彗ちゃんの血はなにいろ
あまがさ
彗ちゃんのすきなひと
「一緒に逃げよう」
そう言われたとき、彗ちゃんの背中をさするわたしの手が止まりました。
少しの間、わたしは息をすることを忘れました。
彗ちゃんの大きな瞳から大粒の涙が絶えず零れています。
「春月、一緒に逃げよう…?」
空耳かも、というわたしの考えはなくなりました。
彗ちゃんは、自分の背中にあるわたしの動かなくなった手を優しく握ってから離して体の向きを変えました。
彗ちゃんの首に貼ってある絆創膏に目が止まりました。
その下にあるのはただの傷ではないことくらい、わたしには分かります。
「逃げるって、どういう、」
自分の声が震えていることに気がつきました。
彗ちゃんはまたわたしの手を握って、肩で大きく呼吸してから言いました。
「わかんない。でも、大丈夫。私が働いて、なんとかする」
彗ちゃんは両手でわたしをぎゅうと抱いて
「おねがい」
と言いました。
そのあとは沈黙が続きました。
冷房の音がやけに響いて聞こえます。
蝉も遠くで鳴いていました。
「彗ちゃん、」
「すきだよ」
彗ちゃんは立ち上がって部屋を出ていってしまいました。
そのとき1度だけこちらを振り返った彗ちゃんは、もう泣いてはいませんでした。
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