第67話 Lv.1と異常事態
「なんていうかさ、相馬さんって放っておけないんだよな」
「はあ……」
「初めて会った時から思ってたんだ。『真っ直ぐな人だな』って」
「はあ……」
「だからさ……斉藤さんがいなくなっちゃった時、本当は寂しかったんだと思う。普段は明るく振舞ってるんだけど……俺としては、あの人を見捨てるだなんてできなかったんだ」
「……え、あれ、私呼ばれたの、エモめなエピソードを聴くためじゃないですよね? 私、そのエモエモ感をさらけ出している相馬さんって人を今から連行するんですよね?」
「? もちろん」
「……やりにくいなぁ、そんなエピソード聴かされてから捕まえんの」
突然壱郎から語られ、雪音は微妙な反応をするしかなかった。
モンスタースキルに関する法律というのは、実は曖昧なのが現状である。どこまでの服用が害と為されるのか、はっきりしておらず、既定の法律でしか裁くことしかできないのだ。
モンスタースキルと呼ばれる薬物を所持または使用の場合、『薬機法違反』に該当するのだが……この使用についての判断基準がなんともはっきりしてない。
「ダンジョン産のパワーアップアイテムかと思った」
「危険なものであると知らなかった」
……通常の危険薬物であるのならそんな主張は通らないのだが、対象物はダンジョン産。まだ未解明な部分が多く、全てのマジックアイテムを把握できていない。
そしてモンスタースキルが解明されてないのも大きな要因だ。これにより、全てのダンジョン産のアイテムを取り締まらないとできないのだが……そのダンジョン産アイテムにて助けられている日本であるのも現状。
だからこそ逮捕に至るまでが難しくなっている。人に害を為すまで浸食されている状態か、対象物を売買している売人しかはっきりと捕まえることができず、雪音たちは手を焼いているのだ。
「まあまったく裁けないってわけではないんですがね……既に使用しているのであれば陽性反応が出ますし。もし本当に相馬さんがそうであるのなら、話は早いんです」
「まあ……その相馬さん、全然来ないんだけどね」
「私がここにいるからじゃないですか? やっぱり隠れてた方がいいのでは?」
「いや、相馬さんはそもそも近くまで来てないよ。さっきから【探知】を発動してるけど、あの人の気配が一切感じられない。つまり、ここに来てないから雪音さんがいることさえ知らないはずだ」
「……その【探知】って、範囲はどのくらいです?」
「だいたい半径1kmくらいかな」
「えぇっ……こわぁっ……」
「ちょ、【超パワー】だからっ。壱郎のユニークスキルだからっ」
「便利すぎません? 限度知らずなんですか?」
さらっと告げられる壱郎のスキルに雪音はドン引きするばかりである。
「けど……確かにおかしいな。約束の時間はもう過ぎてるんだが」
チラリとスマホの時間を確認すると、現在14時15分。遅刻という可能性も残されているのだが……さっきから連絡が取れていない。
この音信不通という状況に壱郎とユウキは一抹の不安が拭えず、一刻も早く相馬の無事を確認したくなっている。
「……もう一人でダンジョンに入ってしまっているのでは?」
と、雪音がチラリと大宮北ダンジョンの入り口を見つめた。
こうなるとその可能性も大いにあるだろうが……確証はない。
一旦、二手に分かれるかと壱郎が考え始めたところ。
「……悲鳴?」
何やらダンジョン内から人の叫び声のようなものが聞こえてくる。
壱郎の【探知】の範囲内にかなりの人数の冒険者たちが入ってきた。どうやら一斉に入口へと入っているようだ。
「――た、助けてくれぇぇぇええっ!!」
そして三人の元まで走ってきた一人が縋るような目で、雪音の肩を掴んだ。
「ちょっ……なんですか、あなたはっ」
「助けてくれ! あんた、『桜斬り』なんだろ!? なあ、助けてくれって! まだ仲間が中にっ!」
「ひとまず落ち着いてくださいっ。なにがあったんですかっ」
男の手を無理矢理引き剥がし、雪音は冒険者を落ち着かせる。
「サ、サンダーバード!」
「……へ? サンダーバード?」
「そう、サンダーバードが出現したんだ! それも特殊個体みたいなやつが!」
「サンダーバードって……いや、このダンジョンには……」
基本出現しない。
基本サンダーバードは山奥の広いダンジョンで見かけるものだ。大宮北ダンジョンは階層こそあるものの……空間は小さく、サンダーバード並みの巨大なモンスターなんて生まれた事例など過去に一度だってない。
「だからおかしいんだって! あいつ、異様に強いし!」
「……異様に強い?」
ピクリと。
男の言葉に壱郎が反応した。
「……なぁ。そのサンダーバードの特徴、もっと教えてくれないか? 何処が違うとか」
という彼の質問に、男は「あぁ」と答える。
「あれは何もかも違う……見た目からして違うんだっ」
「見た目?」
「通常種は黄色い見た目をしてるんだが……今暴れてるのは、青いサンダーバードなんだっ!」
「「――っ!!」」
その言葉を聞き、壱郎とユウキは目を見開く。
確か、相馬の使用していた【ボルト】の稲妻の色は……。
「――あっ!? ちょっと!」
迷ってる暇などなかった。
雪音の戸惑う声など構わず、壱郎とユウキはダンジョン内へと駆け出していった。
***
「なっ、なっ……なんなんだ、こいつはぁぁぁっ!」
「おいバカ逃げろ、足を止めるな! 死ぬぞ!」
「いやっ――いやぁぁぁああっ!」
入ってから三分の位置。第2階層にて壱郎たちは逃げ惑う集団を発見した。
そして――その奥にいるのは……男の供述通りの青いサンダーバード。
「ユウキ!」
「【ウォーターウォール】!」
ユウキがロッドを振るい、冒険者たちとサンダーバードの間に水の壁を作る。
――【伸縮】+【衝撃波】×3!
壱郎は勢いよく水の壁に向かって一撃。彼の衝撃波によって、青いサンダーバードを遠ざけた。
「なんですか、あれは……!?」
遅れてやってきた雪音も見たことのないサンダーバードの見た目に目を見開く。
「雪音さん、冒険者たちの避難誘導を頼む! あいつは俺たちが抑えておくから!」
「なっ……!? ダメです、あなたたちも逃げてください! 未知のモンスターを相手しようなど、私が許しません! ここは私一人で――」
「未知のモンスターじゃないんだっ!!」
「っ……」
「未知のモンスターなんかじゃないんだ、あいつは……!」
普段の壱郎から想像もできないような壱郎の気迫に、雪音は黙り込んでしまう。
そんな彼女の肩にユウキが優しく手を置いた。
「ごめん、壱郎の言うことを聞いてほしい。今、この場でこの人数を避難できるのって雪音ちゃんしかいなんだ……だから、お願い」
「…………」
真剣な目で見つめてくる彼に……雪音は少し考え、くるりと後ろを振り返る。
「――皆さん、こちらに! 出入口まで、私が誘導しますので、ついてきてください!」
彼女はそう言うと、集団の先頭へ立ち出入口へと向かっていった。
「……ありがとう」
壱郎は雪音の背中にお礼を述べ……相手へ向き直る。
「そして……間に合わなくてごめん。気づかなくてごめんな――相馬さん」
「……や、山田、さんっ……ユウキっ……!」
彼の言葉にサンダーバードの腹部から声が漏れる。
四股を完全に取り込まれた青メッシュ黒髪の男が、そこにはいた。
「……止めるぞ、ユウキ」
「うん、友達を助けるのが――僕たちの役目だ」
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