第4話 村への来訪者

 スコルは成長が早いのか1歳で言葉のようなものを話し始め、2歳で家にあった唯一の本である聖女と7人の英雄と光の妖精の物語を読み始めた。協会のステンドグラスとして描かれている物語と同じものだ。

 スコルは最初は挿絵を見ていただけで楽しいのか笑っていたけれど、それだけでは物足りなかったようで、両親に本を読むように強請っていた。

 その本は聖書の様なものらしく、全ての家に1冊づつ置かれていた。両親は文字が読めないらしく、教会で神父が説法で良く参照する部分だけは暗唱できたけど、他は読めないようだった。

 スコルは両親の暗唱と聖書の文字を見比べたり、村で文字が読める村長や神父などに少しづつ文字の発音と意味を聞いていき、5歳の時には聖書を丸々暗唱出来るぐらいになっていた。


 スコルは俺の事が見えるため目で追いかけ続けていたけど、マーニのスヴェルで俺の体を隠すと見えなくなるのでこっそりと覗くようになった。

 それでもスコルから離れて要る時までマーニのスヴェルに隠れている訳では無いので時折油断してスコルに姿を見つけられてしまう時があった。

 スコルは歩きだした頃から俺の姿を見つけると舌足らずな声で「まてぇ」と追いかけて来るようになっていた。

 ソールを追いかけるスコル。北欧神話の再現かも知れない状況だった。捕まったらパクっと食べられてしまうのだろうか。


 スコルが周囲に見えない何かを追いかけて居るのは大人達に気が付かれる事になった。

 時折俺の事だと思われる正体不明の羽音が聞かれており妖精が居ると言われるようになった。またその妖精を追いかけるスコルはいつしか光の聖女だと噂されるようになった。


△△△


 俺がスコルから追いかけられる事数十日。ある日村に、2人の馬に乗った人物がやって来た。

 1人は華美な装飾された旅裝の男で、もう1人は黒いローブをまとった男だった。

 華美な装飾された旅裝の男は腰に剣を佩いていて、黒いローブをまとった男は首から教会の神父と同じものを首から下げていた。


 村に馬車に乗った商人が来る事はあるけれど、俺が知る限り、それ以外の人間がやって来るのは俺がこの村の周囲をフラつくようになってから初めての事だった。


 この2人の男の正体については心当たりがあった。

 以前この村以外を探索し、俺の事を目で追える人間が居ないか探した事があったのだが、その時にこんな服を着た奴が多く居た場所があったからだ。


 俺は一応スコルを「守る」事をしていたため村からあまり離れないようにはしていた。しかし村人がRPGいうモンスターみたいな感じで恐れていた周囲の生き物は、全てレイを使って頭に穴を開けて動かなくなった事を確認してあったし、近隣の村や街などを襲っていた盗賊も手や足を焼き切って転がし続けていたらいつの間にか居なくなっていたので、スコルを「守る」事はしばらく大丈夫だと思い離れてみた事があったのだ。


 村に来たのは案の定、この国の王都からやって来ていた。

 王宮の使者は村長から話をしたあとスコルの両親のところにやって来た。


「プロムナ王国近衛騎士団所属、特務査察官を拝命しているバルト・アル・プロムナである、隣に居るラステア聖国特使の言葉に素直に答えるのだ」

「ヒィ!」

「おら達大したものは持ってねぇだ」


 家の庭に置いたタライに水を張り、種籾を水に浮かべて良し悪しの選別作業中だったスコルの両親は、特務査察官とやらの威容にすっかり怯えてしまい、濡れた土の地面にそのまま平伏してしまっていた。

 俺はこの使者が腰の剣を抜いたら、その瞬間に腕を焼き切り飛ばそうとその場に待機していた。

 でも姓がプロムナって事は王族だなぁ、まぁ王妃が側室や愛妾を含めると30人、公式な国王の子供だけでも68人という国なので、王宮には王族がゴロゴロ溢れているんだけどね。


 ちなみに言葉は日本語じゃないので、読者にわかり易くするためにイメージ的にこんな感じのニュアンスですよと表現しているだけだから勘違いしないでくれよ?

