第2話

「マサキー?テレビ見てないでお母さんのお手伝いしてよー」


アパートの一室で母親と思われる人がバタバタと食事の支度をしている中、テレビの前でアニメに釘付けになっている幼い子供にそう言ったが子供は食い入るようにテレビから目を離さなかった

すると何を思ったのかテーブルの上の母親のスマホを取りプッシュボタンを操作して電話をかける


「もしもし…」


ー?!もしもし!おめでとう!この番号を見つけたあなたに商品をプレゼントしますので名前…ー


電話口では若い男と思われる人間がまくし立てた


「お母さんから知らない人には教えちゃダメって言われてる、あなたは誰?」


ー子供?!どうしてこれがわかったんだい?ー


「テレビにこの数字が出たんだ」


ー数字が?!ー


「うん」

「あ!マサキ!コラ!何イタズラしてるの!」


ブチ!


「オイ!逆探知できたか!」

メガネを掛けた男は電話を置いてもう1人の髪にパーマのかかった男を問い詰めた


「基地局も番号も絞れた!品森区岡田山に住んでる名義は「ササモト アヤ」だ」

「…局長にバレたらやばい…人を手配して何とかしないと…」

「バカ!隠せると思うのか?!報告…」

「それこそヤバい!!俺達無事じゃ済まないぞ!」


男2人は慌てて準備をし狭い部屋を後にした



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


車の中は静かだった

2人とも分かっていたのになぜかムキになってしまったからだ

いつもなら受け流せるのに今日に限って

しかし沈黙を破ったのは弟村だった

「名城さんも大変ですね」

「?」

「あの人の世話をしてもう長いんでしょ?」

「もう慣れましたよ、あの人根はとても優しくて懐深い…」

「ホントそうなんですかね?!」

ホテル駐車場入口へ荒々しくハンドルを切り地下へ車を走らせる

「どうしたんです?弟村さんらしくないですよ?今日は?」

「別に!おかしくないですよ!毎度毎度ふざけた態度してるから頭にきただけです!」

ホテルの駐車場に車を停め2人で車から降り泊まっている1628号室へ

その間名城はずっとスマホ電話をかけ続けたが全く松田には繋がらない、おそらく電源を切っているのだろう

「全然繋がらない…私探しに…」

「ほっときゃいいんすよ!俺はいいけど名城さんにまであんな言い方して!ふざけやがって!」

弟村の怒りは留まらない

「弟村さんこそ何をそんなイライラしてるんです?」

「そんなこと…」

2人で言い合いがらエレベーターを降り1628号室のドアを開けると名城のスマホに着信

慌てて画面を見ると


ー白川審議官ー


の表示

少しガッカリした表情で名城は電話に出る


「はいもしもし」


ー先程はどうも、松田社長いらっしゃいます?ー


「いえ…今少し諸用で…」


ー何回かけても繋がらなくて、ちゃんとお詫びをとー


「?今日何かあったのでしょうか?」


ー…申し訳ない…実は弟村さんの事を色々聞いてしまって…松田社長の気分を害させてしまったんですー


「…そうだったんですね、私から伝えておきます、白川さんもどうかお気なさらずに」


ーいつでもいいんで社長が戻ったら俺に連絡ください、ちゃんと詫びたいので直ぐに伺います、それではー


「はい…そのようにお伝えしておきますね、失礼致します。社長が不機嫌だった理由…分かりましたよ」


「え?」

少しクールダウンしたのか弟村から怒りは消えていた

「どうやら白川審議官が弟村さんの事を色々聞いたみたいです」

「俺の事?」

「えぇ。何を聞いたか分からないですけど、社長に酷く怒られたのか白川さん平謝りでした。あの人昔から自分のことはどうでもいいのに周りの人の事を値踏みされるととても怒りますからね」

場が悪そうに弟村はネクタイを緩めソファに腰掛けながら

「……何言われたんだろ?別に俺は気にしてないのに」

名城は羽織っていたジャケットを脱いで荷物を片付けていた

「私には分かりかねますが…社長が目くじら立てる事と言えば…」

「SWAT時代の話かな?別に好きに言わせときゃいいのに」

「あの人にはそういうの我慢ならないんですよ、ホント…自分には無頓着のクセに」

ため息混じりに応える名城に弟村は頭を掻きながら

「ったく…訳が分からない、子供ですか?!あの人?!自分はよくて他人はダメで!そもそも俺は気にしてねぇのに!」

「弟村さん…知ってます?あの人皮肉や悪口を本人の前で言いますけど言い返さないんですよ、たぶん相手の言い分を理解する気がないら…でもなんやかんや憎まれ口のキャチボールするのって弟村さんだけなんですよ?」

