第69話 Lv.1、病室にて

「ようっ」

「「――っ!!」」


 あれから数日後。


 壱郎とユウキが病室へ入ると……青メッシュ黒髪の男が元気よく手を挙げた。


 二人はここに来るまで信じられなかった。

 何故なら、その手を挙げてきた相手というのが……。


「あ……相馬さんっ……!」

「へへっ、また会えたな」


 相馬力はベッドの上にて、笑みを浮かべる。


「え……相馬さんさ。ユウキに遺言めいたこと言ってなかった?」

「うん、あん時さ、俺悟ったんだよ。『あぁ、俺って死ぬんだな』って。でもなんか生きてたわ」

「……あんだけ思わせぶりな発言しておいて?」

「ハハッ、すまんっ!」


 なんて確認する壱郎に、相馬は無邪気に笑うのみ。

 そんな彼に言いたいことはある壱郎だが……隣にもっと言いたいことが多い連れがいるので、その背中を優しく押してあげる。


 背中を押されたユウキは――それを合図に駆け出した。


「――っ!」

「っとぉ!? おうおうユウキ、ここ個室だから別にいいけどよ。病院内は走らない方が――」


 なんて言いかけた彼だが……金髪の少年の小さな肩が震えてることに気が付く。


「よ、よかった……本当に、よかった……!」

「ユウキ……」

「また……また死んじゃうかと思った……! 僕の、友達……! また、助けられないかと思った……!」

「……おいおい、泣くなって。こういう時、男なら笑顔で迎えるもんだぜ?」

「うるさい――うるさいうるさい! 自分から原因作ったくせにっ!」

「あぁ……心配かけさせたな、悪い」

「本当だよもうっ!!」


 泣きじゃくるユウキの頭を相馬は優しく撫でる。


「山田さんも……迷惑かけたな、すまん」

「……お前が無事なら、俺はそれで十分だよ。命あっての人生だからな」


 時代はレベル格差社会。

 自身のレベルを上げる為、ほとんどの人たちはダンジョンにて経験値を稼いでいく。

 誰がいつ死んでもおかしくない危険な環境下、家族や友人が突然いなくなるのも特別じゃない。


 そんな中……こうして自分の友人が五体満足で生きているだけで、壱郎にとっては十分だった。


「――感動の再会はもうよろしいでしょうか?」


 と。

 壱郎の後ろから、冷たい少女の声が聞こえてくる。


「……刀のチビッ子」

「こんにちは、相馬さん。まずは無事でなによりです」


 雪音はペコリと頭を下げると、相馬の前まで歩み寄ってきた。


「私がここに来た理由は……わかってますね?」

「…………」

「ゆ、雪音ちゃんっ……!」


 黙り込む相馬に変わって、ユウキが慌てて顔を上げた。


「あのっ……待ってほしいんだ! 相馬さんはもう暴走は――!」

「暴走はしないから見逃して欲しい、と? そんな甘い時代じゃないことくらい、あなたならわかってるんじゃないんですか?」

「うっ……」

「モンスタースキルを服用した証拠がある限り、暴走する可能性はいくらだってあるんですよ。また、依存性が高い薬だということもわかってます。それでも――あなたは暴走しないと断言できますか?」

「…………」


 雪音の凍り付くような言葉に、ユウキは何も言い返せなかった。


「いいんだ、ユウキ。俺がやったことなんだから」


 相馬はまた彼の頭を優しく撫でると、雪音へと向き直る。


「さあチビッ子。お前のしたいようにしてくれ。手錠をかけられる覚悟なら、もうできてる」

「……前々から思ってたんですが、ムカつきますねその呼び名。確かに小さいですが立派な公務員ですし、私には雪音という立派な名前があります」


 雪音はため息をつくと、バッグから一枚の紙を取り出す。


「あと――皆さん、どうやら勘違いしてるみたいですね」

「……? 勘違い?」

「私が相馬さんを逮捕しにきたみたいな雰囲気ですが――

「えっ――」


 絶句する一同へ雪音が紙を見せつけた。


「相馬さんの身体を調べさせてもらった結果……陰性でした」

「……!?」

「一度モンスタースキルを使用した場合、数か月経過しても残ってるのが普通なんですよ。たかが数日程度できれいさっぱり無くなる事例なんて、過去にないんです」

「なっ……いや、俺のバッグからは……!」

「あぁ、薬のことですか? 指紋が綺麗に拭き取られていたので、誰の薬なのかわかってないんです」

「……!」

「それに、あの青いサンダーバードについても聴きましたが――逃げてきた冒険者は、誰もその正体を知りませんでした。相手が元人間なのかどうかさえも。肝心のモンスターは山田さんが木っ端微塵にしてしまったせいで、これ以上を調べようがないわけですし」

「……えーっと、つまり?」


 首を捻る相馬に、彼女は小さなため息をつく。


「物的証拠がないので、今の私が相馬さんに手錠をかけることはできません」

「――! じゃ、じゃあっ……!」

「私が来た目的は事情聴取。怪しげな薬を売ってるらしい人の特徴、聴かせてもらいますよ」

「ほらな? 言っただろ?」


 と壱郎が相馬に向かって笑みを浮かべる。


「この人、本当は優しいんだって」

「……だいぶわかりにくい優しさだけどな」


 彼の言葉に相馬は苦笑した。


「ただし! 次同じようなことが起こったら、今度こそ容赦しませんからね。わかりましたか?」

「……あぁ。肝に銘じておくよ」

「雪音ちゃんっ……ありがとうっ……!」

「……別に、お礼を言われるようなことなんてしてませんが? まあ――あなたたちの友人が無事だったのなら、それでよかったんじゃないんですか?」


 ――素直じゃないなぁ。


 そっぽを向く雪音に壱郎は笑みを浮かべつつ……彼女の発言で気になったことを思い出す。


 ――陰性……か。


 相馬の手を握った瞬間……水晶が青く輝いていた。まるで新たな力を得たかのように。


 つまり……相馬が持っていた【ボルト】を、壱郎は託されたのではないのだろうか。

 だからこそ彼の体内から陽性反応が出ず、まるでモンスタースキルを使用してなかったかのような診断が出たのではないだろうか。


 そして――もう一つ気になるのは、あの時使えたスキル。


 本来、ジャバウォックの涙のコピー能力は約30秒程度。数日以上経過しているブレイズの力が使えるはずもない。

 なのに、使うことが出来た。


 以上、二つの事柄からして……これはただのコピーなんかじゃないというのが彼の推論。


 ――もしかして……この水晶、相手の力を継承できる能力がある……ということか?


 壱郎はじっと自分の手の甲を見つめる。

 ジャバウォックの涙は何も言わず、ただ陽の光に照らされて輝くのみだった。


――――――


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