第3話

「局長…この度は…」


大きな部屋のアンティーク調机の前にメガネをかけた男とパーマがかかった男が2人立っていて椅子にも男が座っていた


「暗号を解読された…か…君ら自慢のものなんだろ?」


「普通じゃないんです!!あの子供は数字が浮かんだと言ってました!おそらく…」


「その事についてではない…何故最終試験運用をそのような形で行ったか…理由を言いたまえ」


「テ、テレビはどこにでもあります、国内各地にいる散らばっている人間に同時に指示を出すならこの方法かと…」


「フゥ…で?対応はしたのか?」

座っていた男は椅子を回転させて振り向いた


「柳原達に連絡して収拾に…」


「2人とももう少しこの青いカーペットの上に来い」


「何故…?」


「いいから、内密の話だよ」


2人の男が指示通りの場所に立つと


プシュッ!プシュッ!


2人は頭部から出血しその場に崩れた


「こういうバカが足を引っ張る…片桐?どう対処する?」


暗がりから山根と呼ばれた男が銃のサプレッサーを外しながら現れた


「迫田達をもう向かわせて自分が行くまで見張れと伝えてあります」

「さすがだ、万事抜かりなく頼むよ?」

「はい」

そういい片桐と呼ばれた男は部屋を後にした


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まったくさ〜!なんなんだよ!2人して!」

「その話何回目だ!早く帰れよ!」

飲み屋で松田と飲んでいる赤い髪の女は「情報屋の涼木」本名は不明だが松田とは仲は良いがある意味お互いが商売敵でもあり協力者でもある

「帰れって…つれないなぁ…慰めてよ」

「い!や!だ!アンタ面倒くさそうだしタイプじゃない」

そう言い冷の日本酒を飲む

「アタシそろそろ帰るよ?!急用だって言うから来たのにこれじゃただの飲みじゃないか!」

「たまにはいいじゃない、僕には涼木ちゃんしかいないの」

松田はポテトを食べながらビールを飲み干した

「ねー!オカワリー!」

「さっさと2人に謝れ!んで帰れ!」

涼木は財布から金を取りテーブルに叩きつけて席を立とうしたが

「ねぇ?涼木ちゃんてさ?家族は何してるの?」

「なんでそんな事アンタに…」

「僕…知らないんだよね…家族ってもん」

何かを察したのか涼木は席に戻り飲み物を注文

「へぇ〜そんな話するの珍しいじゃん」

運ばれたビールを半分ほど飲んだ松田が続けた

「僕、捨てられたからさ…ずっと家族ってもん憧れてたんだ、でも2人が僕の所に来てくれてからはさ?椿ちゃんは口うるさい妹、弟村はマイペースな弟みたいに思えた。きっと家族ってこんな感じなんだって」

「アンタ間違えてるよ」

「何を?」

「メイドは家の事をやるしっかり者の姉、運転手は家計のために働く兄、アンタはわがままな末っ子」

「なんだよそれ」

「そうじゃないか、今回の喧嘩だってアンタの癇癪だろ?」

「…うん…」

「なら早く謝っちまいな、下手な意地はるとタイミング逃すよ?」

「分かったよ…でももう少しだけ付き合ってよ」

「お前の奢りならいいよ」

「そうこなくっちゃ、ありがとうね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


弟村は適当にクルマを流し今は少し騒がしい店が今はいいと思い

選んだ店は環状線三反田駅の大衆酒場兼食堂

三反田少し不思議な街で西口はオフィスか多く東口は歓楽街

と言っても神座町や森宿、六本松と違い盛り場的な要素より男が遊ぶ街、いわゆる風俗街だ。目当ての店は宅配型店舗が連なった建物や男女が一時楽しむ為のホテルが立ち並ぶ一角にある

