第14話 乙女ゲームの世界
『ここってゲーム世界じゃないの?』
『しーっ! 筆者にまだ伝えて無いんだから言っちゃ駄目っ!』
『えっ?まだそれ続けてるの?』
『当たり前だろ? ゲーム世界に転生したなんてゲームは聞いたことが無いけれど、カクヨム系とかエロアニメではありふれた設定だったしな、キモデブニートの筆者みたいな奴がシコシコ書いてる可能性がますます高くなってるだろ?』
『確かに・・・』
『聖女と魔王が出てくる世界・・・多分ここは乙女ゲームの世界を舞台にしたネット小説の世界だと思うよ』
『勇者と魔王が出てくるしRPG転生じゃないの?』
『その可能性もあるけど勇者が7人だろ?逆ハールートありの乙女ゲームの可能性が高いな』
『なるほど・・・』
『魔王もイケメンで、2周目以降の裏ルートの攻略対象とかだったりしそうだぞ』
『そう言われるとそんな気もするね』
『聖女が転生者だし悪役令嬢側も転生者で逆転ざまぁ返しするカクヨム系小説に良くある奴かもしれない。光と闇の妖精である俺やマーニが転生者ってのが良く分からないけど、その辺は少し変化球気味のカクヨム系が書かれているってあたりだろ』
孤児院を離れたあとはスマホでネット小説を読むのが趣味になってたしな。特に利用していたカクヨム系の事は詳しいんだ。
『ソール・・・私に言っちゃ駄目って言った割には説明し過ぎじゃないの?』
『えっ?・・・あっ!・・・し・・・しまったぁぁぁぁっ!』
『うわっ! ちょっと念話のボリューム下げてっ!』
『どどどどどどうしようっ!?』
「ちょっと!どが多いっ!あとドサクサに紛れて胸を触って来るなっ!」
『痛いっ・・・殴ったね?』
『ちょっ!トールにエリの胸を触らせるのも無しっ!』
『2度もぶった! 母ちゃんにもぶたれたことないのに!』
『結構叩かれてたでしょ・・・シズカさんにもスカートをめくる度にコメカミグリグリもされてたでしょ』
『殴られた時の慣用句だから気にするな』
『慣用句?』
マーニも俺と同じものを見ていた記憶があるのなら覚えている筈だけど、ロボットアニメには興味が無かったのかな?
『それよりどうしようか?』
『何が?』
『キモデブニートの筆者に伝えすぎた事だよ』
『その話に戻るの?』
『大事な事だろ』
『何か困る事でもあるの?』
『筆者の向こうにいる読者にネタバレした時に「な、なんだってぇぇぇ、かっこマガジンマーク」って思わせられないだろ?』
『その辺は私達も初めて気がついたっていう演技すれば、筆者って人がその変をうまく書くんじゃない?』
『なるほど・・・そうするしか無いか・・・』
かっこマガジンマークをスルーされて寂しいです。
『いい加減トールでエリの胸を触るのやめて貰える?』
『こうやっていると考えてると冷静になれるんだ、それに揉んで無いから良いだろう』
『いや揉んでるでしょ!?思いっきり揉んでるでしょ!』
『しーっ! その辺はマーニが言わなければ文字でしか伝えられないキモデブニートには読者に伝えられないってシステムになってるからっ!』
『えっ?私が怒られる流れなの?それにシステムって何?』
『こういうシステムって言っておけばドMのキモデブニートは従うものなんだよ』
『そうなんだ・・・私にはその辺は良くわからない・・・』
『その辺は俺がフォローするから大丈夫だ』
『分かった・・・それでいつエリからトールを離して貰えるの?ふわっ!』
『ほら・・・こうされるの好きだろ?』
『うん・・・』
『マーニも離れて無いでこっちおいで』
『うん・・・』
こうして俺はマーニの頭をめっちゃ撫でながら、トールの体でもエリの頭を優しく撫で続けた。
△△△
『多分スコルが書いてた紙に乙女ゲームの内容が書かれていると思うんだ』
『うん・・・』
『それを見つければ、ここがどういった世界か分かると思う』
『うん・・・』
『スコルの狙いも分かるかもしれない』
『うん・・・』
『その内容によっては協力するかもしれないし逆に邪魔をするかもしれない』
『うん・・・』
『その後は流れだな』
『うん・・・』
『撫でられるの気持ちいい?』
『うん・・・』
どうやら俺の頭撫でテクも極まって来たようだ。あのうるさかったマーニがこんなに良い子ちゃんになるんだからな。
義体は睡眠欲もあるため共感を強めると眠りを必要としない俺達でも睡眠の様な酩酊感を味わえる。マーニは穏やかな気候の日にババアの木陰の下の草の絨毯に寝転がって俺に膝枕されながら頭を撫でられて酩酊感に酔うのが好きだ。今まで俺の中に居てそういった感覚が良く分からなかったから新鮮らしい。
義体を得て、それと共感をする事で、初めてそれを知ったためか、マーニはナデポチョロイン状態になってしまっているようなのだ。
『まだ続ける?』
『うんもっと・・・』
その日は結局、日が落ちて義体が肌寒さと空腹を感じるようになるまでマーニとエリを優しく撫で続けた。
『やめる事になったのは、肌寒さや空腹じゃなく、私とエリにいきなりキスしたからでしょっ!』
『そうとも言う』
『そうしか言わないよっ!』
義体にダンジョンで手に入れた聖堂騎士団幹部級の豪華過ぎる非常食を食べさせたあと、マーニの収納にしまって貰い、その後マーニの瞬間移動で王都に飛んでから取り出して、トールとエリを夫婦か姉弟という形にして冒険者ギルド近くの中級の宿屋に仮の拠点として部屋を取った。
△△△
夜になったので、義体をベッドに寝かせたまま、俺とマーニはスコルの所に向かった。
案の定スコルの部屋は暗くなっていて寝静まって居ることが分かった。
紙は机の引き出しの中から見つかった。引き出しに鍵はかかっていたけれど、マーニが机ごと収納し、宿屋に移動したあと部屋に取り出して義体を使って調べれば簡単だった。
鍵はどうしたって?