「はぁ?」

「私…弟村さんが来るまであの方と2人でいましたがあんなに感情豊かじゃなかったんです。私の事を信用してくれてましたがどことなく他人行儀な感じだったんです、でも弟村さんにはこう感情豊かというか…たぶん凄く弟村さんの事好きなんだと思いますよ。少し妬いちゃいます」

「…なんなんだ、なんなんだよ!あんたら!今度は2人で俺への当てつけっすか?!」

「違いますよ、あの人素直じゃないか…」

「あーあー!そうっすよね!俺は新人ですよ!和平さんの事なんか何もわかっちゃいねぇすよ!」

「ちょっと!そんな言い方!」

「ふん!俺はなんと言われようと納得しないし謝んねぇからな!」

そういい弟村は部屋を出ようとした

「どこに行くんです?!まだ話終わって…」

「休暇なんだから!勝手にしますよ!ほっといてください!」

バタン!

強めに1628号室のドアを閉め弟村は車に向かったのだった


エンジンをかけてホテルの駐車場から荒々しく車を国道に向けて発進

心無しかアクセルを踏む足に力が入っていた

東京港連絡橋に向かう途中ファミリーボックスカーがウィンカー無しに弟村の車の前に急に車線変更して弟村は車線を変えながら急ブレーキ


「クソ!なんだよ…!」


その衝撃でダッシュボードが開き中から懐中時計が落ちた


ー?!忘れてた…なんなんだよ、こんな時にこれ見よがしに出てきやがってー


その懐中時計は昔暗殺されたアメリカ大統領が使っていたとされる懐中時計を白金で作り直したオーダーメイド品で松田が弟村にプレゼントした物

その時計を拾うと弟村はPeace Cpに入った頃を思い出したのだった



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ー武器商人とは聞いてたけどこんな事もするのか?!イカれてる!…でも従ってる俺もイカれてるか…ー


弟村はとある事件で知り合った男2人に渡された名詞の男「松田啓介」に雇われたがその男は違法スレスレの事を平気でして大金を稼いでいた

弟村は元々警官の特殊部隊SWATに所属していたが嵌められて退職を余儀なくされ便利屋紛いな事を生業にし荒んではいたが「正しくない行いはしない」を信条にしていた、しかし雇い主の男は全くそういう事を気にしない、人を殺したり傷つけたりはしないのだが道徳心等は持ち合わせてないようで弟村はそれがいつも気に入らなかった


