passing each other

乾杯野郎

第1話


「社長!俺どうやらここまでっす!例の件はもうこれで自由っすよね?!俺には似合わないので返します!俺みたいなひねくれもん居なくなったら清々するでしょー?!」


両手を上げていた男は拳銃をつけつけられている状況で叫んでいるが口元は笑っていた


「クソバカ!何言ってんだ!お前の代わりなんていねぇよ!離せよ!おい!そいつに銃を向けるな!俺がそいつの無実を証明したろ?!そんなもん降ろせよ!そいつに傷一つつけたら承知しねぇからな!離せよ!」


「離して!私に触らないで!離して!弟村さん!弟村さん!」

大勢の警察官に長身の男と銀髪の女が取り押さえられながら叫ぶ


銃を向けられた男は何か悟り上げていた両手を下げた瞬間


放たれる銃弾


ークソみたいな世界だったけど…和平さん…名城さん…ありがとう…拾ってくれたのに…受け入れてくれたのに…あんな事言ってごめんなさい…素直になれなくてごめんなさいー



彼は撃たれた時感謝と謝罪を思ったのだ



「弟村ぁぁぁぁ!このぉぉ!お前ぇぇぇ!」



銃弾が男の胸部を貫くとその場に倒れたのと同時に銀髪の女は急に動きを変え警察官達を制圧、抑えられていた長身の男も反撃し手を離させて振り切り男を撃った人間に間合いを詰め体術を叩き込んだ後拳銃を取り上げて放り投げ倒れている男に駆け寄り抱きかかえる


「弟村…弟村ぁ…馬鹿だなぁ…早く帰っくりゃ良かったのに……でももう大丈夫だ…僕が来たから…ほら?ここしっかり抑えるんだ……僕の顔見たくないから目を閉じてるのかい?ごめんよ…最高の医療スタッフを用意するから…心配しないでいい…治ったら3人でご飯行こう…その時くらい秘密のお店教えてくれよ…あれ?君は僕の護衛じゃん…鍛えてたんだろぅ…?いい加減目を開けてくれよ…それに…やられっぱなしは君に似合わないだろう?手伝うよ…大丈夫…僕が…僕が…想像以上の苦しみを…お前が受けた痛みを…クズ共に味あわせてやるから……クズ共が泣いてお前に詫びる様を……一緒に笑ってやろうよ……だから…だから…返事ぐらいしたらどうだい…?…なぁ…?…返事してくれよぉぉぉ!弟村ぁぁぁぁ!なんで血が止まんねぇんだ!この!この!……寄って集って……弟村を……袋叩きにして……満足かよ!これで満足か?!こんな良い奴を……なんでこんな良い奴が…この報いは受けさせるからなぁぁ!!……殺してやる……殺してやるぞ!仮面を被ったクズ共!警察!官僚!政治家!全員殺してやる!この国の奴は俺から全て取り上げた…それでも足りねぇか?!だから弟村もか!…どいつもこいつも!皆殺しだ!俺を舐めがって!絶対に許さねぇからなぁぁぁぁぁ!」




長身の男は人目をはばからずき泣き叫びながら止血しているが撃たれた男は目を瞑ったまま表情はどこか満足気に笑っているようだった…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




まだ4月も半ばなのに近年の日本の気候は春がなく気温も25℃越え

朝晩は涼しいが昼間は半袖で過ごせる陽気で早い初夏だった

その日は国防軍の正式ライフルのトライアルコンペが近いのである物を白川審議官立ち会いの元で引渡した

しかし松田が用意したのはコンペに出すものではない、白川審議官の頼みで用意した物は国防軍が仮想敵国軍が使うと想定したライフルで主に戦闘訓練用に使うライフルを予備やパーツを含めた40丁分、コンペが決まった後の訓練用だ


「社長、いつもありがとうございます」

「いやいや、審議官の頼みだから断れないよ。それにまだまだ国防軍は併合してままならない、仮想敵国をたてて訓練して統一感を出さないとね。本音言うとトライアルの方が良かったなぁ〜」

「流石に法務機関用を社長にお願いする訳にはいかないですよ」

「そりゃそうだね、僕は裏稼業だし」

談笑しているスーツに身を包んだ小柄の男は白川審議官、長身でベースボールキャップ、グレーのパーカーにスリムデニム、ロレックスのデイトナを腕にはめてビンテージスニーカーの男がPeace Cp代表 松田 啓介

「社長ー!荷物のチェック終わりましたー!」

「ありがとーマッチョ君」

「人前では名前で呼べ!もう!」

黒のスーツにレイバンのミラーサングラスをかけた男はPeace Cpの運転手兼護衛の弟村 史は不機嫌そうだった

「そんな怒んなよ、あだ名みたいな…」

「あんたのはただのイジりだよ!」

「すーぐそうやって怒る、ひょっとして君更年期?」

「殴ろうか?マジで?!」

弟村が両手の関節をポキポキ鳴らすと

「ひゃー怖や怖や、あれ?椿ちゃんは?」

「名城さんは入金チェックと引渡し書類のチェックをしてますよ」

「りょ〜か〜い、んじゃ椿ちゃんが終わったら僕らは帰ろうか?」

「俺車回してきますね」

「ありがとー」

松田の返事を待たずに弟村は車を取りに行った

「しかし社長の所の彼…元SWATでしたっけ?」

「ーん?そうみたいね、よく知らんけど。椿ちゃんの方が知ってるんじゃないかな?」

「は?」

松田の意味不明な受け答えには慣れている白川だがまたも不可思議な答えが返ってきて少々驚いた様子だった

「え?なんで僕がそこまで知らなきゃならないの?」

「だって護衛なんですよね?」

「うん」

「なら身辺をキチンと調べません?普通?」

「え?そうなの?」

「…社長にそういうのを聞いた俺がバカでした」

「はあ?どういう意味よ?」

「…1つ聞いていいですか?」

「いいよ、何?」

「彼…汚職でSWATクビになってますよね?それなの…」

「調べたんだ?へぇ〜ヒマなんだねぇ〜国防省ってのは。んで?君にはウチの弟村がそう見えるの?」

松田は飄々とした口ぶりだが雰囲気が変わったことに白川は気がついた

「…いや、まぁ見えないです」

「ならそれで良くない?いちいち人の過去なんて知る必要ないよ、問題は今信用出来るか?だ。白川君だって統一戦争経験したんでしょ?君は人を指摘できる程人に後ろ指刺されない立派な行いをしてきたのかな?」