 一応王都と地方では結構方言の違いがあるんだよ。王都の女性は「ホホホ」や「クスクス」といった感じに笑って、この村の女性は「ハハハ」や「ガハハ」と笑う感じで笑うので、なんとなくこんな感じで喋っているんだろと決めてるだけだからな?

 えっ?誰に言ってるんだって?読者に決まってるだろ?

 あーはいはいいつものねって呆れるなよ。最近態度が悪いぞ?話しかけて来ても答えてやらないぞ?無視されるのは辛いんだぞ?

 うん、そうそう、俺がメタっぽい事言ってもスルーするように。読者に「あーまた文字数稼ぎしてやがるな」って思われるだろ?

 うん、そう。いいよ、こいつらが帰ったらババアの所に行こうな。

 

「そうかしこまらずとも良い、顔をあげても良いのじゃ」

「へ・・・へい・・・」

「何もしねぇだか?」

「もちろんじゃ」

「良かっただ・・・」

「殺されると思っただ・・・」


 スコルの両親はおずおずと平服していた顔をあげて特務査察官とやらに紹介された男の顔をみた。

 手と腕と額と髪が泥で汚れていて地面に擦り付けるようにしていた事が良く分かった。


「儂はラステア聖国特使のカルム・ラステアじゃ、ちと訪ねたい事があるのじゃが」

「へい」

「なんでしょう」


 あー、ちなみにこの村がある国はプロムナ王国という名前で、ラステア聖国というのは西の方に国を1つまたいだ所にある国だ。この特使とやらはプロムナ王国にあるラステア聖国の大使館兼大聖堂に居た男だと思われる。姓がラステアだから、司教以上の立場だと思われる。

 ちなみ司教というのは俺が勝手にそういう階級を決めて呼んでいるだけだ。上からを教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、神官、神父みたいな感じだな。

 聖国には階級は無いって事になっているけど、実際には神職の上位のものには様付けて呼んで居るのを確認しているし、司教以上は金糸が編み込まれた聖衣を纏ったりしてるし、浄財のような名目で税金と同じ様に国民から金を回収しているので、制度自体は封建制と同じだ。

 上位の聖職者も殆が世襲だったしな。


「そなたらはスコルという幼子の両親で間違いないか?」

「へい」

「間違いねぇだ」

「スコルはどんな子じゃ?」

「おらたちの子とは思えねぇほど賢い子だぁ」

「1歳になる前から話し始めて、5歳の今では文字を読むことも出来るだぁ」

「魔法は使えるか?」

「いんや、あの子はどの呪文を唱えても魔法は発動しねぇだ」

「あの子は多分聖女だべ、だから普通の魔法はつかえねぇんだと思うだ」

「何か変わった行動を取ることはあるか?」

「時々何かを見つけて追いかけているだぁ」

「追いかけているのは妖精様だべ、時々何もいない所から羽音が聞こえるだ」

「ふむ・・・」


 プロムナの特務査察官とラステアの特使はヒソヒソと話したあと、プロムナ特務査察官がピンっと何かをスコルの両親の足元に弾き飛ばした。


「洗濯代だ、受け取るが良い、釣りは不要だ」

「ヒィ!金貨っ!」

「ありがとうごぜぇやす」


 またもその場に平伏してしまうスコルの両親。そうだよな、金貨って大体100万円ぐらいの価値があって、街だと半年分、田舎のここだと2年分ぐらいの現金収入に相当するのだ。


 王都からやって来た来訪者は村長の所に行って、迷惑料だと言って金貨3枚を手渡すとそのまま馬に乗り去っていった。


 でも「間違いないようですな」「そうじゃな」か・・・。

 えっ?去っていた2人がヒソヒソ喋って言葉だよ。聞こえてただろ?

 そう! こう言っとかないと筆者が大事にしてる読者とやらに伝わらないだろう?

 おっ!気が利くじゃん。そんな感じで良いんだよ。俺がたまにメタい発言をする。足りないと思ったらマーニがツッコミを入れて俺が説明する。そうすると豚が「ブヒィ」と鳴く。完璧だろ?

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