本当にいるの? 都市伝説ジャンピングばばあ!

 新大阪から御堂筋線に乗りかえ、さらに近鉄に乗りかえて、喜志きし駅に着く。

 そこから、今回の依頼主である、とある大学の近くまでバスに乗った。

 そのあいだに、わたしと翔くんは、サコ爺から、今回の詳しい依頼内容を聞く。


 ジャンピングばばあ。

 どうやら、やっぱり全国的にではなく、名古屋で有名な地方限定の都市伝説らしい。

 サコ爺の話では、名古屋のジャンピングばばあは、墓地の中で、数メートルの高さで飛び跳ねているという。

 さらに、平和公園のそばの道路を車で走ると、着物姿で下駄をはいたおばあさんに、猛スピードで追いかけられ、すごいジャンプで抜き去っていくという話もある。


 ところが、今回の依頼は大阪だ。

 大阪でも、ジャンピングばばあの都市伝説があり、そこでは、近くの芸術大学のそばの橋の端に、あらわれるという。

 そして、橋のそばを通りかかる学生のまわりを跳ねまわったあと、そのまま、飛び去っていくらしい。


 それまでは、実害は出ていなかった。

 この都市伝説も、大学生の中で、伝えられていたものらしい。

 名古屋発の都市伝説らしいので、もしかしたら、名古屋出身の学生がそれらしく語り、後輩に伝わっていったのではなかろうか。

 そのような都市伝説だったのだが、最近になって、ジャンピングばばあが通りかかる学生に、体当たりを食らわせるようになったという。


「それって、実在するばあさんじゃないのか?」


 一番考えられることを、翔くんが口にする。

 サコ爺は、首を横に振った。


「ボロボロの着物に下駄という恰好で、数メートルの高さを跳ぶそうです」

「あ~。ね~」


 わたしは、あいづちを打つ。


「そして、最後は高く飛び去っていくそうですから、ちょっとその辺にいる年配のご婦人には、無理じゃないかと」


 それを聞くと、もう普通のおばあさんではないだろう。

 もっとも、忍びのわたしをあっさりつかまえるサコ爺も、かなり人間離れをしている気がするけれどね!


 電車やバスの窓から見える風景は、懐かしさを感じるような街並みだ。

 田舎風の道で、田んぼもあるし、住宅地や商店街もある。


「都市伝説は、噂だけであれば、面白いものかもしれないけれど。安心して暮らせる町にしなきゃね」


 わたしのつぶやきに、翔くんは小さくうなずいた。




 バスをおりてから、サコ爺の持つ地図を頼りに歩く。やがて、交差点にさしかかり、その向こうに、川と橋が見えた。

 それほど大きくない川にかかる、茶色い手すりが設置された橋だ。


「なんだ、普通の橋だよね。おかしい気配は感じられないなあ」


 わたしは、伸びあがって、橋の柵から下の川を見下ろした。


「そうだね。ぼくの刀も、鍔鳴りがしない。いまは、いないな」

「その鍔鳴りって、前にも聞いたよね? どういう意味なの?」


 わたしは、翔くんにたずねる。

 翔くんは、橋の周辺に視線を向けながら説明をしてくれた。


「鍔鳴りは、もともとは、刀を鞘におさめるときに鯉口こいくちと打ち合って鳴る音だ。でも、都市伝説の気配を感じたとき、この刀は共鳴するように音をだすんだ」

「そうなんだ! 妖気探知機みたいで、便利だね」


 そう言ったわたしを、翔くんはじろりと見た。

 妖気探知機とか便利とか、安っぽく聞こえちゃって、いやだったのかな?

 アハハっと笑ってごまかしたわたしと、睨んでいる翔くんに、サコ爺が声をかけた。


「気配がないのであれば、お昼も過ぎましたし、どこかで昼食にしましょうか」

「賛成!」


 わたしはすぐに、びしっと手をあげた。


 しばらく歩いて見かけた喫茶店に、わたしたちは入る。

 窓際で、ふたりずつ、向かいあって座る四人席があいていた。

 わたしは素早く、窓を背にして座る。

 なぜなら、サコ爺と翔くんが向かい合って座ったとしたら「えへへ~。おとなり、ちょっといいっすか~? どうもどうも、すみませんね~」なんて言いながら、翔くんの隣に座るなんて、恥ずかしいじゃない?

 微妙な乙女心よ。

 なので、ここはずうずうしく、最初に座らせていただいた。


 普通に考えたら、サコ爺がひとりで座って、その前にわたしと翔くんが並ぶかな?

 それとも、わたしがひとりで、向かい側に、サコ爺と翔くんが並んで座るだろうか?

 その構図は、ちょっと悲しいかも……。


 なんて、わたしがひとりで緊張していたんだけれど。

 あっさり翔くんは、わたしの横に無言で座った。

 サコ爺が、前にひとりで座る。


 ああ、翔くんと、同じテーブルで、並んで座っているなんて。

 なんだかもう、それだけでわたしは幸せよ!


「なに、にやにや笑ってんだよ。気持ち悪いな。さっさと頼むものを決めろよ」


 呆れたような目の翔くんにメニュー表を渡しされて、わたしはとろけるような笑顔のまま、パンケーキとミルクティーのセットを指さした。

 なかなか女子力の高いパンケーキなんて、わたしは食べる機会がなかった。

 だから、はじめてのパンケーキ!

 目の前に置かれた、ふっくらとして、美味しそうな焼き色のついたパンケーキ!

 ふわふわの真っ白な生クリームを乗せて、甘いはちみつをたっぷりかけて。

 もう、ほっぺたが落ちそう!

 おいしい!


「昼ごはんに、パンケーキか……。それ、デザートじゃないのか?」


 あきれ顔の翔くんに、わたしは満面の笑みで返事をする。


「え~。だって食事をしたあとにパンケーキだなんて、どれだけカロリーがあると思うの? それに、サンドウィッチやクロワッサンがよくて、パンケーキがダメだなんておかしいわ。今日のランチは、パンケーキよ」


 よくわからない変な生き物を見るような目で、翔くんはわたしを見る。

 でも、わたしは気にしない。

 それに、もちろん、翔くんの好きなものチェックも怠らない。

 翔くんが選んだのは、大盛りのナポリタン。

 うん、なんていうか、男の子だな~。

 そういえば花子さんのときも、いろんなメニューがそろっているお店で、翔くんはパスタを食べていた。

 だから、本当にパスタが好きなんだろうな。

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