「…すみませんでした」

「なんで謝るの?」

「立ち入ったことを言ってしまい申し訳なかったです」

白川は深々と頭を下げた

「別にいいよ、人が見てる、頭上げて。それにさ?僕に謝るんじゃなくてあの脳筋男に謝れよ」

「…すみません…」

「僕の事はどう言うとどう思うといいよ、でもアイツはめちゃくちゃ良い奴だ、今回は聞かなかった事にするけど次はないよ?白川くんでもね」

「…でもなんだか羨ましい気もします」

「は?何言っちゃってるの?」

「俺もそれだけ人に信用されてみたいですね、損得なしに。まぁ政治の世界なので無理ですが…」

「ハハっ、もっと仲良くなったら僕とそうなれるかもね」

松田がポケットから安い棒付き丸型キャンディを出して口に入れると車のクラクションが響き音のした方を見るとAudiA4が止まり車から銀髪メイド姿の名城が降りてきた

「社長ー?終わりましたよ」

「ほーい、んじゃ白川くん、またね〜」

「ではまた、お詫びに食事でも」

「んー…まぁ気が向いたらかなぁ〜」

そういい松田は名城が開けた車のドアから乗り込むと車が発信した


「2人ともお疲れ様」

「!珍しい…明日は雨かしら、ねぇ?弟村さん」

そう運転席の弟村に話しかけたのは秘書兼世話係兼護衛の名城 椿

弟村より松田との関係は深く会社の経理、松田の身の回りの世話を焼くメイドだが裏の通り名は「ハウンド」、戦闘能力はその辺の傭兵が束になっても敵わない女

「いやー大雪じゃないっすか?名城さん」

「フフッ、明日は交通麻痺ですね」

「なんだよ…2人してバカにして…」

機嫌を損ねたのか松田は頬を膨らませて窓側に顔を倒した

「何むくれてんすか?冗談すよ、冗談。社長もお疲れ様です」

「しばらくオフですから気晴らしにどこかに遊びに行かれますか?」

「……ねー?弟村は僕の所にきてもうどれくらい?」

「え?なんです?急に」

「いいから、何年?」

「えっと…どれくらいだろう」

「1年半くらいですよ、社長。あの時もめちゃくちゃでしたねぇ」

名城は何かを思い出したのか頭を抑えていた

「そんな経ちます?」

「えぇ、忘れられませんよ、社長はどうせ覚えてない…」

「覚えてるよ、弟村を初めて空港で見た時にピンと来たんだ」

名城は少し驚いたのか手を口に当てていた

「え?意外!」

「たしかに、すぐ忘れる社長が!」

「君たちねぇ…僕のことバカにし過ぎだよ?」

ミラー越しの弟村はニヤニヤしながら話に入った

「ビビりましたよ、いきなり「君!ウチで働かない?いや!うちで働こう!」でしたもん」

「結果僕の目に狂いは無かったでしょ?」

「まぁ…そうですね。悔しいけど」

「どういう意味だよ!」

「別に〜」

「ほらほら喧嘩しないの、2人とも仲がいいんだか悪いんだか」

名城が割って入るが松田は止まらない

「このプロテイン!そろそろ本気で怒るよ!」

「プロテインて言うな!」

「ササミブロコッリー!」

「バカ舌男!」

「いい加減になさい!」

名城の声で2人は止まる

「…椿ちゃん、オフって何日?」

名城がスケジュールを確認する

「えぇ〜っと…明日から4日間です」

「おいプロテイン!4日間自由をやる、この車も使っていいから僕に顔を見せるな、椿ちゃんも!」

「はぁーーー?!嫌な言い方!」

「はぁ…どうしたんです?商談も上手くいったのにそんなに不機嫌なんです?」

「別にいいだろ?!休ませてやるって言ってんだ!いちいち2人して突っかかりやがって!停めろ!そこで!」

弟村は急停車し名城も前のめりになった

「ちょっと!社長!そういう言い方は無いでしょ?!」

名城も珍しく食ってかかった

「この人はこういう人なんですよ!俺たちの事玩具か何かだと思ってるんです!この際だからハッキリ言いますけどね!いちいち俺らに憎まれ口叩くのやめて貰えませんか

?!」

弟村も負けずに声を張りながら反論

「うるさいな!僕は雇い主で君ら従業員なんだ!いちいち突っかかりやがって!この脳筋と口うるさいメイドめ!」

「はぁーーー!誰が好きで口うるさくしてるんですか?!」

「そっちが停めろって言ったんでしょうよ!そんなに俺達がムカつくならもういい!もういい!」

弟村がシートベルトを外そうとする前に松田は車のドアを開け

「勝手にしろ!バァァカ!」

バタン!

「!」

名城は止めようとしたが言い終わる前に松田は走って街の雑踏に消えた

「私追っかけてきます!」

「別にいいんじゃないですか?!勝手に降りたんだし!それにあの人それなりにお強いですから!大丈夫ですよ!車出しますね!」

そういい弟村は車を発進させてクライトンベイホテルへ車を向けたのだった


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