「大衆酒場 まえだ」

ここは酒場だが定食もありボリューミー、平日はご飯が食べ放題と嬉しい限り

弟村は店から少し離れたパーキングにクルマを停めてキャバクラや飲み屋のキャッチを無視し「まえだ」の暖簾をくぐると店は満席だった


ーこの時間じゃ無理か…ー


諦めて出ようとした時


「あら?弟村さんじゃない?!久しぶり!1人?」

ピアスをジャラジャラ着け黒と金色の髪の店員の若い女が弟村に気がついて寄ってきた

「ああ、久しぶり。1人だけもこれじゃあ…」

「弟村さんは恩人だからね、1人くらいなら席作るよ!あれ?もう1人は?」

「1人だって言ってる」

「はぁぁん…分かった喧嘩だ」

女の店員はニヤニヤしながら何かを察し弟村の席を作る

「狭いけどこれでいい?」

「あぁありがとう」

「いつもの?」

「あぁ…チャーシューエッグ定食ご飯大盛りで」

「あいよー!お酒は?」

「今日は車だよ」

「オッケー」


そう言うと店員は厨房に入って行った


ー恩人か…大袈裟だよ…そう言えばあの時もここでこれを食べたなー





その日は名城が不在で荷物の移す手配を弟村が担当してのだが荷物の保管情報がどこから漏れ松田が売るはずだった武器弾薬がごっそり強奪されたのだった


「別に気にすることないよ、よくあるよくある」


「私がやってもこういう事ありますから、弟村さんお気になさらずに」



慰めの言葉は弟村にとっては刃だった

高い報酬を貰っている以上、仕事は完璧にしなければならない

役割どうこうじゃない、プロてしてやるべきだ

2人はああ言っても自分は1番下っ端の新人、きっと内心

「偉そうにして結局これかよ」

「元警官だからわざとかもな」

と思ってるかもしれない

信じるだなんて結局詭弁

俺が使えない木偶の坊だと理解したらすぐに切り捨てる

結局の所1人で生きなきゃならない

分かってたはずなのに

縋ってしまう自分に嫌気がさしその不満をロックの芋焼酎で流し込んだ


すると


「なんだよ、こんな所に居たのか、飲むなら誘ってよ」

声のする方を見ると松田だった

「松田社長…どうして…」

「はぁ?偶然だよ、偶然、ここ動画サイトでやってたから気になっててね、座らせて貰うよ〜よっこいしょっと…ねーー!ハイボールとポテトと唐揚げおねがーい」

「今はプライベートです、1人で居たいんですけどね」

「ん?そう言わないでまぁいいじゃん男2人でご飯も」

「……で…嫌味でも言いに来たんですか?」

「はぁ…だから気にしてないって言ってんじゃん、こんな商売だ、つきもんだよ」

「すみませーん、同じの!」

「何飲んでんの?」

「別に俺の勝手…あ!飲むなよ!」

言い終わる前に弟村のグラスを松田が奪い中身を飲む

「芋かぁ…ロックもいいけど炭酸割りも美味しいよ?ねーー!ここの芋お代わり炭酸割りにしてー!」

「勝手に決めんな!」

「いーからいーから」


ーホントこの人は分からないー


半ば諦めてツマミに箸をつけなるべく目を合わせないようにしていると勘づかれた


「君さ?僕の事嫌い?」

「別に、好きとか嫌いとか…ガキじゃないんだし、それに俺は必要以上にパーソナルエリアを踏みたくない。他人は他人、干渉…」

「僕は好きだよ!弟村君の事…あ!LIKEね!Loveじゃないよ!」

「分かっとるわい!バカ!」

「あ!バカって言ったな〜」

そんなやり取りをしていると先に飲み物が運ばれた

「なんだよ…芋炭酸って…」

「飲んだら分かるよ」

弟村は芋炭酸割りを半信半疑で口にした

「あ…美味い…」

「だろー?!先入観は良くないって」

「先入観?」

「そう、決めつけるなって事さ」

運ばれた揚げたてのポテトを口に放り込み話を続けた

「どうせ僕や椿ちゃんが君のこと悪く言ってるとでも思ったんだろ?ばーか」

「バカとはなんだ」

「だってバカじゃん、気にするなって言ったろ?その通り受け取れよ、仲間じゃん」


ダァン!


