騎士団はそこに天幕を張り、ファンジョン物資貯蔵地に変えて占拠するような状態になっていた。

 またダンジョンコアを収納したタイミングが深夜を超えていた事で抗議のために近寄る冒険者も居なかったため、騎士団員以外の巻き込まれも起きずに済んだ。

 聖獣と共に配置しているトールとエリにポーションを持たせていたけれど、出番が無く済んだ。


「なんだこりゃ!」

「みろよこの穴・・・すんげぇ深そうだぞ」

「聖堂騎士の奴らはこの下か?」

「降りてみるか?」

「すぐには無理だ、朝が来ねぇと危ねぇ」


 俺は妖精になった事で、星明り程度でもかなり見えるようになっているけれど、人間である冒険者達には夜間であるため穴の底までは見ることが出来ないみたいだった。


「とりあえず穴の周りに篝火を炊いてバリケードをつくれ、土魔法使える奴に頼め、下手したら落ちるやつが出てくるぞ」

「ガイさんなら家に居るはずです、ララの居場所を知ってる奴が居たら呼んで来て下さい」

「私知ってるから行ってきます」

「降りる時、長いロープが必要になるぞ」

「ギルドに縄梯子があったはずだ」


 冒険者ギルドが現場の指揮を取り、人が集められ、物資が集められていった。俺とマーニはトールとエリを動かし、聖堂騎士団の集積場から奪っていた長いロープと食料を詰めておいた木箱を置いていった。


 出店をボイコットしていた屋台の店主達が大鍋を持ち出して来て炊き出しが始まった。

 炊き出しは、バリケードと篝火の設置を手伝った人だけでなく野次馬にも配られていった。聖堂騎士団によって稼ぎが無くなり、食いっぱぐれていた冒険者達が多かったようで非常に喜ばれていた。


「こんな大量の食料誰が差し入れたんだ?」

「金髪の兄ちゃんと黒髪の姉ちゃんが運んでたのを見たな」

「誰かわからねぇがありがてぇ」

「お代わりまだまだあるからな、スラムの奴らに声かけても大丈夫なぐらいだぞ」

「これをトクワとデミの所に持っていってくれ、豚顔にやられて食いっぱぐれて居る筈だ」

「俺が行ってくる、デミは俺を庇って怪我したんだ」

「こんな良い肉使って良いのかよ、これ多分ミル牛のロースだぞ?」

「置いてても腐るだけだ、使っちまえ」

「この箱全部堅焼きパンだぞ! 一箱で50食分はある」

「配れ配れ! お大尽からの差し入れだ!」

「これって奪われたっていう騎士団の物資って奴じゃねぇのか?」

「そうか?俺にはただのパンと肉にしか見えねぇな」

「腹に入れちまえば同じだ」

「2箱は孤児院に持っていくぞ」

「それなら院長に、明るくなったらガキども連れて食べに来いと伝えて来てくれ」

「わかったぜ」

「野次馬は酒盛りするのは良いが穴に近づいて落ちるなよ!」


 炊き出しは大盛況のようだった。


「ダンジョンは終わりですかね」

「多分な・・・」

「王都のギルドはどうします?」

「ダンジョンが無い街と同じ事をするだけだ」

「人・・・減りますね・・・」

「仕方あるまい・・・」


 指揮を取っていたギルド長と受付嬢がダンジョン探索に寄っていた王都の冒険者ギルドを今後どうしていくかの話を始めていた。

 魔物討伐や採取や運搬や護衛や捜し物や戦闘訓練の指導。ダンジョンが無い他の街の冒険者はそんな仕事をする人ばかりだ。


「他にもダンジョンって無いんですかね」

「ダンジョンは聖女と勇者を鍛えるためにエッダ様が作られたと言われている、エッダ様の御子である光の妖精様が居なくなっても復活されたように、ダンジョンも復活するのではとは思う」

「帝国に誕生してくれないですかね」

「キャシーは帝国出身だったか」

「えぇ、種族差別の無い良い国ですよ」

「あぁそうだな・・・」


 王国の冒険ギルドの職員でも帝国の方が良い国って思うんだな。こりゃあトールとエリが向かう先は決まりかな。


「ここの責任者は誰かっ!」


 王国騎士団の旗を持つ騎馬3名が炊き出しを行なっている現場にやってきて、誰何の声をあげた。


「冒険者ギルド長をしているレギン・アド・ザブロです」

「馬上より失礼しました」

「いえ、お勤めご苦労さまです」


 ギルド長は姓があるので貴族だ。そのため騎士団の代表のドスンの言葉が平民に対するものから丁寧なものに変わった。馬から降り、隊員にも降りさせてからギルド長に対峙した。


『ゲームの攻略対象よ』

『そういえば居たね、爆炎弾のレギンか・・・』


 ギルド長は妙にイケメンで真っ赤な髪が目立っているなと思っていたけれど、ゲームの攻略対象故のイケメンだったらしい。


「第四騎士団副団長で本調査隊の隊長をしているサウロス・ザラシアです、この騒ぎは何ですか?」

「ダンジョンの方から地鳴りと揺れを感じたので様子を見に来たら巨大な穴が開いておりました。人が落ちたら危険と思いバリケードと篝火を作っております。炊き出しは作業員達のために持ち寄ったもので作っています」

「聖堂騎士団はどこに?」

「分かりません、我々が来たときにはおりませんでした。おそらく穴の中にいるのではないでしょうか」

「降りて様子を見たものは居ませんか?」

「相当深そうな穴です。暗い中で降りるのは無理と判断しました」

「そうでありますか・・・情報感謝いたします」


 隊長のサウロスは部下を1名とその場に残ると、残り1名に団長に情報を伝えるように言って帰らせた。馬の手綱を、冒険者達が作ったバリケードに括ると、火魔法で足元を照らしながら穴の縁まで歩いて行った。


「騎士の方も食べてください、体があったまります、隊長さんにも是非どうぞ」

「お気遣い感謝する」


 炊き出しを配っていた人の一人が、隊長の部下に炊き出しの椀を差し出していた。妖精となった俺にはあまり感じないが、夜明け前という事もあり少し冷え込んでいるようだった。

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