そんなのは俺の体から出せる光の糸を使えばすぐに解錠出来ちゃうんだよ。ダンジョンの宝箱にも罠があったり鍵がかかっていたりしたけど、これで簡単に罠外しして開けたんだからね。
『やっぱり乙女ゲームの世界だったね』
『聖女と7人の勇者様っていうゲームなんだ・・・』
『タイトルすら聞いた事ないゲームだし良く分からない、けれどこの紙を見る限り、学園に入学したあとイケメン達を攻略するっていう良くあるタイプのものみたいだ』
『勇者7人が攻略対象で、裏ルートで魔王が攻略出来るようになるんだね・・・』
『スコルは表ルートの大団円の勇者7人との逆ハールートを目指しつつ、裏ルートに行けそうなら最推しの魔王を狙う気みたいだよ』
『節操が無いね・・・』
『中身は汚れなき乙女では無いんだろうな・・・』
『あっ! これ日記だよ、表紙は王国史って書いてあるけど中身は白紙の本だったみたいだよ』
『装飾品としての本だったのかな?』
『かもねぇ・・・』
印刷技術が無く、本を作るのに多大な労力がかかった時代に、木の板に本の装丁の様な布だを貼った、見栄のためのインテリアとしての偽装本があったと聞いたことがある。これは少し本格的に木では無く紙で作られている偽装本だ。
紙も羊皮紙なので結構高い筈だけど、良くみたら羊皮紙は端切れみたいな角が欠けた紙や穴が空いている紙で作られていた。もしかしたら装丁の練習用に作られた本だったかもしれない。
『マジか・・・』
『あの女・・・』
本には日常の出来事だけでなく、乙女ゲームの攻略法の考察や、スコルの前世の事が書かれていた。
まずスコルは公爵夫妻に気に入られて大事にされている事が分かった。光魔法もゲーム知識により光を出すぐらいは出来るようになったらしい。少し使うだけで魔力切れを起こすらしくそれだけしか発動しないらしいけど、公爵夫妻には聖女は確定だと言われているらしい。光魔法に目覚めるという事はそれだけ稀な事のようだ。
攻略法の考察は7人の勇者と魔王を同時に攻略するためのものらしい。ゲームでは不可能だったそうだが後に実装される可能性についてファンの間で話合われていたそうで、本にはその時想定されていたいくつかの攻略法が書かれていた。
そして前世の部分よ読む事で、スコルが俺を階段で突き飛ばして殺したケバい女だった事が分かった。
あの女は前世で俺を吹き飛ばした時に、29才でお局化し始めていたOLで、日常的に受ける後輩既婚者からのマウントと、上司から受けるセクハラ行為による鬱憤を、乙女ゲームのガチャ課金に注ぎ込む事で解消していたらしい。まぁ本人談なのでただの被害妄想の可能性はあるけれど。
事件はガチャしながら階段を歩いている時に、非常に低確率のUR確定演出に驚き階段を踏み外した事で起きたらしい。俺をクッションにしたことで、顔に少しアザを作り腕と膝を擦りむいた程度で済んだそうだけど、階段という場所で危険な歩きスマホをしていて足を滑らせて人を殺してしまった事が大きな問題となり、最後は会社から解雇通知を受けるまでになったそうだ。
また俺はまだ未成年で保護者は母ちゃんだった。孤児院出身の姉貴分であり、頭が良くて弁護士になったシズカ姉が仇討ちのために、母ちゃん相手に賠償しろと裁判を起こしたらしく、女は多大な借金を背負ったそうだ。その結果風俗に沈みながら借金返済に追われたそうで、その愚痴が描かれていた。
母ちゃんの事やシズカ姉の事はタカリ屋、俺のことは当たり屋だと書かれていて、加害者意識が薄い女だと言うことが文章から見て取れた。
マーニは激怒していたけれど、俺は母ちゃんに賠償金で恩返しが出来たようで少しだけ気が晴れた気がした。
『何で平然としてるの!?』
『何も親孝行出来なかったと思ったけど、結構なお金が母ちゃんに行ったみたいで良かったなと思ってさ』
『子供に先立たれる程の親不孝は無いんだよっ!』
マーニに言われてハッとしたけど、何故か怒りは湧いてこなかった。
『・・・ごめん・・・』
『ソールのせいじゃ無いのは分かるけど、エリさんが大事だったのなら、ちゃんと怒らないと駄目だよ?』
『うん・・・ありがとう・・・』
『分かれば良いんだよ・・・』
『怒ってくれて嬉しいよ』
『何で悲しそうなの?』
『うまく怒れないんだ・・・』
『わかった・・・私が変わりに怒ってあげる』
『うん・・・』
そのあとはマーニと抱きしめあった。マーニは俺の頭を優しく撫でていたが、少し怒りの感情が乗っているのか手つきが荒かった。
マーニの怒りが少し落ち着いたところでスコルが書いたものを全て読んで記憶し、机を元通りにしてスコルの部屋の元の場所に戻して、その日は宿屋の部屋でゆっくりと過ごした。
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