弟村は強めにグラスを卓に叩きつけた

「仲間?綺麗事はやめろ!どうせ俺の事が使えねぇと分かったら切り捨てるんだろう?!分かってるよ!んな事は!」

「なんだよ!急に」

「何が仲間だ!所詮人は自分が1番大切なんだよ!自分の利益を損なう奴は邪魔になる!そこは利害しかねぇだろ?!」

「あのさ?1つ聞いていい?」

「…どうぞ」

「だからなんで決めつけんの?」

「は?そういうもんだろうよ?!」

「自分が大切?結構じゃないか、みんなそうだよ、それはその通り。でもさ?1番が何個もあってもいいんじゃない?僕は自分が1番大切、でも椿ちゃんと弟村も1番大切だよ」

「フン!!口ではどうとでも言えらぁ!お代わり!」

弟村はグラスの酒を一気に飲み干し続けた

「あんたは綺麗事しか言わねぇな、それが気に入らねぇんだよ!俺を責めろよ!失敗したんだぞ?アンタの利益を損なったんだ!罵れよ!罵倒しろよ!なんで俺を慰めるようなこと言うんだ!」

「ほらまた悪ぶる、君ドMなの?罵られたりするプレイが好きなの?違うでしょ?僕は椿ちゃんと君には本音しか言わない、建前も言わない。まぁ損したらまた稼ぎゃいいんだ、3人食って行ければいいだろ?信用しろなんて言う気はないけどもっとリラックスして生きていいんじゃないの?疲れちゃうって、いつもそんなに眉間にしわ寄せてたら。それに…」

「それに?」

「お前は良い奴だし優しい奴だ」

「ハンッ!どこだよ?!」

松田もハイボールを飲み干しお代わりを頼んだ後

「そういう所だよ、いつも思うけど君のそれって僕が君を信用してる前提じゃないか。僕が君をガッカリさせない為に自分を信用させないようにしてるんだろ?君さ?勘違いしてるけど好きの反対は無関心だぜ?無関心なら嫌う事もない、なぜなら必要ないからね」

「なんなんだよ…意味わかんねぇよ…」

「だよね?アハハ!僕もわかんないや」

会話が終わると会計口で大声が聞こえた

「なんだよ!こんなに飲み食いしてねぇよ!」

「ちゃんと伝票つけてます!オーダー間違いはありません!」

「なんだとぉ!俺が間違えてるって言いてぇのか?!」

寄っているのか声を大きくして威嚇している男は強めに店員を押した

「なんだアイツ…嫌だねぇ…ん?」

松田か弟村に耳打ちするがそこに弟村の姿は無く揉めている男と店員の間に入っていた

「おい、やめろよ、飯が不味くなんだよ金払って出ていけ!!」

「なんだぁ関係ねぇ奴はひっこんで…?!」

男が弟村の胸倉を掴もうとすると弟村は瞬時に避けてよろけた男の顔面寸前の所に右手拳を放つ

「次はとめねぇぞ?」

男の取り巻きが近くにあったフォークを握って弟村に構えて弟村に襲いかかろうとした男が派手に転んだ

「男の勝負に武器は卑怯じゃない?」

松田が足を引っ掛けて転ばせたようだ

「警察呼ぼうか?これ以上やるなら?それに彼強いよ?君らが束になっても勝てないからやめておきな」

「クソ!こんな店二度と来るか、行くぞ!」

そういい男達は足速に去っていった

「あ!あの人達お代…」

店員が追っかけようとしたが松田が制止し万札の束を店員に渡した

「いーの、二度と来ないから、ああいうの、代わりに僕が払うよ」

「にしても多すぎます!」

「あ、そうなの?じゃあ今ここにいるみんなの分これで足りる?迷惑掛けたから僕の奢りー!みんな好きに飲み食いしなよー!」


おぉぉぉぉぉ!


