第68話 Lv.1たちとの友情

「――【ロックショット】!」


 ユウキがサンダーバードに向かって岩石を撃ちだす。

 サンダーバードは青い稲妻を走らせると……雷撃の塊で岩石を粉々に砕いた。


「威力、つっよ……!」


 まさか撃ち落とされるとは思わず、ユウキは唇を噛む。


 ――【伸縮】+【伸縮】+【衝撃波】×3!


 壱郎の衝撃波がサンダーバードを捉える。


 が……その巨体を吹き飛ばすのみで、トドメを刺しきれてない。


 というのも。


「ダメか……相馬さんの身体を分離したいんだが……!」


 そう……壱郎の狙いは相馬とサンダーバードの分離。

 暴走してモンスターと一体化間近となった今の状態でも……彼を救おうとしているのだ。


 その為には……彼にダメージを与えることなどできない!


「や、まだ、さんっ……!」


 サンダーバードの体内にほぼ呑み込まれている相馬が声を上げる。


「む、無理だっ……攻撃、してくれっ……!」

「ダメだ、まだ手はある」


 壱郎はサンダーバードの攻撃を躱し、直接攻撃を与えない。


「ユウキ、もっかいやってくれ」

「【ロックショット】!」


 壱郎の合図と共にユウキが岩石を再び射出する。


「ふっ――!」


 飛んできた岩石に向かって、壱郎が殴りつけると――割れた破片が弾丸のようにサンダーバードへ襲い掛かってくる。


「……これもダメか」


 しかし……ダメージは与えられたものの、引き剥がせそうにない。


「いいっ……もう、いいんだってば……! もう無理だって、俺自身がわかってるんだっ……!」

「――ダメ! まだ諦めないよ、僕たちは!」

「な、なんでっ……!」


 必死に訴えかけるが……尚も助けようとするユウキたちが、相馬にとっては疑問だった。


「俺、二人に黙ってたことが、あるんだ……!」

「【ウォーターボール】!」


 サンダーバードの放つ雷撃をユウキが水の球体で吸い取っていく。


「強くなりたくて……ズルをしたっ! してはいけないことだってわかりながら、やっちまったんだ……!」

「…………」

「もっと……もっと強くなりたかった……! こんな自分を、変えたくて……サイトを、助けられなかった自分が悔しくて……!」

「…………」

「でも、結果がこの始末だ……! ごめん、本当にごめんっ……! モンスタースキルなんて、バカげたものに頼った俺が、バカだったんだ……!」


 相馬はそこまで懺悔すると、二人の方を見た。


「だから、もうっ……もう、化け物になっちまった俺なんか殺してくれっ!」

「――化け物なんかじゃないよ」


 相馬の訴えに壱郎は首を横に振る。


「相馬さんはまだ生きてる。まだ俺たちの友達なんだ」

「……っ!」

「だから――僕たちが助けるんだ! 化け物として死なせるだなんて、絶対させないよ!」

「山田さん、ユウキっ……!」


 ――とはいえ、どうしたものか。


 過剰な攻撃は相馬ごとダメージを与えてしまう。かと言って、衝撃波のみではサンダーバードを倒すことができない。

 つまり――今の壱郎に必要なのはスピード。今より速く攻撃し、相馬とサンダーバードを引き剥がすしかないのだ。


 ――こんな時……こんな時、ブレイズの力があれば……。


 ふと彼が拳を握り締めた……その時。



『――壱郎! おらの力を使えど!』


「――っ!?」


 どこからか声がした。


 それは懐かしい声。けど……いるはずのない声。


『おらの力はもう壱郎に託してあるんだど!』

「ブ、ブレイズ……どうして……!?」

『説明は後だど! 今は――今はトモダチを助けることが優先なんだど!』

「――っ!」


 考えてる暇などなかった。

 拳の水晶が赤く輝きだし――壱郎はそのスキルを声に出していた。



「――【過熱ブレイズ】!」



 壱郎の身体の熱が急上昇。たちまち蒸気が噴き出す。


 ――【伸縮】+【伸縮】+【伸縮】+【伸縮】+【伸縮】!



