そのスライム、無敵につき~『永遠のLv.1』とゴミ扱いされる貧乏社畜、Sランクモンスターから人気配信者を助ける。敵?追ってきませんよ、ワンパンしたので~
第51話 Lv.1は企業勢に認知されているらしい
第51話 Lv.1は企業勢に認知されているらしい
「おっと……」
【
【武藤シャドー Lv.43】
第2階層攻略中。エリィたちの前からやってきたのは例の企業勢二人組、
彼らが会話しながら歩いてくるのを認知し、壱郎が思い返すは先程エリィとの打ち合わせ。
「――いいかい、壱郎くん。ダンジョン内ですれ違った時に無視するのはマナー違反。かと言って自分たちの名前や存在をアピールしてはいけない。よって企業勢の人とすれ違った時は『こんにちは』と会釈! そして何か訊かれたら『そうですね』と曖昧に答える! 通りすがりの冒険者を徹底するんだ!」
チラリとエリィの方を見ると……彼女は黙ってコクリと頷く。ただのアイコンタクトだが、「打ち合わせ通りに」と言ってるかのようだった。
向こうも名の知れた有名人。ただの一般冒険者には自ら関わってこようとせず、挨拶だけで済ませるだろう。なんの問題もない。
ふと女性の方が壱郞たちの存在に気がつく。
――間合いは3歩。1、2の……3!
「あ、こんにちはー」
「もしかして、エリィの愉快な一団さんだったりしますか!?」
「そうですねー………………ん?」
――おかしいな、選択肢を間違えた気がするぞ? 指示通りの言葉を使ったのに。
軽く会釈して去ろうとした壱郎だったが……予想外の展開が起こっていた。
少女――廿楽ラヴィットは三人の顔をまじまじと見つめ、興味ありげに質問してきたのだ。
流れ作業がごとく返答してしまった壱郎の言葉を聞き、うさ耳少女は目を輝かせる。
「あぁ、やっぱり! そうですよね、ここ最近で有名になってる!」
「……えーっと」
:誰?
:個人勢か?
:うわ出たw
:白黒の子、かわええな
「あれ、みんな意外と知らない感じ?」
と、彼女の回りを周回していたコメント欄の反応。向こうのリスナーのようだ。
「特にこの山田さん! めちゃくちゃ強いんだから! ですよね!?」
「……えっと」
「あれ、山田さんも山田さんの活躍、知らない感じです?」
「なわけあるか。ラヴがいきなり絡んできたから、困ってんだよ」
きょとんとする少女に、もう一人のハットの少年が口を挟んだ。
「あっ……いきなりすみません。こいつ、考えるより先に行動するタイプで……」
「あぁ、いえいえ……そんなそんな……」
と頭を下げてくる少年に対し、壱郎も思わず頭を下げ返してしまう。
しかし、困った状況になってしまった。エリィからの指示は軽く挨拶して去るのみ。こうもがっつり絡まれた時の対処法など、壱郎はなにも聞かされてない。
助け舟を求めるように、エリィとユウキの方へ視線を向ける。
「二人の方は……あれ、おーい? 目逸らしちゃって、どうかした?」
「あ、いえ……」
「えーっと……」
――あ、ダメだわこれ。
二人もまさかこんな事態になると思わず、思考がショートしてしまっている。いつも軽いノリで喋りまくってるエリィでさえ、しどろもどろ状態だ。
もうダメだ――そう思った時、三人のインカムから一本の通話がかかってきた。
『お困りのようだね、諸君。みんなの助け舟、心乃眼鏡だよ』
「「「メ、メガえもーんっ!」」」
『その呼び方はやめて』
:草
:草
:拒絶されてて草
ベストタイミングの助け舟で三人が思わず声を揃えると、百合葉が実に不快そうな返事をしてるのが合成音声からでもわかった。
『配信中ってこともあるから、簡潔に――向こうから話しかけてきたのなら、普通に会話して良し。以上』
それだけ伝えると、百合葉との通話はブツッと切れてしまう。
なんとも淡白なアドバイスだが……三人からしたら最高の言葉。
「挨拶遅れました! 初めまして、エリィです!」
「木野ユウキです!」
「山田壱郎です」
「えっ、なんかみんな急に挨拶しだしたよ? シャドーくん、どうしてかな?」
「……さあ?」
先程の態度とは一変。いきなり挨拶し始めた個人勢三人に、企業勢二人は不思議そうに小首を傾げた。
「あっ、私、『夢ハンティング』所属の冒険配信者、廿楽ラヴィットです!」
