第5話

「おはようございます、ありがとう…助かりました」


「礼なんていらないよ、お前さんも休めたかい?」


弟村とマサキは店の2階で少し仮眠していた

「こいつも疲れてたから横にならせてやりたかったんだ、泣き疲れたのかよく眠ってる」

店の主人はコーヒーを弟村に注れて持ってきた

「あんたはブラックだろ?」

「あぁ、ありがとう、これ飲んだら出ていくから」

「アッハッハ!いいんだいいんだ、なんか訳ありなんだろ?」

「?!」

主人は笑いながら弟村の肩を叩いた後、弟村の向かいに座る

「テレビでアンタに似た男の事とその雇い主をやってるよでも「似た男」だ、そこまで似てると大変だろ?」

「……」

「弟村さんの事だ…理由があるんだろう?何があったんだい?」

「マサキの親が何者かに襲われた、アレはプロだ、間違いない。そしてあの子を探してる…でも何故かあの子の事は報道されない…マサキの話を聞くと1本電話をしたらしくその後に起きてる。間違いなくその電話が引き金だ」

店主は顎に手を当てて考え込んだ

「その電話は一体…」

「クイズ番組を見ていたら違う答え…番号が浮かび上がったからかけたと。迷惑ついでに頼みがあります」

弟村は頭を下げ続けた

「幸いマークは俺だけでここの場所はまだ知られてない、クライトンベイホテルの1628号室のウチの社長までこの子を送っていただけませんか?」

「それは全然構わんが…あんたどうするつもりだい?」

「少し時間を作りここに俺が電話する、おそらく黒幕だ…母親の仇を取ってやりたい」

「…わかった…でも無茶は…」

「無茶でも何でもやらなきゃならない、マサキが気がつく前に…これがバレたらあの子は自分を責める…大人が子供を追い詰めるなんて間違えてるよ、あの子が起きるまでは待ってる」

「しかし…そんな簡単に社長さんに会えるのかい?」

弟村は自分の名刺と車から持ってきた懐中時計が箱を渡した

「ホテルのコンシェルジュにこの名刺と時計の箱を見せて「クレープシュゼットを届けたい」と伝えたら社長に会えます、それにこの時計は俺しか持ってないから。ホテルに通されても社長が居なかったら緊急用の部屋に通してもらえるんだ、その部屋は社長がわがままを言って作らせた部屋で中に入るとロックがかかり簡単に開けられないんだ。万が一火災報知器が作動した場合はちゃんと開きますから心配しないでください、そもそも開け方はありますしね。外部から開けられるのは社長と名城さん、俺以外はできないですしルームサービスもできないけど腹が減っても1週間くらいの非常食と飲み物が備蓄されてる。そこで社長が来るのを待っててくれ」

「わかった、ワシが責任を持ってこの子を送り届ける」

「ありがとう…」

「くれぐれも無茶だけは…」

「…突っ込んだのは俺だ、それに…」

「それに?」

「これでも「元」警官だ、子供を追い回すような悪いやつは許さない」

会話が終わり弟村がコーヒーを飲み干すとタカシが目を擦りながら降りてきた

「おはよう…フミト」

「おはようマサキ、早速だが話がある」

「何…?」



「お前とはここまでだ」


その一言にマサキは持っていたぬいぐるみを落とし呆然としたのだった…

「僕が嫌になったの?!」

「まぁそんな所だ」

「嘘つき、フミトはそんな事言わ…」

「お前に俺の何がわかる?それに俺はもう職なしのお尋ね者、お前を守れる気がしない。この方と一緒にある人に保護してもらえ」

「…あの写真の人?」

「あぁ…そうだ、じゃあな」

弟村が席を立ちマサキに背を向けると

「僕…フミトと一緒に…」

「やめろ、俺は…何も無いただの人だ…そんな奴に期待なんかすんなよ。その人は本物のヒーローだ」

マサキは泣くのを我慢し

「どこへでも行っちゃえ!バカフミト!」

そう叫び2階に上がって行った


「本当にいいのかい?」

「…これでいい…これでいいんだ、マサキの事頼みます」

それだけ言い残して弟村は店を後にした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


プルルルルルルル


ホテルの内線電話が鳴り名城が受話器を取るとコンシェルジュだった


ーもしもし、コンシェルジュです。早くから申し訳ございませんー


「どうしたんです?」


ー非常にお伝えづらいのですが…昨日の事件の事で表にマスコミがもう来ています、お出かけになられるなら地下からをオススメします、こちらに仰っていただけたらお車を近く出入口にまわしますー