「今だ!弟村くん!」


通行止めの案内板の前で輸送車が止まると松田が車の中で無線で指示

すると横からでかいトラックが輸送車に突っ込む

運転手は覆面をした弟村だ

助手席から覆面を被った名城が特殊警棒と体術で輸送車の警備員を瞬く間に無力化、その隙に弟村は輸送車の壁を指向性爆薬で爆破すると覆面を着けた松田が中に入り封書を確認


「あったぞ!これだ!これで奴らはもう終わりだ、時間がギリギリだ、警察が来るさ!行くよ!」

そういい松田が別に用意していた車に3人が乗り込み松田が起爆装置を押すと自身が乗っていた車とでかいトラックの運転席が爆発し燃えた

その日はマフィアがマネーロンダリングに使っていた銀行の無記名債権が積まれた輸送車を襲いそれを奪うという荒事だった


ーこいつは武器を売るだけじゃなくてこんな事もするのか?!表に出せない金だから好きにしていいのか?倫理観の欠片も無い奴だ!ー


どうやら秘密裏に頼まれたらしく有効活用する人間に債権を渡す現場に向かうと相手は珍しく1人でどうやら松田とは知り合いらしく松田が男に封書を渡す

「これでメルべファミリーは終わりだろ?」

「あぁ、洗った金の全てがこれだ。無茶を頼んですまない」

「まぁ〜骨が折れたよ、でもウチというか…まぁまぁ無関係じゃないから。でもこんな事はもうしないよ?」

「分かってるよ、他の人間に頼むつもりだったが信用ができない。でもアンタなら話は別だ。ロッシーニのシマの話だからな」

ロッシーニの名前を聞いて弟村は驚いた

「あんた…ロッシーニを知ってるだろ?」

「……まぁ人並みにはね」

「人並み?だってあんた…」

男が言い終わる前に松田が渡した封書を今度は松田がそれを奪うと持っていた拳銃で封書を撃ち抜いた

「お前!何してる!」

「余計なお喋りする人嫌いなんだ」

「バカが!それの価値を知らんアンタじゃないだろう!」

「さぁね、そもそも約束したじゃん?ロッシーニの名前を僕以外に出すなって。これはそのペナルティだよ」

名城は顔を抑えながらヤレヤレと言った感じだった、弟村は驚いてはいたが平静を装う

ロッシーニとは少なからず因縁があったからだ

「君との取引は今後しない、はい!じゃあ帰るよー、ほら!運転手!君が運転するんだよ!」

我に帰った弟村は乗ってきた車の運転席に座ると名城と松田も乗り込むのを確認してクルマを発進させた、ミラーには何やら怒鳴っている男が見えた

しばらく松田の指示でクルマを走らせていたが名城が大きなため息した後に

「はぁ…もう何のためにこんな危ない事したんですか?!」

名城は松田の襟元を掴んで詰め寄った

「ちょっ…!痛いよ!ごめんて!」

「だいたいなんです!無記名債権を奪うって!こんな便利屋紛いな事も今後されるんですか?!」

「違う違う!頼まれたって事もあるけどこの債権の持ち主を僕が嫌いでね、アタフタするのを見たか…」

「松田社長…ロッシーニってあの?」

弟村が口を挟む

「ん?どの?」

「とぼけんなよ、俺の経歴知ってんだろ?」

「へ?」

クルマを急停車させてミラー越しに弟村が詰め寄る

「ふざけやがって!相手がマフィアなら何でもありかよ!アンタには道義心的なもんないのか?警備員は死んではないけど骨ぐらいはイッてるぞ!」

「別にあれくらいで死なないって、椿ちゃんは強いけどそのへんは手を抜いてる…それにさ?聞くけど州法で合法的にシマを引き継いだメルべを終わらすにはどうしたらいいんだい?」

「……」

「ん?都合が悪くなると黙るかい?まぁいいや弟村君は正しいやり方にこだわるけどならどうしたらマフィアを潰せる?答えなよ、みんながみんなあの大使補佐みたく自分を貫けないよ?」

髪の乱れを直しながら名城が話に入る

「あれはやっぱり弟村さんだった!!例の告発後、彼女がインタビューに答えてたけど「自分を助けてくれた人がいる」って、彼女の口ぶりが何となく弟村さんを匂わせてたなぁ〜って」

