梅雨

 当時彗ちゃんは高校2年生、わたしは中学3年生でした。

彗ちゃんの家とわたしの家は近所なのでわたしたちは姉妹のように育ちました。


彗ちゃんは毎朝わたしの家のインターホンを鳴らし、ふたりで一緒に登校していました。

でも彗ちゃんが高校2年生になってから、朝わたしの家のインターホンが鳴らない日が増えました。

はじめの方はあまり気にかけていませんでした。

ひとりで歩く朝は彗ちゃんの好きなバンドの曲を聴きながら登校していました。

でも最近はボーカルの鼻にかかった声が鬱陶しいと感じてしまうのでもう聴いていません。彗ちゃんはまだ好きなのかなと考えたりします。


 彗ちゃんが学校に行っていない、というのを聞いたのは6月のはじめでした。

雨の音で目が覚めるような日でした。

トーストをかじりながら雨マークだらけの天気予報をテレビを見ているときでした。

「彗ちゃん、最近学校行けてないみたい」

お皿を洗ってかちゃかちゃと音を立てながらお母さんは言いました。

JKライフがなんとか、学校帰りのマクドナルドがどうのとか毎朝楽しそうに話す彗ちゃんがそんなはずない、と思いました。

「彗ちゃん具合悪いの?学校終わったらLINEしてみる」

「さあ…そっとしておいてっておばさんには言われたけど」

そっとしておいて?どうしておばさんはそんなことを言うのかと不思議に思いました。

理由はどうであれ彗ちゃんは学校に行けてないみたいだし、いつもよりひとりでいる時間が増えて寂しく感じるはずなのにそっとしておいて欲しいだなんて。

「そんな、」

「もういいから。遅刻しちゃうよ」

私はもやもやしたまま家を出ました。

こんな日は彗ちゃんの明るい声が聞きたいと思うのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る