「【衝撃波】――ラッシュ!!」

「――っ!!」


 瞬間。

 サンダーバードへ襲い掛かったのは……壱郎による衝撃波の連打!


 殴る、殴る、ひたすら殴る。

 直接ダメージを与えず……サンダーバードのみを攻撃していく!


「うっ――おおおぉぉっ!」

「――!」


 衝撃波を与え続けること数秒。

 僅か……僅かに相馬の埋まっていた腕が、サンダーバードの体内から引き剥がされ始めた。


 その一瞬を見逃さず、壱郎は跳躍。引き剥がされた箇所へ腕を振るう。


 ――なるべく濃度を薄く……【酸】!


 放った液体が彼にまとわりついていた肉壁を崩していき、そして――。


「――!」


 掴んだ。

 ようやく、相馬の右腕を分離させることに成功した。


「や、山田さんっ……!」


 相馬がぐっと壱郎の手を握り締める。


「わ、悪いんだけどさっ……俺のこの力、もらってくれねえか?」

「……!」

「俺、バカだからさ、使い方がわかんなくてさ……だからっ!」

「………………わかったよ」


 壱郎も握り締めると――ジャバウォックの涙が青く光り出していく。


 ――残りも……【酸】!


 壱郎の酸攻撃により、他に埋め込まれた手足の肉壁を崩した時……駆け出してきたのはユウキ。


「壱郎、交代! これなら――いける!」

「よし、任せた」


 壱郎が相馬から離れ、代わりに飛んできたユウキがその手を掴んだ。


「――【フライ】!」


 彼が使ったのは――飛翔スキル。

 ただし対象は自身にではない。相馬へ使ったのだ。


 ――さっきまでは無理そうだったけど……今なら!


「持ち――あがれぇぇぇぇぇっ!!」

「――!!」


 ユウキが渾身の力を込めて引き上げると……ベリベリベリッと音を立て、相馬の身体が、サンダーバードと分離していく。


 そして……とうとう完全にサンダーバードから引き剥がすことが出来た。


「ナイスだ、ユウキ」


 壱郎は拳を固め……狙うはサンダーバード本体。


「なら――もう手加減する必要はないな」


 ――【伸縮】+【伸縮】+【伸縮】+【酸】+【衝撃波】……十連打!!



 ドパァァァンッ!!


 容赦などない、本気の攻撃。

 壱郎の拳がサンダーバードへぶち当たり……青い鳥がはじけ飛んでいった。


「……やっぱすげぇよ、お前ら……」


 その瞬間を見た相馬がふと呟く。


「俺も……俺も、お前らみたいになりなかったなぁ……」

「……あ、相馬さん?」

「ユウキ……ありがとな、俺を化け物じゃなくて、人として終わらせてくれて……」

「う、嘘、だよね……? だって、完全に分離したし……助かったんだよね!?」

「あぁ……バカな俺でも、自分の最後ってわかるんだなぁ……」

「う、嘘だっ……! ねえ、相馬さん! 目、開けてよ! ねえってば!!」

「ユウキ、山田さんに伝えておいてくれ……俺の力、あんたなら使いこなせるって……」

「そんなの、自分で伝えなよ! ここから出て、相馬さん自身の口でさ!」

「へへっ……」


 涙声となっていくユウキに相馬はくしゃりと笑う。


「嬉しかった、嬉しかったよ……俺、お前らとの友情、忘れないからさ……」

「――!」

「元気でな……二人とも」


 その言葉が最後となった。

 彼から力が抜け、がくりと首が項垂れる。


「相馬さん――相馬さんっ!!」




 ユウキを掴んでいた手は離れ……相馬力は、静かに眠っていった。

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