「……だからってこんなやり方…それに債権をアンタ売ろうとしてたじゃないか!」

「これ!な〜んだ」

松田はもうひとつ封書を出して弟村に渡した

それを受け取ると弟村は乱雑に封書を開け中を確認すると目を丸くした

「…これ!」

「こっちが本物さ」

「さっき渡し…」

「ん?あれは偽造さ、スーパーフェイクってやつ。バンカーとか証券マンじゃないと見破れ無いレベルで作ったんだよ」

また名城が松田の胸倉を掴み詰め寄る

「ホント!何のために!アメリカまできて!こんな事!」

「ちょ!く、苦しいって…椿ちゃん!アメリカに来た理由はこっちが本命で債権のことはぶっちゃけついでなんだ」

「ついででこんな事したんですか?!」

「…ぐぇ…この債権を弟村君にあげるのと…もうすぐ着くのに弟村君がクルマ停めたから…」

「全部弟村さんの為なんです?」

名城が手を離すと弟村も反応

「え?」

「もうワンブロック先に行くとアンティークの時計を扱ってる店がある、そこに用事があったんだ」

「債権を…俺に?それにアンティークの時計?」

「うん、少なからずメルべはロッシーニの息がかかった奴だ、その生命線がこれ。因縁があるんだろう?君は」

「…俺の噂を知ってるだろ?俺がこれを持ってメルべに…」

「君が?ナイナイナイ!」

松田が大笑いしながら続けた

「何悪ぶっちゃってんの?!君がそんな事する訳ないよ!アハハハハ!苦し〜」

「茶化すなよ!汚職まみれのクソ警官だったんたぞ!俺は!それをなん…?!」

「アヒャアヒャ!真面目か?!数ヶ月君を見てたけど君はそんな事する人間じゃない、君は良い奴だよ。噂なんかそのうち消えるさ」

「良い奴?俺が何して警官クビになっ…」

「知らん知らん!そんなもん!いちいちうるさい!僕はね?自分で見た物しか信用しないし判断しない、君がそういう事をする卑怯な奴ならとっくにやってるよ。良い奴の特徴…知ってる?」

「…さぁ?」

「自分が悪い奴のフリをするんだ、悪態ついたりね、まさに君そのものだ。君は良い奴、僕が保証するよ。ほら、早く行きなよ?」

弟村はクルマを出し松田が指示した店の前にクルマを着けた

「あ、ここだよ弟村くん。君が受け取っておいで」

弟村は納得いかない顔をしてクルマを降り店に入っていった

「なんでこんな手の込んだ事するんですか!」

名城の怒りは止まらない

「ごめんて!ロッシーニの件知ってるでしょ?」

「…はい。雇う上で調べました、弟村さんにとっては因縁の相手ですし」

「彼さ?なんか人と壁作るじゃん?今まで煙たがられたりしたんだろう…それでまぁ色々あったからヤマアラシのジレンマに陥ったんだ…だからせめて僕と椿ちゃんの前ではリラックスして欲しいんだ。人間1人じゃ生きていけない…分かるだろ?」

「えぇ…まぁ…」

「あいつスカして強がってるけど本心は誰かといたいハズだ、じゃなかったら僕の命令とはいえここまでやらない、嫌なもんは嫌だと言うタイプだ。その証拠にいつも頼んだ仕事はキッチリやるけど絶対何か僕に文句は言うだろ?なんだか僕にわざと嫌われようとしてる節があるよ。まぁ今回試したのはあるけどね」

「実際弟村さんがあの債権をメルべに渡したらどうするんです?」

「ん?する訳な…」

「万が一の話!」

「んーーー?そんときゃメルべのウンコマフィアとやり合うだけさ、僕には椿ちゃんがいるからね、へーきへーき」

頭を抑えてまた大きなため息を名城がつく

「はぁーーーーー…もぅ!せめて私には言ってください!」

「わかったわかった…お?戻ってきたよ」

クルマのドアが開き弟村が運転席に座ると

「開けていいですか?」

「もちろん」

弟村が包み紙を乱雑に破くと中は小さな箱だった、箱の蓋を開けると中身は白銀の輝きを持つ懐中時計だった

「これを?俺に?」

「わぁ!!綺麗!」

「それ特注品なんだ、昔の大統領が使ってたって言われてるモデルだよ。君体鍛えてるから時計のバンドが合わないって言ってたからさ、これならいつでも持てるだろ?胸ポケットに入れるも良し、ポケットに入れるも良し、まぁ入社祝いだよ」

「受け取る理由…ないです、これ買い取ります」

「ばーか、それ外側は白金、表面加工費、文字盤の装飾や中の歯車はジルコニウムって金属でバカ高いよ?あ、僕分割とか受けないから即金ね」

「……なら…」

「あーめんどくさい!じゃあ向こう3年僕の下で働いて、そしたらチャラ。」

買うと言った手前なかなか強く出られなくなり弟村は頭を掻きむしりながら

「あーーーもぅ!わかりました!わかりましたよ!働きゃいいんでしょ!3年ね!そしたらすぐに辞めてやる!」

「オッケー決まり!その債権は好きにしてい…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ー照れくさくて着けてなかったなー


結局弟村はその後債権を匿名の告発状と一緒にFBIに、そのコピーをマスコミに送りメルべファミリーを潰すきっかけを作った

ーあの時嬉しくなかったと言えば嘘だ、俺は内心ホッしたんだ…無条件に俺を理解しようとしてくれたあの人…ー


だが啖呵を切った以上簡単に謝るのも癪に障るので軽く飯を食ってから帰ろうと決めた弟村だった







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