第11話 欺瞞

 俺は闇の妖精を得るまでガチャる事にした。

 全部の金貨と銀貨を入れたら555と表示された。

 全部回したけれどUR以上は額に小さな角の生えた白い馬が1頭当たっただけだった。名付ければ自分のものになるらしいので北欧神話にちなんでアールヴァクと名付けた。


 その後は11階層から100階層の魔物を駆除して硬貨を集めまくった。そして遂に1万回になった事で天井で闇の妖精を手に入れた。木が生えて実が出来る訳ではなく虹色のクリスタルから直接ニュルっといった感じで出てきてその場に浮遊していた。

 俺が最初に産まれた時の様に何も身に着けておらず裸だった。髪や銀髪紅眼黒い肌といった色違いなだけで、俺とほぼ同じ造形をしていた。

 アールヴァクがそうであったように名付けるまで意思が無い状態なのは同じようだった。


 ちょっとぐらい触れても良いよなと思い手を伸ばすとマーニの奴が騒ぎ出す。俺は強い意思でそれを跳ね除けると、右手で闇の妖精の左手に触れた。

 その瞬間マーニから悲鳴の様な声がしたのでパッと手を離した。けれどマーニは沈黙してしまっていた。


 けれどいきなり闇の妖精が動き出して俺に抱き着き「ソール」と念話で伝えて来た。マーニは闇の妖精に乗り移り、俺と分離してしまったようだった。


 マーニの胸も俺と同じフラットなものだった。だから抱き着かれても膨らみは感じなかった。けれど柔らかい感触がしてとても安心する感覚がした。


 俺とマーニは話し合った。マーニは外に行けば闇の妖魔と言われ迫害される対象だ。だから人からは隠れる必要がある。

 マーニも体を隠したいと思うと黒い糸のようなものが体から出て来て俺と同じような服に変化させられた。


 幸いマーニは収納の応用で周囲から隠れる事が可能だった。自身が収納の中に入ると移動が出来なくなるという欠点があるようだけれど、隠蔽の状態は音が漏れてしまう俺より高い事が分かった。他にも俺と体を接触した状態なら透明化出来るようなので、一緒に居れば問題無く今までの様に人のいる場所を出入りする事が可能だと分かった。


 URで出て来た獣はアールヴァクの他に8頭。二本の小さな角が生えた黒い馬。額に小さな緑色の宝石の様なものが付いた白い毛並みの中型犬。黄色い宝石のようなものが付いた黒い毛並みの中型犬。青い羽根の小鳥。赤い羽根の小鳥。金色の大蛇。銀色の竜だった。


 期待していた義体は、ある程度見た目を自由に出来る人型の人形だった。宝箱とガチャにより3体分あった。名前を付けると所有者となり、人形の感覚を所有者も共有する事が出来る様になるらしい。


 装備品は武器や防具の他にも装飾品やお洒落な服に見えるものやローブもあって義体に着せる服にはなりそうだった。


 妖精のままでは人の住む場所で人の目線に立って暮らす事は出来なかった。人の居る場所で暮らす必要は特に無いけれど、人だった頃の感覚があるためどうしても人の様な暮らしをしたいと思う事があった。


 俺とマーニはそれぞれ聖獣を4匹と義体を1体を分けた。

 俺は白い馬、黒い犬、青い鳥、金色の大蛇を取った。マーニは黒い馬、白い犬、赤い鳥、銀色の竜を取った。それぞれどんな名前を付けるか相談した結果、俺は白い馬にアールヴァク、黒い犬にガルム、青い鳥にフギン、金色の大蛇にヨルムンガンドと名付け、マーニは黒い馬にアルスヴィズ、白い犬にフェンリル、赤い鳥にムニン、銀色の竜にニーズヘッグと名付けた。北欧神話に出て来る有名な獣の名前だ。


 義体には俺の前世の工事現場で度々お世話になった親代わりの様な人の名前トオルから取ってトールと名付けた。そして俺の体に似せて作っていった。髪や目の色は現在の妖精である俺の色にしている。そして周囲の人に溶け込むよう顔の掘りを少しだけ現地人寄りにしていった。マーニから美化してると言われてしまったが多少は良いだろう。

 マーニは孤児院の院長の名前を取ってエリと名付けた。トールにエリと言えば北欧神話で登場する力試しで登場する。北欧神話のエリは力を誇るトールを打ち負かした老婆の名前と同じだ。俺とマーニの今後の力関係を示しているようで少し嫌な予感がした。

 マーニは最初に俺が物心ついた頃の35歳ぐらいのエリ母ちゃんの姿を作った。目と髪は黒目黒髪で肌の色だけ外の人に合わせた肌色にしたぐらいで俺の知ってる母ちゃんがそこにいた。


 俺はトールと感覚が共有して色々操作していた状態だった。そしてトールの体が制俺の考えそのままダイレクトに反映して、フラフラとマーニの作った義体を抱きしめるように動いた、そして大声で泣いてしまったのだ。


「ごめんよ母ちゃん・・・先に死んでごめん・・・」


 妖精になった俺は茫然とそれを見ている事しか出来なかった。俺の心の中はこういう状態になっているのは間違い無いけれど、それをぐっと抑えて居たからだ。義体との感覚の共有を切れば良いのに母ちゃんを抱きしめる感覚に抗えず切る事が出来なかった。


「良いのよタイくん・・・」


 マーニは義体と感覚を共有してそれを許す演技をした。俺の義体は母ちゃんの胸に顔を沈めて泣きじゃくっていた。お互いに裸の体のままなので卑猥な光景だと思う。けれどマーニは俺に寄り添いそして俺の事を抱きしめた。

 妖精の体の方は泣く事が出来なくなっているし体温を感じないけれど、とても温かい気持ちになっていた。気が付くと義体の方と感覚が切れて動きが止まっていた。


『ごねんなさい、こうなるって思わなかった』

『いいよ、俺もビックリしてしまったから・・・』

『あなたの心の中にいたのに、あなたがエリさんにここまでの強い気持ちがあったなんて知らなかった』

『隠すのに慣れちゃってるんだよ、母ちゃんは俺だけの母ちゃんじゃ無かったからね』

『うん・・・でもあれはあなただけの母ちゃんになれるよ』

『俺だけの母ちゃんだったら、母ちゃんにこんな強い気持ちを抱かないよ。みんなに優しい母ちゃんだから俺は母ちゃんだと思ったと思うんだ』

『そうだね・・・エリさん優しかったね』


 俺とマーニは念話で会話をした。そして俺はマーニを抱きしめ返した。

 現在の俺は涙も流せず声も出せない体なので、ただただマーニを抱きしめ返す事でしか感情を現せなかった。

 マーニは俺の頭を優しく撫でていた。俺はマーニが体を得た時は、すぐに抱きしめながらパイタッチをすると決めて居たけれど、マーニが闇の妖精の体を得て抱きしめてきた時も、今回もパイタッチをする事は無かった。

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