9.地下墓所とアンダーテイカー

 ベアトリスはデーティアに連れられて、王宮の礼拝堂の地下墓地へ降りて行った。

 デーティアが地下墓地の重厚な扉のノッカーを六度鳴らす。すぐに扉が開き、黒い服を着た十五歳くらいの少女が現れた。

「ようこそ、偉大な魔女様」

 少女の言葉にデーティアは右手をひらひらと振る。

「久しぶりだね、ヘンルーダ。この前会った時はこんな子供だったのに大きくなったね」

 手を腰のあたりで示して見せる。

「十年は経ちますから」

 ヘンルーダは少し笑う。

「キャラウェイは元気かい?」

「はい。アンダーテイカーはますます壮健です」

 ヘンルーダは二人を扉の中へ招き入れ、奥へと通した。


 魔晶石に照らされた清らかな雰囲気の王家の墓所は、平たく白い石のプレートが並んでいる。その奥の扉を開くと、そこが王家の墓守人、全ての契約の請負人であり見届けの任を司るアンダーテイカーの領分だ。


 いくつかの大きな棺桶が並んでいる。

 その中のひときわ大きな黒い棺桶を指し示して、デーティアがベアトリスに言う。

「これが当代のアンダーテイカーのお気に入りの棺桶だよ」

 少し笑いを含んでいる。そのままヘンルーダをみやると、彼女も少し笑いを含んで言った。

「アンダーテイカーは、夜ですがお昼寝中です」


 デーティアは笑いながら棺桶をガンガン叩いた。

「起きな、キャラウェイ。アンダーテイカーに依頼だよ」


 ほどなく棺桶の蓋がギィときしむ音を立てて開いた。


 少し怯えたベアトリスにデーティアは笑って見せる。


「これはただの昼寝用のカウチに過ぎないよ。当代のアンダーテイカーは洒落っ気があってね。この音もわざと鳴るように細工してあるのさ」


「これはこれは偉大なる魔女様」

 棺桶の中に半身を起こした男は、デーティアを見るといささか慌てて出て来て、礼をした。


 王家の墓守人、アンダーテイカーは大きな男だった。

 五十がらみで、全身黒を纏っている。

 山高帽、長い外套、トラウザース、指なし手袋、ブーツ。全て黒く革製だ。


「元気だったようだね」

 そういうデーティアも黒いドレスだ。


「して、正式な依頼とは?魔女様からの依頼は初めてですね」

「ああ、これはあたしの可愛い孫のベアトリス。この子が巻き込まれた呪いと亡霊についてね」

 デーティアはベアトリスをざっくりと省略して「孫」と言った。

「ビー、こちらの大男が当代のアンダーテイカーだよ。本名はキャラウェイ」

 紹介してアンダーテイカーに向き合う。

「この子は、亡霊や死やあの世と近しくてね。この際に、あんたに引き合わせようと思ったのさ。今後もあんたにお世話になることもあるだろうからね」


「ベアトリス王女殿下、お力になれるならば喜ばしいことでございます」

 ベアトリスに腰を折って礼をするアンダーテイカー。慌ててヘンルーダも礼をする。


「さて、まずは百三十年前前後の名簿が見たいんだよ。それと呪いの記憶をね」

「お名前はわかりますか?」

「ベロニカ・カタリナとイザベラ・デュプリ」

「ああ…」

 アンダーテイカーはすぐに思い当たったようだ。


「ベロニカ・カタリナは手強い悪霊です。曽祖父の代から祓うことを試みていますが敵いません。しかし…」

 ベアトリスを見やる。

「こちらの小さなご婦人は、歴代のアンダーテイカーを凌ぐ霊力をお持ちのようです。あなたの御力ならば叶うでしょう」

 そしてヘンルーダを目で指して続けた。

「次代のアンダーテイカーをお導きくださいますか?」


 突然の思いもかけない言葉に、ベアトリスは驚いた。

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