「え!もう!」


名城がテレビをつけると朝のワイドショーがこぞって昨日の事件を報道し、弟村だけでなく松田の事も報道されていた

切り替わるとクライトンベイホテルの正面にマスコミが押し寄せている映像も


「そんな…?!どうして…」

すると名城の手を抑え受話器を奪い松田が応対

「大変申し訳ない、迷惑かけないようすぐに退散する、俺が移動すればどうせいなくなる連中だ」

電話越しに伝え電話を切ると

「東都警備保障の方は何かわかった?」

「あ、はい!東都警備保障は企業や個人警備、イベント警備、人物調査、ネットワークセキュリティー、監視サービス、現金輸送などを請け負っている会社ですね。それと…このリスト見てください」

名城がPCの画面を松田に見せた

「…やっぱり、他の業務はオマケで人物調査がメインか…警察の下請けみたいな事やってるのはそれが理由か」

「です、それとこのリスト…疑惑や問題を起こした警察官が警察を一旦辞め就職、5年後までに復職させてます。東都警備保障の役員は元警察官僚です…これはもう…」

「内輪を守るシステムの会社か…ありがとうね、俺もこれを掴んだ、東都警備保障は警察の下請け以外とんでもない事をしている」

松田は名城にある映像を見せた

「!!これ!」

「そうだ、これで弟村の無実も証明できた。捜査本部が立つ所轄もわかってるから直接行くよ」

「分かりました、社長が見つけた画像ってもっとあるんですか?」

「面目ないがこれだけだ、東都のサーバーに何度もアクセスしたけどアクセスコードが数分で変わんだ、時間を使えば解析できるけど、このコードが難解過ぎてすぐに破れない…この際この事はどうでもいい、まずは弟村の無実を証明しに行こう」

松田は言い終わると支度にかかった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


篠地の店を後にした弟村は少し車を流し後車を停めて電話をした


「…よう、悪党さんよ」


ー悪党だなんて酷い言われようだな…例の彼かな?君はー


「そうだ、アンタと取り引きがしたい」


ー取り引き?ー


「あんたらのおかげで俺は職なしだ。疑いが無くなっても日本には居られないだから金がいる、ガキを探してんだろ?」


ー…渡してくれるのかな?ー


「あぁ渡す、でもタダじゃない」


ー何が欲しい?ー


「そうだな、ロス行きのチケットもちろんファーストクラス、金は5千万…それでいい」


ーわかった…しかし5千万は…ー


「それはそっちの都合、これが飲めないなら取引はナシ、このままこのガキをマスコミに売る」


ー……どこに行けばいい?ー


「そうだな…13時に森宿のスクランブル交差点のでかいビル、そこのスターライトカフェにしよう、分かってると思うが1人で来いよ?」


ー分かっているよー


「あんた名前は?」


ー長谷だー


「オーケイ…長谷さん、じゃあ13時に目印はそうだな…ジャケットを脱いで赤いネクタイでも締めていてくれ、じゃあな」

スマホを切り腰に装備していた愛銃のG17をチェック後、予備の弾倉も確認、トランクから出したアタッシュケースを開けて


「仇…とってやるからな、マサキ」


そこにもう居ないマサキに言い聞かせるように口から吐き弟村は車を走らせた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ホテルの正面にはマスコミが大勢張っていた

松田と名城が出ていくと一斉に松田達に詰め寄ってきた

名城は嫌悪感をむき出しにし手で追い払うようにしていた時


「どけ!邪魔だ!」


松田が大きな声を出した


マスコミが大勢押し寄せ松田にマイクを向ける

「貴方は例の男とどう言った関係なんです?」

「さぁな、邪魔なんだよ、どけ!」

「情報によれば貴方と例の男、そしてそこにいる女性と3人で良からぬ物を売っているとか…」

「なんだよ?「とか?」って、裏もとらねぇのか?マヌケ、おい!無許可で彼女を撮るな!」

「彼が起こした事件でこれを見ている方は不安になっています!その説明責任はどうお考えですか?」

「説明責任?なんだそれ?俺がいちいちやる必要ねぇだろ?そんなもん無くったってお前らは勝手に憶測立てて喋るじゃねぇか。うちの弟村を知らないくせに寄ってたかってあーでもないこーでもない…正直よくまぁあんなに妄想じみた事をペラペラよく言えるな?どうしても報道したいなら起こした事だけ報じればいいだろう?」

