第13話 妄想天丼12杯

 マーニから合格が出てダンジョンから外に出る日が来た。マーニの中から少しセクハラ的な事を考えるだけで収納から追い出されて訓練が中断するから、中々合格が出なくて大変だったんだよ。

 マーニ自身が天の岩戸に隠れた天照大御神のように収納に隠れてしまってしばらく出てこなかったりしてさ。仕方ないから100階層の魔物に八つ当たりしに行ったり、そこで集めた銅貨と鉄貨でガチャって過ごすしか無かった。

 マーニの収納が使えないので魔物が落としていったものを拡張的な収納能力がある革袋に詰めなければならない。マーニの収納より格段に劣った容量しかないのに大きな革袋に入れて運ばなければならないののは結構面倒だった。

 袋に入れて持ってきたものを、マーニの隠れた収納空間の周りに置いておくとマーニが俺が離れた時に収納してくれるんだけど、会えないままなのは寂しいじゃんかよぅ。


『ストレージの周りをガラクタで埋めるのやめて』

『何で?』

『外が見えないし鬱陶しい』

『マーニが出てくれば良いだけじゃん』

『ソールを反省させるために隠れたのに出れる訳ないでしょ!』

『でも出たでしょ?』

『ポーションの瓶の色の差を使って目の前に卑猥な絵を書き続けられたら、文句も言いたくなるでしょ!?』


 1800年頃の有名な芸術作品をドット絵で頑張って頑張って描いたのに・・・今回は着衣と裸のバージョンがある小粋な女の裸バージョンの方を書いたから結構エッチな感じだけどさ。


『マーニ・・・寂しかった・・・』

『な・・・なに言うの・・・』

『君が近くに居ないと俺は駄目になるんだ・・・』

『何で急にそんな事を・・・』

『俺はマーニが好きなんだ!』

『だ・・・騙されないっ!』

『マーニっ!』

『ちょっと抱きつかないでっ!』

『反省してるんだ・・・』

『ふ・・・ふんっ! それなら許してあげるけど・・・』

『あぁマーニ、有難う・・・』

『わ・・・わかればいいのってサワサワするな〜』


 という感じにマーニを説得する事が出来て本当に良かった。


『さっきから何妄想垂れ流しているの?』

『あれ? 俺を無視し続けるんじゃ無かったの?』

『私はそんなにチョロく無いっ!』

『マーニ好き好きだーい好きっ』

『ちょっ! やめて恥ずかしい』

『マーニ・・・俺は本気だよ・・・』

『ソール・・・』

『・・・チョロ・・・』

『だ・・・騙したねっ!』

『あっ・・・考えが漏れちゃった? まだ思った事を隠すのは出来ないんだなぁ』

『もうっ!』

『マーニ・・・』

『何よっ!』

『漏れてるなら、俺の気持ちは伝わっているだろ?』

『う・・・うん・・・』

『ずっと一緒にいような』

『うん・・・私はあなたとずっと一緒・・・』


 という感じにマーニを説得して今に至るわけだ。


『もういい加減妄想やめて・・・』

『おっ? 今回は妄想天丼12杯で答えてくれた』

『ソールはよくこんな変な事を考えながら魔法打ち続けられるね』

『自分で魔物見つけたり近くまで飛んだりしなくて良いから楽なんだよね・・・』

『私はすごく疲れるのだけど・・・』

『マーニの闇魔法には遠距離攻撃魔法が無いもんねぇ』

『はぁ〜』

『ため息吐くと幸せが逃げるって言うよ?』

『うん逃げてる・・・』

『どうして?』

『ソールの中にいたままの方が楽だったのかと思ってる・・・』

『それだとマーニにパイタッチ出来ないじゃないかっ!』

『胸が膨らんで無くて良かった』

『俺は凄く残念に思ってるよ』

『はぁ〜』


 こんな感じにマーニとジャレあいながら、100階層から逆の道を辿ってダンジョンの入口に向かっている。

 瞬間移動で出ないのかって?

