翔くんによる、わたしの身元調査!

 今回は、おとり役を引き受けたので、翔くんと一緒に、サコ爺の車に乗る。

 後部座席に、ふたりで並んで乗っていると、こんなとき、なにを言っていいのか、わからないよ。

 メチャクチャわたし、緊張しちゃってる!

 こんなに近くで、翔くんのカッコいい横顔だなんて。意識したら恥ずかしくって、見られない。

 第一、こんなに近くから横を向いたら、すぐにバレちゃうじゃない!

 胸もバクバクだわ。

 まさか、わたしの心臓の音なんて、聞こえていないよね……?

 お願いします! いまだけ絶対、お腹は鳴らないで!


「――そういえば、おまえ」

「ひゃい? え? あ?」


 変な声がでちゃった!

 でも、翔くんは、わたしの様子は気にもとめていないのかスルーして、言葉を続けた。


「なんで手伝いたいわけ? 興味本位? そういや、前のアレ、なにをしたんだ?」

「え~。言わなきゃダメかな」

「ぼくの手伝いをしたいんだろう? だったら言え。洗いざらい吐け」

「え~。恥ずかしいな」


 なんて言いながら身をくねらせると、翔くんに冷たい目で見られちゃった。


 前のアレって。

 たぶん、わたしが使った術のことを、言っているんだろうけれど。

 気になる相手から自分のことに、興味を持ってもらえるのは、純粋にうれしく感じてしまう。

 思わず口もとがゆるみそうになるけれど、そこはがんばって真顔を保った。

 あんまりじらし過ぎたら、ただ、翔くんを怒らせるだけかもしれない。

 そう考えて、わたしは真面目に答えることにした。


「えっとですね。わたしは代々、忍者の一族なのです」

「はあ?」


 車に乗って移動をしているあいだは、時間がたっぷりある。

 今後、パートナーとして認めてもらうために、ここはひとつ、わたしの家庭のことを知ってもらっても、いいかもね。

 それに、わたしのほうが、翔くんのことばかり知っているのも、なんだか申しわけないかな、とも思うし。

 でも、わたしの話を信じるか信じないかは、翔くんしだいかな。


「わたしは、忍者の一族の末裔なのです。お父さんもお母さんはもちろん、同居しているおじいちゃんも、現役の忍者なのです」

「忍者って、あれか? 手裏剣を投げたり、木や屋根に飛び移ったりするやつか。そんな忍者って、現代でも本当にいるのか? って、ああ、そういえば、おまえって運動神経だけはいいよな」


 うんうん。

 わたしの運動神経のよさは、翔くんもご存じですか。

 だけって言葉が引っかかるけれど。

 わかってもらえているようで、なんだかうれしいな。

 忍者という部分は、翔くんは否定していないみたい。

 なので、わたしは、翔くんに説明を続けた。


「そして、忍者は忍びというだけあって、表舞台に立つことはないのよ。あるじや上司のサポートが、おもな仕事になるの。だから、たとえば、わたしのお母さんは、とある大きな会社の、社長の秘書をしているんだけれど」

「ふぅん。社長の秘書。へえ……?」


 そう言いながら、翔くんは横目で、わたしをじろじろと見る。

 母親だとはいえ、秘書って言葉が、わたしに似合わないって目だ。

 くっ!

 なんだか、悔しいぞ!


「もちろん、普通の秘書の仕事もしているけれど、隠密行動も重要な仕事でね。ライバル会社を出し抜くためには、情報収集も情報操作も必要なんだって」

「へえ~」

「お父さんも、政治家の秘書をしているし。おばあちゃんは引退して、いまは家事を担当しているけれど、おじいちゃんは、自宅にいながらインターネットやコンピューターを使いこなして、あっちこっちの情報系のお手伝いをしているの」

「――いまの忍者って、そんなことをしているんだ。なんていうか、ハイテクだな」


 翔くんは、感心したようにうなずいて聞いてくれる。


「でも、忍者って、じつは昔もいまも、情報収集が重要な仕事なのよ。そのうえで、任務をこなせるように、体を鍛えたり、術を使ったりするの」

「術。忍術か! それはちょっと興味があるな」


 パッと翔くんが、瞳を輝かせる。

 そのあたりに興味が向くなんて、やっぱり男の子だなぁ。

 そして、興味を持ってもらえたことで、わたしはとてもうれしくなった。


「忍びの術は、いくつもあるのよ。見せるのは、そのうちにね」


 なんて言葉で、わたしは翔くんを焦らしてみた。

 本当は、わたしが使える術は少ないし、成功率もそれほど高くない。

 一族最強のおじいちゃんに従わずに、いつもサボってばかりだから、精神統一にムラがあるって言われている。


 でも、ここで不利なことは言わないほうがいいよね?

 嘘をつくわけじゃないもの。

 ただ、黙っているだけだもの。

 なんて、わたしは悪知恵を働かせた。

 まずは、翔くんにパートナーとして――サポート係として、みとめてもらってからよ。


「わたしの一族は、そんな感じなの。なので、わたしも忍びの末裔として、将来はだれかのサポートをする仕事につくのです。そして、そのだれかに、わたしは、翔くんを選んだのです」


 さすがに本人を目の前にして、翔くんが好きだから! なんていえないよ。

 あくまで恥ずかしくない理由として、わたしはお仕事を強調した。

 納得したのか、翔くんは、なるほどね、とつぶやきながらうなずく。


「なので、白いワニの都市伝説で使ったのは、わたしの家に代々伝わる言霊の秘術。精神統一など、一定の条件で発動する、おもに足止めや拘束に使う術なの。きっとサポートとして、翔くんの役に立つと思うなあ……」


 そこまで説明したあと、わたしは、小さな声でつぶやくように続けた。


「でも、まだまだ修行中の身だから、これから、使える術は増やしていく予定よ」


 ああ、面倒くさくて修行をサボったツケが、こんなところででてきちゃうとは。

 いまが、おじいちゃんが普段から言っている、いざというときのためだったかも。

 もっとマジメに、いろんな術を学んでおけばよかった!

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