「うちのとおっしゃいましたね?!どう言った…」

「俺の部下で仲間だ!これで満足か?!」

「そのお仲間が殺人の容疑をかけられてるんですよ!しかも銃を持って逃亡中だ、何も感…」

「弟村が無事かどうかしか興味はない、容疑は晴らすさ!ほら!どけよ!!忙しいんだ!俺は!」

松田はうんざりした様子で手で払い退けると取材に来ている人間に手が当たってしまった

「…痛っ!…これは暴力ですよ!証拠も…」

マスコミの1人が食いかかってきた時



「本物の「暴力」と「痛み」を教えてやろうか?笑わせんなよ…」



その一言が終わると一瞬だけ音が消えた


「何が暴力だ…何が報道だ!おおかたスポンサー様の東都警備保障からのリークだろ?!安全圏から好き放題やってるお前らはなんだ?!えぇ?!てめぇらに正義があるなら俺を傷害で告訴すればいいだろうが!俺は金があるからなトコトン受けて立つ。万が一俺がぶち込まれたら…お前らの顔…忘れねぇぞ!」

「根も葉もない事を!それに今度は脅しですか?!我々には報道する自由がありそれを視聴者は知る権利があるんだ!我々はそんな安っぽい脅しに屈しない!」

「安っぽい脅しかどうか…知りたいか?知る権利?!寝言は寝て言え!お前らもそれを見る愚民共も自由と権利を履き違えてる!自由と権利を主張できる資格があるのは「責任」を負える奴だけだ!何が知る権利だ!バカバカしい!与えられた情報が正しいかどうかも分からんバカが正義を勘違いするのを助長させてるのがお前らマスコミだ!弟村を何も知らない癖に!過去まで掘り出しやがって!正義面して誰の全てをほじくり出すのが報道の自由か?!」

それだけいい松田は当たりを見回してカメラに指を指し続けた

「いいか?!これを見てるバカ大勢!ネットに俺や弟村の事を好きに書き込んでるだろ?覚えておけよ?匿名という仮面で顔を隠し安全圏から言葉の刃をふるった奴は全員日の下に引きずり出すからな!!何十年かかってもいい調べあげてお前らが人生の絶頂の時にこの返しは必ずするからな!震えて待ってろ!クズ共が!名城君!急ぐぞ!」

そういい名城の手を引っ張りベルボーイが正面玄関までまわしてきたクルマに乗り込もうとしたその時


ー民意を卑下して犯罪者を庇いたて!挙句に脅迫まで!!逃げるな!卑怯者!ー


カメラを持った男から発せられた言葉に松田は足を止めた


「社長!もう放っておきま…」

名城が腕を掴む前に松田はその手をそっと止め


「卑怯者って俺の事か?ならてめぇらそれ以下だな!弱いもん虐めを増長させて知らんぷりで謝罪もしないし責任もとらない。民意?なんだそれ?そんなに正しいのか?その民意ってのは?そこのお前…この国の人間1億3千万のバカが同じ方向見て同じ事言ってのか?調べたのか?おい?!」

詰められた男は構えていたカメラを下ろし反論しようとしたが松田に遮られた

「お前の主観を主語をでかくして喋るな!バカが!民意を卑下?なら弟村が無実だった場合弟村の立場はどうするんだ?無実の人間を憶測で悪意をのせて報道、そして寄って集って全員で袋叩きするのが民意か?…冗談じゃない…冗談じゃねぇぞ!」