 どうやら瞬間移動は階層を超えて移動する事が出来ないみたいだった。だから魔物をまた殲滅しながら地上に向かおうという事になり、最近の戦闘スタイルである俺が収納に入って、マーニに透明化魔法シースルーと結界魔法バリアをかけた状態を維持しつつ光線魔法レイで敵を殲滅していった。

 今まではそれに浮遊しつつ羽を使って移動して、さらに索敵しつつ倒したあとはマーニに指示されてドロップアイテムの回収と忙しかったんだ。今なら妄想を垂れ流すなんて余裕のよっちゃんだよ。


 オーガーばかりの9階層を抜け8階層に入ると一気に冒険者が増えていた。「三ツ星」や「レッドテイル」の2組もそこで狩りをしているらしく、聖堂騎士はまだ1階層から6階層を占拠状態らしい事が分かった。


 6階層を抜けると案の定聖堂騎士達が階下に降りる以外の通路を封鎖していて、冒険者達が騎士たちを忌々しそうな目を向けながら通過していた。

 

 3階層に氷の貴公子(笑)と、氷の貴公子(笑)に追従している運搬役の聖堂騎士が居た。周囲のハーピーを殲滅しているのかテントを張ってキャンプ中だったので、氷の貴公子(笑)の武器と防具一式とテントに保管してあったドロップ品と食料品をマーニに回収して貰った。


 少しだけ戻って5階層と6階層の聖堂騎士団の集積場所で同じ様に物資を回収したあと、1階層と2階層でも物資を回収してファンジョンを出た。


『シャバの空気はうまいなぁっ!』

『うるさいっ!』


 開放的な気分になったので気持ちを表しただけなのだがマーニに怒られてしまった。


『早くババアの所に行ってゆっくりしよう、義体の操縦にも慣れたいしさ』

『はいはい分かった分かった』


 マーニは俺の中に居たときは可愛かったのに、自分の体を手に入れてから急に俺に冷たくなった気がする。


『じゃあ飛ぶよ』

『了解』


 これでマーニの中でバリアと透明化を維持する生活からしばらく開放される。


『義体に慣れたらスコルの様子を見に行こう』

『はいよ』


 ババアの周りで義体を使って色々な事を試した。

 まず義体は人とほぼ同じと思った方が良いものだった。活動するエネルギーとして食事を必要とし、排泄や発汗する機能があったのだ。

 生殖機能は無いようだけど人の体をイメージ通りに模すことが可能なため、行為をする事自体は可能そうだった。感覚を共有するとマイサンの復活を実感できるので俺は猛烈に感動する事になった。


 義体の身体能力は所有者の能力を反映するものらしい。そして妖精の能力は人に比べて著しく高いようで、無理に動かした事で義体が壊れかかってしまった。幸い光魔法の回復に効果があったので義体の修理が可能だったけれど、だめだったら義体を一体失う所だった。それにしても義体の骨折や筋肉が破断や内蔵破裂などの感覚まで共有化されるとは思わなかった。妖精じゃなかったら気絶じゃなくショック死した可能性があると思う。


 光魔法は普段使う訳にはいかないと思うし、身体能力を生かした方が良いと思うので擬態の装備は剣士タイプにした。小剣と小盾を持つ革鎧の剣士。革製の兜と小手とブーツも身に着けさせた。

 謎素材の布のクリーム色のインナーに茶色の謎の革装備達に木製に見える謎の盾にシンプルな鉄製に見える謎の剣を持つ地味な剣士になった。

 謎のというのは、全てがSSR装備で、SR製の装備では傷すら付かないし、SSR装備で傷を付けてもしばらく放置すると修復されているのだ。

 他には体力回復の指輪と光属性強化の腕輪と闇属性耐性の首飾りと火属性に耐性が付くマントと容量制限はあるけど収納能力がある革袋を身に付けた。


 マーニは義体を弓使いにするようだった。薄緑色のインナーに黒色の革鎧、引く力があまり要らないのに威力が高い小弓に、何故か矢が無限に補充され続ける矢筒を背負い、2つのナイフを左右の腰に差している女狩人になっていた。これらも全てSSR装備だった。

 他にも体力回復の指輪と闇属性耐性の首飾りと浮遊する靴を装備した。腰に刺している短剣の一本が強風で相手を吹き飛ばせる魔法が放てるようになるものなので、それで飛んで射撃に向く高い位置を維持するつもりらしい。


 SSR装備は1%の出現確率とはいえ天井の1万回も引いたため98個も所持する事になった。10階ごとのボスから得た装備を入れれば108個のSSR級装備を手に入れている状態だ。いかにも高級品という装備は封印決定とし、目立たないように地味目の装備を選んだ。

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