第6話

6

美容院を出たアスカは、彼の待つスカイレストランに向かう。時刻は午後7時30分を過ぎていた。

まだ充分余裕があるわ。

こちらが先に入って待っていると、

何だか、惨めな感じがする。

5分ほど遅れて行こう。

と、姑息な想いがよぎる中、アスカはタクシーに乗りこんだ。


AKグランドホテルこのホテルの8階に

スカイレストランがある。

想い出のスカイレストラン。


………この場所で、私は貴方のプロポーズを受けたわね。

それから、何回も此処に来たわね。

いつも記念日になる時に来ていたわ。

赤ちゃんを授かった時も・・・。

あの子の入園の時も、一年生に上がった時も

幸せだった頃の記憶をいっぱい残した

このレストラン。


あの時と同じね夜景がとっても綺麗。


貴方と別れてから初めて訪れる

スカイレストラン。

もし、彼が誰かを連れて来たって、

私は席を立たないわ。

いつまでも貴方の事は一番知っている私だから。

ああ〜!心が乱れてる。どうしたの私。

しっかりして!………


アスカの心は大きく揺れていた。

それは強い未練を残しながら、生きてきた証拠でもあった。


時刻は午後7:50

遅く行くつもりだったのに、アスカは

ウエーターに案内されるまま、一人で予約の席に着いていた。


…変わっていないわ、この夜景。

暗闇に広がる街あかり…

アスカは思わず席を立ち窓から見える

街あかりを子供のように指で辿っていた。

……この街の何処かに貴方が暮らしているのね。……


「よう〜。待たせたね・・」


後ろからの突然の彼の声。

早まる鼓動。

アスカは気持ちを押し殺す様にゆっくりと、

振り向いた。

そこには懐かしき笑顔の彼が居る。

トキメキを隠しながら、冷静に言った。

「お久しぶりね。貴方に会うなんて。

あれから何年経ったのかしら」

…あれ、?このセリフ確か歌にあったわ。…


「そうだね。別れてから7年ぐら経ったのかな〜。そんな昔の事などどうでもいいよ。

まあ座りなよ・・」

といつものように彼は馴れ馴れしく言った。


私も座り彼と向き合う。

少し痩せたみたい。

顔の皺が増えた彼。


「今日は、ディナーセットを前もって予約して置いたんだ。」


「そうなの。・・・ところで大事な話しって何?」

熱い想いを押し殺して、アスカは冷笑を浮かべながら聞いた。

「それは、後で話すよ。ゆっくりワインでも飲んでさ・・・。」


ウエーターが注文をとりに来る。

「予約していたディナーのフルセットと

ワインは・・・・。

これでお願いするよ」

と、慣れた言い方の彼。

…きっと何人もの女と来ていたのね。…

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