語尾を荒らげ大きく叫んだ松田はそのまま続けた



「そんなに大勢の民意が正しいか?皆が知る事に賛成し邪推しいる事が全て正しいのか?!なら皆で寄ってたかって言葉の刃で切りつけたのは皆が賛成したから正しい訳だ!ふざけんなよ!自分が正しい、善人と疑わず薄汚い生き物がドブに落ちたら仮面を被り一斉に袋叩きするクズ共の何が民意だ!でもなそんな奴らでも困ったり助けを欲してる時、損得無しに助けようとするバカもいる、己の信念だけを信条にし後先考えないバカがね、そういう人間を傷つけるような事は俺は絶対許さない…報いは受けさせる。ついでにいい事を教えてやるよ、金持ち喧嘩しないは嘘だ、何故かわかるか?それは金があるやつが勝つことを知っているからさ。だから無駄なんだよ!貧乏人の憂さ晴らしにいちいち目くじら立てるのは!だが俺は違う!貧乏人だろうが総理大臣だろうが大統領だろが関係ない!目に目を歯には歯をだ、俺は黒いカラスも白いカラスにできるくらい簡単だからな、とことんてめぇらと揉めてやるからな!俺を論破したいならいつでも受けてやるぞ!低脳どもめ!」

その場が静まり返り松田は名城の手を握り車へ向かった

助手席のドアを開けると

「私が運転します!」

「いいから、座りな」

名城をエスコートし自身は運転席へ

アクセルを踏みエンジン音を轟かせ窓を開けるとカメラを確認し中指を立てて


「貧乏人ども!じゃあな!」


それだけいい走り去った


「社長…あのような物言い…反発が凄いことになると…」

名城は不安そうに言ったが松田は気にするそぶりすらなく

「ああ言えば弟村君に向けられたヘイトは俺へ一斉にくる、少しでも弟村君の事を遠ざけたい」

名城は何かに気がついたのか少し驚き

「?!だからあんな喧嘩口調で?」

名城の返答を聞き松田がゆっくり口を開いた

「……昔とある奴がさ?自分の生い立ちや親の事を過剰報道されてこの国で生きられなくったんだ、そいつはずっとあのテレビ屋達やこの国の人間を恨んでた。当時の警察が情報操作してね、連日報道されていたらしいよ…おかげで全てを奪われた。人を殺さないで済む生活、死ぬ危険がない平和に生きる道、学ぶ機会、おちおち外も歩けないくらい監視の目、ネットを開くと自分の顔写真はいつでもあった…誹謗中傷…自称家族もそれに乗っかった…友達もいない…何度も首にベルトを巻いた…そしてそいつは日本から逃げるように海外に行く時彼は「いつか全員殺してやる」と思ってたらしい」

名城は何も言えなかった

その意味がどれだけ深いかを知っていたからだ

「そいつが異国でバカして死んだ時も日本では「死んで当然」扱いだったよ、好きに書かれて死んだ後も好奇心を埋める為のおもちゃにされた…セカンドレイプみたいなもんさ…だから許せなかった、君や弟村を…俺の家族を好き勝手に言ってた連中を俺は絶対許さない、いっそこの国の連中…」

そう言いかけハンドルを強く握ると名城がそっと足に手を置いた

「私や弟村さんの事…そう思ってくれてありがとうございます、でも私も弟村さんも平気です。他人に何を言われようが指を刺されようが、私達には貴方がいる。貴方が理解してくれて帰りを待ってくれる。それだけで充分ですから!だから…だから…!!」

