第2話

当時彗ちゃんは高校2年生、私は中学3年生でした。彗ちゃんの家と私の家は近所なので私たちは姉妹のように育ちました。

彗ちゃんは毎朝私の家のインターホンを鳴らし、ふたりで一緒に登校していました。でも彗ちゃんが高校2年生になってから、朝私の家のインターホンが鳴らない日が増えました。早い時間に出ちゃったのかなと思ってはじめの方は気にかけていませんでした。ひとりで歩く朝は彗ちゃんの好きなバンドの曲を聴きながら登校していました。でも最近はボーカルの鼻にかかった声が鬱陶しいと感じてしまうのでもう聴いていません。彗ちゃんはまだ好きなのかなと考えたりします。

彗ちゃんが学校に行っていない、というのを聞いたのは6月のはじめでした。雨の音で目が覚めるような日でした。トーストをかじりながら雨マークだらけの天気予報をテレビを見ているときでした。

「彗ちゃん、最近学校行けてないみたい」

お皿を洗ってかちゃかちゃと音を立てながらお母さんは言いました。JKライフがなんとか、学校帰りのマクドナルドがどうのとか毎朝楽しそうに話す彗ちゃんがそんなはずない、と思いました。

「彗ちゃん具合悪いの?学校終わったらLINEしてみる」

「さあ…そっとしておいてっておばさんには言われたけど」

そっとしておいて?どうしておばさんはそんなことを言うのかと不思議に思いました。理由はどうであれ彗ちゃんは学校に行けてないみたいだし、いつもよりひとりでいる時間が増えて寂しく感じるはずなのにそっとしておいて欲しいだなんて。

「そんな、」

「もういいから。遅刻しちゃうよ」

私はもやもやしたまま家を出ました。こんな日は彗ちゃんの明るい声が聞きたいと思うのでした。

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春は来ない あまがさ @yamr7

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