店内が歓喜に包まれた


「兄さん最高!」

「あざーす!」

「カッコイイ!」


満更でもなく弟村の肩をたたき元の席に戻った


「何が必要以上に干渉しないだ、やっぱり良い奴だよ、お前は」

「そんなんじゃないんです!俺は松田社長に痛いところ指摘されてムカついてたから止めにはいったんです!人助けなんかじゃない!自分のストレスのはけ口に…」

「いいじゃないか、どんな理由でも人を助けたんだ、そんな君を僕は誇りに思うよ、すごい奴だ、もっと自分を好きになれよ」

その一言を聞くと弟村は少し泣いたように見えたが直ぐに目を拭き

「…ありがとうございます…」

「あいよ!」

ドンッ

店員が何やら定食を弟村に届けた

「俺に?頼んでないよ?」

「いいのいいの!サービスサービス!!チャーシューエッグ美味しいよ!」

炙ったチャーシューに目玉焼きが載っている料理を松田は不思議そうにマジマジと見ている

「なに…これ?」

「俺も初めてっす」

「僕卵嫌いなんだよね…」

「え?ホントですか?珍しいですね」

そういい弟村は目玉焼きの真ん中を端で割りチャーシューと一緒に口に入れた

甘辛ダレが肉々しいチャーシューと良く合い卵がまろやかにしてる

「美味い…美味い!これ美味い!苦手なら食べなくていいすよ」

「あ!チャーシューは食べられるもんねー!」

「おい!それだけ食べるのやめろよ!」

「いいんだもーん!僕は好きなもん……」



ーなんでこんな事思い出すんだよ、思えばあの人は俺を全部受け入れてくれてたな…それなのに…未だに俺は…情けない…ちゃんと謝ろう…ー


そういい弟村は急いで定食をかきこみ会計を済まそうとすると隣の卓では少し化粧が濃い若い女と軽薄そうな男が言い争いをはじめた

「めんどくせぇ女だな!もういいよ、別れるわ」

「はぁ?じゃあお金返してよ!返すって返してないじゃん!」

「うるせぇな!ギヤーギャー喚くなよ!」男が女を叩く素振りを見せた瞬間

男の右手を弟村が抑えた

「おい、ここはそういう場じゃねぇよ、外でやれ。それに女に手を上げるとかクソだな!」

そのまま力任せに男を拘束すると

「イテ!イデデデデデ!離せよ」

「そっちの、いくら貸したか知らねぇけどそういう男と見抜けなかったアンタも悪い、それにこんなクズが自分から別れるって言ってんだ、いいチャンスじゃねぇか?自分を安売りするなよ」

女は呆気に取られたのか言葉が出ない

「手を離すが…二度とこんな事するなよ!」

少し力を込めて弟村は男の右手を離し

会計を

「騒いで悪かったね」

「別にいいよ、ああいうのは痛めつけた方がいいですから、また来てくださいね!」


店の暖簾を潜り車を停めたパーキングがある方へ行きもう少しという所で



ガチャン!ガシャン!「キャ!何?!アンタ達!マサキ!」



近くのアパートから皿が割れる音や女叫び声が聞こえた


「なんだ!あそこか?!」

腰に装備しているG17をいつでも抜けるように手をかけてゆっくり音がした方に行くとぬいぐるみを持った幼い子供が歩いてきた


「おい!どうした!何が…」

幼い子供は弟村を見ると


「お母さん動かなくなった…わーわーわーわーー!」

「大きな声出すな!」

すると物陰から数人の男が現れて弟村に銃を向けると

「その子供を渡せ」

その一言を聞いた子供は弟村のズボンを強く掴んだ


「面倒事が尽きねぇ日だなぁ…こりゃ多勢に無勢だが…!」


パァン!


瞬間弟村は男達の後ろにある消火栓を愛銃のグロックで撃ち抜くと水が吹き出しその混乱に乗じて子供を抱き抱え車まで走り子供を放り込むように投げ入れシートベルトも付けずに弟村は車を発進させたのだった






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