目頭に涙を少し溜めた名城は強く何かを言おうとしたが言葉に詰まった


「………こんな怪物にありがとう………」


小声で松田が答えアクセルを強く踏み車を走らせ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


13時

森宿スターライトカフェ


長谷と名乗った男は2階テラス席に弟村が指定した服装でコーヒーを飲んでいた


「時間通りだな、アンタが長谷さんか?」

長谷の背後から弟村が話しかけた

「あぁ、初めまして、弟村 史君」

「もう俺の素性がバレてんのか…まぁいい、金の準備は出来て…」

「その前に子供はどうした?」

長谷は飲んでいたカップを置き辺りを見回した

「金が先だ、それが…」

弟村が喋り終わる前に長谷が弟村のスーツを鷲掴み引っ張った

「何を!」

「君がそういう取引をしない事は分かってるよ、元SWATの弟村君、想像通りだ。大方この隠しカメラとマイクで盗撮して世間に知ら占める手筈だったんだろ?甘かったな!」

スーツを引っ張られた弟村は反射的に身を引き体勢を整えると周囲の客が弟村の周りに立ち塞がった

「1人で来ると思ったか?浅はかな奴だ」

「…っ!ここで俺を殺すか?こんな人目につく所でやれるもんならやってみろ!」

「君は我々を甘く見すぎだ…そんなもんどうとでもなるさ…やれ!」


弟村は近くにあった小さな卓を集団目掛けて思いっきり蹴り上げた後、長谷を羽交い締めにしたと同時に装備していたG17を抜くと

「逃げられると思ってるのか?無駄だよ 」



「アメリカに比べりゃこんなもん!やれるもんならやってみろや!この悪党共!」


弟村の叫びが店内に響き渡ったあと長谷を蹴り倒し弟村は走ってその場を後にした





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




東部警察署


ここは警視庁管内の所轄署だが犯罪発生率が少し高い関係なのか警察でも荒くれ者が多いのが有名だ

週刊誌やテレビのワイドショーの槍玉に上げられる事も珍しくなく警察署入口の制服警官も強面の警官が2人立っている

2人に睨まれながら署内に入ると中は慌ただしい様子だった

帳場が立っているせいか人の行来が激しく殺気立っている

松田は名城を連れ署内案内板を確認しエレベーターへ向かうと

「ちょっとアンタ!ダメじゃないか勝手に入って!ほら!出て出て!」

細身のパンツとシャツ身を固めネクタイを緩く締めている若い刑事が慌てて松田を止めに入るが見向きもしない

「おい!アンタ!聞いて…」

若い刑事の右手が松田の肩に触れた瞬間

その刑事は宙を舞い床に叩きつけられた

「イッテ!なんだお前!公務執…」

「捜査本部はどこだ?」

「言うわけ…!!」

松田は若い刑事の顔面直前に右拳を寸止めし続ける

「次は止めない、本部は?」

すると背後から

「動くな!てめぇどこで何してんだ?!」

「こんなんばっかりだ…もう」

髪を縛り両サイドを刈り上げた刑事と色眼鏡を掛けた恰幅の良い刑事が松田に拳銃を構えていた

「聞いたことに答えないからこうなる、お前らでいい、本部はどこだ?」

名城もすかさず松田と拳銃を構えた刑事の間に体を入れ睨みつける

「バカが!その手離せ!警告済みだからな、少々怪しいがまぁ建造物侵入、暴行、傷害、公務執行妨害の跳満だぞコノヤロウ」

「名城君、どくんだ…撃ってみろよ?ダブルアクションで当てられるのか?それにどうせお前らは初撃で即死を狙うなんてできねぇだろ?それが警察だもんなぁ?!」

刑事がハンマーを起こし狙いを定めた瞬間

「お前ら何してる!」

奥からグレーのスーツに身を包んた男が声を荒らげた

「部長!コイツに近づかないで!頭がイカれてる!」

「頭がイカれてるクソファック野郎ですよ」

2人が拳銃を下ろさずに答えるとグレーのスーツの男はそれを無視に松田に近づく

「ったく…まだ正式発表もしてないことをなんで知ってる…筒抜け過ぎだろ。とりあえずお前らそんなもん下ろせ、現状この人は敵じゃない、シン!いつまで寝てるんだ!シンを医務室に連れててってやれ」

2人はハンマーを落として銃をしまい若い刑事を起こしてその場を去った、髪を縛っていた刑事は最後まで松田を睨んでいた

「本部は6階、そこに行ってどうする?」

「弟村の無実を証明する証拠を持ってきた」

「私がそれ持っていく…は通じないか、その顔は…どうせ揉めても力づくて来るんだろ?一緒に来い、但し!お前だけだ、お嬢さんはここで待て」

名城がくってかかろうとしたが松田に止められた

「ダメだ、彼女も一緒に連れていく、ダメなら俺のツテで俺の持っている情報を公開する」

名城も身体を引かず鋭い眼光で睨みつけた

「わかったわかった!ついてこい」

3人はエレベーターに乗り込み6階へ

「ったく無茶するなよ、でその証拠ってのはなんだ?」

「東都警備保障に首掴まれてるあんたらは驚くよ」

「東都警備が関わってるのか?!」

「めでたい奴らだ…警察とグルなんだろ?東都警備は」

6階に止まりエレベーターから降り左へ向かうとそこは捜査本部だった。本部入り口で女刑事2人がもめていたが気にせず無理やり通ろうとすると松田の顔を見て2人の女刑事は驚いた

