とまらない動悸

 部屋に戻ってベッドに腰掛けても息切れと動悸が止まりませんでした。

体力がないとか、そういう問題じゃないということに気づいたのは目を閉じてあの甘い香りを思い出したあとでした。


時計の音が鮮明に聞こえました。

冷房が効き始めて汗がひきました。

母がお風呂を入れてくれたようでした。

リビングに行こうと腰を上げました。ぎ、とベットが名残惜しそうに音を立てた、そのとき。

スマートフォンがけたたましく鳴り出しました。

「…彗ちゃん」

また別の動悸がしました。

この電話の向こう側に本当に彗ちゃんがいるのか、不思議な気持ちになりました。

「もしもし」

電話の相手がすごい暗い声だったらどうしようと思ったのは、わたしの余計な心配でした。

「うわー春月久しぶり!声変わりした?って女か春月は笑」

聞きたいことが山程あるのに、彗ちゃんの声が聞けるだけでいいと思えてきてしまいました。

「久しぶり」

「会いたいよ!明日会おう!」

ふふん、と自慢気に笑う彗ちゃんのくせがわたしは好きです。

「いいけど」

「やったね」

今日のわたしはお風呂が長いとお母さんに起こられてしまいました。



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