うれしはずかし日帰り旅行!

 次は新大阪だという、新幹線の中。

 わたしは、話しかけるタイミングを、ジッとうかがっていた。


 翔くんとサコ爺は、わたしの席から通路をはさんで、ななめ五列後ろに、ふたりで並んで座っている。

 そこに、彼の妹ちゃんである阿万音の姿はない。

 まあ、家族旅行というような呑気な話ではないので当然だろう。


 なんてことを考えているわたしが、なぜ翔くんと同じ新幹線に乗っているのか。

 あとをつけて、新幹線に乗ってまでのストーカーだとか、そんなものじゃないのよ。

 さすがに、そこまでの行動力はないし、小学生なのに、新幹線のチケットを簡単に買えるような財力もない。


「遠出になりますが、凛音さんは、どうされますか?」

「はい! パートナーとして行きたいです!」


 遠慮なく手をあげて即答したわたしに、今回はサコ爺が用意してくれた指定席なの。

 でも、新幹線に乗りこむときに、わたしは翔くんに、声をかけそびれちゃって。

 そこからずっと、ひとりで座りっぱなしだ。

 それでも、長いあいだ乗っている新幹線だし。

 場所的に、わたしの席は翔くんの前だし。

 翔くんが周囲を見回してくれたら、きっとわたしの姿が、視界に映るはず!


 なんて思ったのに。

 翔くんは、サコ爺と並んで席に着いたとたんに、カバンから本を取りだして、読書に冒頭しちゃったのよ!

 考えたら、普段から教室で、ひとりで静かに本を読んでいる翔くんだもの。

 そりゃあ、長い時間を過ごすために、当然本を持ってくるよね?


 わたしは、彼が休憩をするまで、じっと待つ。

 長い読書の合間に、きっと背伸びをしたり周りを見たり、するんじゃないかなって。

 待っているあいだ、気づかれてもいいわたしは堂々と、手すりに肘を乗せて両手でほおづえをついて、翔くんを眺める。


 ああ、ステキなお顔。

 いくら眺めても見飽きない。

 少し眉を寄せて、真面目な表情で本を読んでいる姿もカッコイイ。

 うっとり。目が奪われちゃう。


 なのに。

 やがて翔くんは、本を読み終わると、大きく背伸びをして。

 そして、次の本をカバンから取りだしたのよ!


 二冊目の読書に突入。

 さすがに、わたしは、彼のほうから気づいてもらうことをあきらめた。

 だから、そのあいだに、サコ爺から聞いた今回の都市伝説の名称から、携帯コンピューターを使って、情報を確認することにしたの。

 ほら、少しでも翔くんの役にたちたいものね。

 そうなると、わたしの強みは情報になる。


 ところが、検索にひっかかる都市伝説の場所は、だいたいが名古屋なんだよなぁ。

 なのに、今回の目的地は大阪となる。

 サコ爺のところに持ちこまれた依頼主が、どうやら大阪の大学なのだそうだ。

 ちらちらと、都市伝説の名前はネットにあるけれど、さすがにこれだけでは、詳しい依頼内容は、わからない。

 仕方がない。これはサコ爺から、翔くんと一緒に依頼内容を聞くしかないよね。

 ってことは、サコ爺と翔くんに、声をかけるしかない。


 わたしは、決心して、立ちあがった。

 そして、通路側に座っている翔くんの横に立つ。

 わたしの決意が発する、ただならぬ気配に気がついたのだろうか。

 座ったままの翔くんは、ひょいとわたしを見上げた。


「え? 凛音? おまえ、どうして……?」


 翔くんは、目をまんまるにして驚いている。

 そりゃあ、そうだよね~。

 わたしは、にんまり微笑んだ。


「ふふん。あら、翔くん、偶然ね」

「偶然なわけ、あるかよ! おまえ、どうやって?」

「ちゃんと指定席を確保して、乗っているんですぅ!」


 わたしは、サコ爺にもらった指定席を、さも自分で情報を入手して用意したかのように、指にはさんで見せびらかす。


 ここまできたら、さすがに翔くんは、引き返せとは言わないよね。

 むっとした顔で睨まれても、全然怖くない。

 カッコイイ男の子って、どんな表情でもステキよね~って、ほれぼれしちゃう。


 そのとき、まもなく新大阪――と、アナウンスが新幹線内に流れた。

 さあ!

 サコ爺という保護者つきとはいえ、片想い相手の翔くんと、都市伝説討伐の日帰り旅行、はじまりよ!

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