「私たちにも捜査をさせてください!」

「邪魔者扱いすんなよ!」

「うるさい!所轄は出ていけ!それにお前…今回の容疑者の関係者って言うじゃないか?!内務調査官から話がいくからそれまで…」

「この!あ…!!」

「お前…!!」

「なんだ!部外者が!出て…」

どの言葉にも反応せずスカートスーツ姿の女刑事を見ると松田は

「いい気なもんだな?アンタ?付き合ってる男が追われてるってのに…あれか?出世に響くから弟村はもういいのか?あ…それとも東都警備保障に再就職できなくなるからか?」

スカートスーツの女刑事は松田にくってかかる

「松田さん!やめて!史の無実は私が証明する!」

「遅いよ、もう、俺がそれを調べた…いい気なもんだな?」

刀を持ち黒のMA1を羽織った女刑事も詰め寄る

「Nancyが何もしなかった訳ねぇだろ?!知った口聞くなよ!しかもなんで東都警備が出てんだ!」

「何もしないやつに教える必要はない、知りたきゃ勝手に聞け…俺は情報提供者だ、弟村の無実を証明しにきた、退け、中に入れろ。まぁ力ずくでも入るが…」

グレースーツの部長と呼ばれた男が制止する

「入れてやってくれ」

女刑事と揉めていた警察官は冗談じゃないと言わんばかりに声を上げた

「所轄の分際で偉そうに!それにこいつは民間人だろ?それをこんな所まで!君の管理能力を疑うね!」

「民間人がここにいちゃダメか?ならアイツはなんだ?」

松田が開いていたドアの先を指さす

「お前に言う必要ない!さっさと…」

すると指をさされた男がやってきた

「見当違いも甚だしいな、ここを預かる片桐だ」

「まだ警官なんだなぁ?あんたてっきり東都警備保障かと思ったわ…クセェクセェ!あんたからはゴミ箱すら漁る躾のなってない飼い犬の匂いがプンプンする!」

「…そういう君は?」

「お前らが偽の情報で容疑者に仕立てあげられた弟村の雇い主、松田 啓介だ」

「偽の情報とは…とんだ言い草…」

片桐が喋り終わる前に松田は強引に中に入りマイクを奪って話始めた

「お前ら単細胞にも分かりやすい証拠を見せてやる!これを見ろ!」

自身がもってきていたPCをスクリーンに繋ぎ画面を見せると部屋内は騒然とした

「どうせ東都警備保障が全て証拠を出したんだろ?それが作りもんだとも疑わずにな!しかしどうだ?マスクをした人間達がアパートに入って直ぐに悲鳴だ!その後子供が出てきて弟村が保護した後、この動画で弟村は発砲しているが気がついたか?!自身の身とこの子供を守るように発砲している!そして先にちょっかい出したのはマスクをしているこのアパートから出た集団だ!少なくともササモト アヤを殺したのは弟村じゃないだろ!」

片桐を見ながら松田は続けた

「背格好はアンタそっくりだな!これの出処が知りたいだろ?東都警備保障のサーバーに保管されていたよ!」

「…ハッキングですか…ならもう逮捕だな…君を即刻逮捕…」

「不正アクセスで俺のガラ取るか?そんな小便刑屁でもねぇよ!いいか?お前ら警察が東都警備保障とつるんで何を企んでるかこの際目をつぶってやる!公にもしない!だが弟村を陥れたツケは払ってもらうぞ!!」


「森宿に弟村が現れました!」


「確保に迎え!相手は銃を持ってる!民間人が巻き込まれる可能性があるので発砲は…」

電話連絡を受けた刑事が大声で知らせると片桐が指示を出す、すると大勢が部屋の出入口に固まるがそれを松田が制止した

「発砲?!バカ言うな!弟村の無実は今証明したろ??!」

「弟村は拳銃を所持してる、それに不正に入手した証拠を我々が鵜呑みにすると思ったか?」

「不正も何も事実の指摘だ、真実を隠したのはお前らだろうが!」

「知らんね、不正アクセスの件は後日逮捕状をと…」

「…言いたいことはそれだけか?」

「なに?」

「言いたいことはそれだけかぁ!弟村が付き合ってる女の組織だから答えを教えてやったんだ!!もういい…もういい!所詮バカは死ななきゃ治らねぇって事か…ここから先は俺のやり方で弟村を助ける。いいか?この場の馬鹿共に警告するぞ?!俺のやる事に邪魔したり弟村にかすり傷1つつけてみろ!」


