第6話 聖女候補の旅立ち

 スコルの6歳の誕生日が近づいて来た時、村に王都からの使者の先触れがやって来た。

 使者が述べたのはスコルを貴族の養女として迎えるため、その馬車が村に向かって来るという内容だった。

 村は、スコルを貴族に差し出す事で、5年間の税金の免除が与えられ、スコルが正式な聖女となった場合はそれが50年間になるという内容が伝えられた。

 スコルの両親には金貨5枚の報奨金の他、スコルが正式な聖女になった場合は、身分を3級国民の農民から1級国民の王都民に格上げし、王都の富裕層街の住居と、生涯そこでの生活に困らない額の年金が支給されるそうだ。

 また聖女となったスコルが魔王を討伐したあかつきには、現在の村にいる村人とその子孫には2級国民である領都民の権利が与えられ、領都の下町の住居と1家族あたり金貨5枚が支給されるそうだ。そしてスコルの両親には騎士爵家の称号が与えられ、貴族の仲間入りとなるらしい。


 それってスコルを渡す程の好条件なのかと思ったけど、スコルの両親を含め、村人全員が喝采を上げるほどのものだったらしく、すぐに了承の意思が先触れに伝えられた。

 スコルには着替えが用意されていて、先触れはスコルの両親に、王都からの馬車が来る明日の昼までに、スコルの身だしなみを使者様が不快にならない程度のには整えろと言って引き返して行った。


 先触れが引き返した後、村はお祭り騒ぎになった。税金用に貯められていた穀物が倉庫から出されて村人に分配され、さらに貴重な家畜が潰されて炊き出しが行われた。

 村長も家の倉庫から収穫祭用の酒樽の封印を出し、封印を解いて振る舞い出した。

 スコルは村の中心に作られたひな壇の上に座らされ、村長の奥さんが村祭の時に作って出す蜂蜜菓子を皿の上に山積みにしていた。

 村のスコル以外の子供にも蜂蜜菓子が配られ、村の全員が笑顔になっていた。

 スコルも自分が貴族に身売りされるのを知ってか知らずにか分からないけれど、ニコニコしながら蜂蜜菓子を頬張っていた。


 翌朝スコルは風呂で肌を磨かれ、髪を整えられ、綺麗に髪を飾られて先触れが持参した子供服を身に身に着けさせられていた。


 母親が何度もお別れの言葉を良いながら抱きしめて居るけど、スコルは泣きもせずニコニコとした顔を続けていた。非常に立派な姿だけど年相応の子供に見られる母に対する執着が見られないのが不思議に感じた。


 先触れと同じ格好をした軽鎧を着た騎士に護衛された馬車が到着した。

 馬車から降りて来たのは、王都の貴族街で良く見られる装飾過多な装いの男女だった。

 田舎特有埃っぽさや家畜の匂いに顔をしかませていて、明らかにこの地に住む人を下に見ている事が分かった。


「スコルという娘を私の眼の前に連れて来なさい」

「はっ!」


 馬車から降りた男女は、村の中をこれ以上歩きたくないようで、男の方が護衛の騎士の1人に馬車の前にスコルを連れて来るように命令していた。


「ふむ・・・まぁまぁだな・・・」

「磨けば何とか使えるかしら?」


 教皇のように椅子から立ち上がるのすら億劫そうなほどブクブク太ってはないけれど、男の方は腹が出っ張っていて、女の方は二の腕が村の女性の足ぐらい太い。

 よくもまぁ可愛らしい見た目の幼女を見て「まぁまぁ」だとか「使える」だとか言えたものだなと呆れてしまった。


 村人が総出で歓迎していたが、その男女の態度に顰め面を見せていた。けれど当の本人であるスコルだけは平然とした顔をしていた。


「スコルと言います、よろしくお願いします」


 スコルはスカートの両端を少し持ち上げ、前世でカテーシーと言われるような挨拶をした。


「ほぅ・・・」

「まぁ・・・」


 拙い素振りだけど、それでも村人ではあり得ない挨拶をした事に男女は感心したような声をあげた。


「これが妖精に導かれたという事か・・・」

「どこの馬の骨かと思ったけど思ったより良いようね」


 俺はスコルにこんな事を教えた事など無かった。村でこんな所作をしている人なんかいない。


「こちらに来なさい」

「はい」

「これからお前は我々バラティーア公爵家の娘になる」

「はいお父様」

「スコル・バラティーアがこれからのお前の名だ」

「わかりました」


 もう一度カテーシーをするスコル。スコルの両親はその様子を見てポカーンとしているだけだった。


「ふむ・・・思わぬ拾いものだったかもな」

「えぇ・・・」


 そう言ってスコルの手を掴んで馬車に戻るバラティーア公爵夫妻らしい男女。

 そのままバタンと馬車の扉が閉まり、そのままUターンして村から出ていってしまった。


「ご苦労だったな」


 そう言ってスコルの父親の手にチャリチャリ音がする革袋を握らせた、先触れとしてやってきた騎士が馬に飛び乗りそのまま馬車を追走すると、村には1人の幼女が減っただけの状態に戻った。


「あれは本当に村の娘なのか?」


 村人の一人がポツンと呟いたけれど、それに答える人は誰も居なかった。


 うん?村の実況をしてないで馬車を追いかけるべきだって?うーんでもスコルはもうお貴族様に保護されて、聖女に相応しい教育受けるんじゃないのか?無事に引き渡したんだし「見つけ」「守り」「導く」まで達成したと見てもいいんじゃないか?ほら貴族になるまで導いたじゃないか。

 魔王を倒すまで導くんじゃ無いかって?それ必要かねぇ。第一あれが純粋な心を持った乙女か?母親との別れを悲しまない6歳児って何だ?あのカレーシーは?

 な?やっぱりマーニにも分からないだろ?どうせ行き先は王都なんだししばらくは別行動しても問題なかろう?

 魔王を探すのかって?うんそれもあるけど、もう少し世界を回って見ないか?ほら確か王都の方に冒険者が集まるダンジョンってあっただろ?

 冒険者じゃなく何でも屋だろうって?確かに言葉を直訳するとそういう意味になるけど、カクヨム系の読者にはそう伝えた方が良いんだって。こんな世界の事が書かれるならジャンルは異世界ファンタジーだろ?読者には「彼らは冒険者だよ」って言っておけば、一瞬で「あー、そういう人達ね」って理解するからさ。

 うんそう、そういうの俺も好きって知ってるだろ?だから行ってみたいんだよね。他にも俺以外の妖精にも会ってみたいしさ。

 東の大砂漠の竜鱗族の所に火の妖精、西の大森林にいる耳長族の所に風の妖精、南の大洋沖の魚人族の所に水の妖精、北の大山脈の毛長族の所に土の妖精が居るんだったよな?

 うん?あぁこれは読者向けの説明セリフじゃ無ないよ。マーニ向けに言ってるつもり。

 ん?マーニはババアの所に行きたいの?好きだねぇ。瞬間移動で行くならすぐだし良いよ?

 王都についたあとのスコルもたまには見に行きたい?うん、それぐらいはするつもりだよ。

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