10.呪いと名簿
「アンダーテイカーは世襲制なんだよ。一応ね」
驚くベアトリスにデーティアが説明する。
「子供の中で最も霊力が高いものがアンダーテイカーを継ぐんだ。または弟子がね」
アンダーテイカーを見やり尋ねる。
「次代はヘンルーダで決まりなんだんね」
「はい。魔女様。ヘンルーダは優れたアンダーテイカーになるでしょう。しかし…」
ベアトリスを見てアンダーテイカーが続ける。
「ベアトリス王女殿下の方が力が勝っていらっしゃる。どうか今後、娘の力添えになってください」
「わたくしで適うのならば」
ベアトリスは控えめに答えた。
アンダーテイカーは奥に行き、そこにある棺桶の中から二つを開けた。
「こちらがベロニカ・カタリナとイザベラ・デュプリについて書かれた記録があるものです」
アンダーテイカーは羊皮紙の重たげな本を選び出して持って来た。
「そして呪いに関する契約書の記録」
両方とも鍵がかかり、チェーンで繋がれていた。チェーンの先には球体に繋がっていたが、ベアトリスにもそれが魔道具であることがわかった。
「持ち出し禁止」
にこりとアンデーテイカーが笑う。
「この部屋に繋がれた魔道具です。浮世の方とは縁のない記録ですから」
デーティアが後を受けてベアトリスに説明する。
「こっちの名簿はこの世に彷徨う死者の記録でね。自分の身内がちゃんとあの世、つまり"命の輪"に戻れたかを確認してもらうものさ。アンダーテイカーを継いだものにしか読み取れない」
アンダーテイカーは笑う。
「確かに二人共、この世に繋ぎ留められています」
「そしてこっちは呪いの記録書。望もうと望まざろうとも、呪いが発動した時に記録される」
デーティアがなぜこんなに詳しいのだろうと、ベアトリスはつい首を傾げてしまった。
デーティアはアンダーテイカーと顔を見合わせて笑う。
「好奇心は猫をも滅ぼすと言ったけどね」
きまり悪そうに笑うデーティア。
「この王宮の護りを強化したのはどのくらい前だったかね?確か二十年と少し前、あんたの兄のジルリアが二歳の時だったね。その時にアンダーテイカーを継いだばかりの、このキャラウェイが挨拶に来てくれたのさ」
アンダーテイカーはこくりと頷く。
「偉大なる魔女様の護りの記録が記されたので」
「アンダーテイカーの仕事に興味が湧いてね、お互いに情報を交換したのさ」
笑って続けるデーティア。
「ヘンルーダの枝を添えたキャラウェイのソーダ」
歌うように言う。
「もぐりの魔女が仕事を受ける時の符牒だよ。それを面白がって、娘にヘンルーダって名をつけるなんてね」
二人は顔を見合わせて笑う。
「さて、依頼はイザベラの開放。おそらくベロニカの方を祓うことが最善なんだろう?」
問うデーティアにアンダーテイカーが、ページをくりながら答える。
「全ての元凶はベロニカ・カタリナの呪いです。この呪いはちょうど百三十年前に契約されたものです。イザベラが生きているうちはその生気を奪い、死んだ後は縛り付ける。代償にベロニカ・カタリナは死後、その対角線上に縛り付けられ、イザベラ・デュプリを監視をしなくてならない」
ああ、だから北東と南西に二人はいるのね。
ベアトリスははたと納得した。
少し考えた後、アンダーテイカーは言う。
「ヘンルーダをお連れください。やり方はわかっていますし、お役に立つでしょう」
一旦デーティアとベアトリスは王宮へ帰ってきた。
夜も更けていたので、朝になったらヘンルーダが来ることになった。今夜のうちに様々な準備をするという。
ヘンルーダからは「できればワイアット公爵にも手伝って欲しい」と依頼されていた。そこでデーティアから召喚状をユージーンに送った。
事は明日の午後に行うことになった。
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