松田は1呼吸置いて一言だけ発した

冷たい氷穴の奥底から吹く風のようなその言葉を聞いた名城は絶句した



「バカが大勢巣食うこの東京…いや日本をガラムトラドと同じにしてやるからな…」

マイクを投げ捨て松田は名城の手を引き人混みを無理やり通り部屋を後にすると


「待って!松田さん!」

先程のスカートスーツの女刑事とMA1を着た女刑事2人がが松田を呼び止めた

「私たちが史…弟村を確保するから!」

「アンタがどう言おうがアタシら本部のクソ野郎の言うことなんて聞かない!だからアンタは…」

足を止めた松田は

「…東都警備と関わりがあるお前らに何ができる?」

「あの中にいる連中と違うわ!私達は!」

「どうだかな、俺からしたら何も変わ…」

やり取りをしているとグレースーツの部長刑事が松田の腕を掴み

「これ以上の無茶は見過ごせない!!!大人しく待ってろ!弟村は我々が絶対に…」

言い終わる前に片桐が部下を連れて押しのけて松田の正面に立った

「警察を脅すとは噂以上のとんでもない男だな、君は」

「片桐管理官!この男を挑発するな!」

「口を慎みたまえよ?一所轄が!」

「…どんな噂か知らねぇけど…暇なんだな?こんな時まで縄張りマウントでさ、寄ってたかってクズのオンパレードだな、どけ!」

「先程の真意は分からんが都民、いや国民を脅すような口ぶり…君らを逮捕する!おいコイツに手錠!」

片桐の後ろにいた刑事が前に出た瞬間、名城が構えて間に入るがそれを松田が制止し口を開いた


「どいつもこいつも………警察という肩書きが無ければ何もできないのに……めでたい連中だ……いっそここの連中……」


鋭く研がれた刃物、尖った氷の刃のような殺気を含む声は修羅場をくぐった名城が竦む程で松田を止めなければならないのに何もできずに立ち尽くした、しかしその殺気が伝わらない男は声を荒らげて松田の胸倉を乱暴に掴む


「用立て屋風情が調子に乗るなよ?警察庁の上層部はお前を何故か野放しにしてるが私には関係ない。即刻逮捕する、そこの女もだ!」

片桐の部下が名城の手を取る瞬間、グレースーツの男が片桐を力づくて止めた

「管理官!近寄っちゃダメだ!…!」



「いい判断だ…優しくしてやるのはもう終わりだ、弟村だけでは飽き足らず彼女まで俺から奪うのか…素晴らしい心がけだなぁ…俺は俺のモノを奪う奴を許す気はない」

「この人数差で何ができるんだ?あぁ?!自分の部下2人のために法治国家の警察に歯向かうという事はこの国全体を敵に回す覚悟があるのか?!」

松田は片桐を睨みながら

「俺にとって名城、弟村は部下じゃない…大切な家族だ。それ以外の命は無価値だ…特にこの日本ではな…この場で名城に手を出してみろ…まずお前を殺す、目玉に指を入れてそのまま引き寄せて首を締めてそのまま即首を折る、そして胸の38口径を奪い…5発ワンショットづつでお前らの脳ミソをそこにぶちまける、倒れる前にお前らの9mm拳銃…いや…膨らみからすると45口径か…なんでもいいが貰い受ける…ガキの頃に散々やってきた。人数かけて痛ぶる事しかできない人間なんて訳が無い…」

流石に片桐達も怖気付いたのか松田と距離をとる


「いい心掛けだ、俺はこの2人の為なら総理官邸だろうがシンボルタワーだろうが吹き飛ばすぞ、そのまま俺の邪魔をするな」

名城の手を引き部屋を出ると女刑事2人が追いかけてきて声を荒らげた

「お願い!私が絶対…史を助ける!だから!」


「…好きにしたらいい…俺も好きにする、止めたければ俺より先に弟村を確保するんだな」


それだけ言い残し松田は名城を連れて本部を後にした


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