「同じとこ所属の武藤シャドーです。初めまして」
「知ってます! 『ティータイマーズ』のお二人ですよね!」
「わぁっ……! はい、私たちのコンビ名です! 既に知っててくれてるだなんて、すごく嬉しいです!」
「実際お会いすると、配信で観てるよりずっと可愛いです!」
「きゃぁっ、可愛いだなんて! シャドーくん、可愛いって褒められてるよ!」
「おかしくない? ねぇ、おかしくない? 今、明らかにラヴに向かって言ってたよね? 僕には言ってないよね??」
「そうなんです! うちのシャドーくんはとっても可愛いんです!」
「あっ、もう聞いてないね。いつものごとく、都合の悪いワードだけノイズキャンセリングしてるんだね」
キャアキャアと盛り上がるエリィとラヴたちの様子を見つつ、壱郎がこっそりユウキに訊いてみる。
「なぁユウキ、『ティータイマーズ』ってなんだ?」
「あの二人のコンビ名だよ。配信終わりに必ずお茶会するから、そう呼ばれてるの」
「なるほど、ありがとう」
さも知ってて当然という雰囲気なので訊きにくかった彼は、素直に友人へ感謝の意を述べた。
「三人も赤羽新ダンジョンの先行当たったんですね! 私たちもなんですよっ!」
「えっ、あれ、そうなんですか……? 特別紹介とか、案件とかではなく……?」
意外だ。てっきりこのダンジョンをPRするため、特別に招待されてるのかと思っていたのだが……どうやらラヴの言い方的に違うようである。
「いえいえ、私たちもきちんと自分たちの運で当てましたよ! まあ実はこういう誤解がされちゃう可能性があるから、赤羽新ダンジョンの配信するっていうとマネージャーからあんまり良くない顔されるんですけどね、えへへ」
「……配信中ですよね、今?」
「えへへ」
彼女たちの周りに追尾してるのはエリィと同じドローンカメラ。エリィの確認するような質問にラヴは天真爛漫な笑顔を崩さない。
「いいですか、エリィさん。この抽選は私たちが個人的に当てたものなんです」
「えっ、あっ……そうですね」
「ということはこのチケットの権利は私たちにあるんです」
「まあ……そうですね」
「それが今日のダンジョン配信とたまたまタイミングが被っちゃっただけ。マネさんには後で行ってきました報告しておけば大丈夫ですよっ」
「事後報告じゃないかそれ」
あまりにも大胆過ぎるラヴたちの行動に、壱郎は思わずツッコミを入れてしまう。
「……まあ、怒られるのは慣れっこなんで。問題なしです」
――大アリだと思うんだけどなぁ??
ボソリと補足するシャドーだが、ユウキは頭の上に疑問符が浮かび上がった。
「でもでもっ、やっぱ来てよかったねシャドーくん」
「? どうして?」
「だって、山田さんに会いたかったんでしょ? いつかコラボしたいって――」
「わーわーわーっ!」
とシャドーが慌てた様子でラヴの口を塞ぐ。
「やめんか、恥ずかしい!」
「えぇ? でも、サイン欲しがってたじゃん?」
「だーかーらぁー!」
「……ん、サイン? 俺の?」
「――ハッ!!?」
ラヴにすっかりペースを乱されたシャドーだが……壱郎のきょとんとした反応に気が付くと、慌ててこほんと咳ばらいを一つ。
「……クールダウン、クールダウン。紳士はこういう時こそ乱されない」
――もうだいぶ遅いと思うんだけどなぁ。
冷静を装うとするシャドーの姿を見てユウキが心の中でツッコミを入れていると、ラヴが「そうだっ!」と手をポンと打ってきた。
「ここで出会ったのもなにかの縁! よかったら、この第2階層を一緒に周回しませんか!?」
「「え?」」
「三人とも気に入りました! コラボしましょう!」
「あ、はい。構いませんよ」
とラヴの提案に即答したのは壱郎。
「わぁっ! それじゃ――!」
「「「待て待て待て待てっ!!」」」
もの凄い速度で突発コラボが始まろうとしたその時、それぞれのメンバーから慌ててストップがかかった。
「ラヴ、ちょっと考えてみろ。相手は個人勢でこっちは企業勢。いつものコラボとはワケが違うんだ。向こう側サイドには、かなり大きな影響を与えちゃうんだぞ」
「むぅっ……考えが硬いな、シャドーくんったら。相手が個人だろうが企業だろうが違いなんてないじゃないっ」
「いや、全然違うからね? お前、自分と他の人の違い、ちゃんとわかってるよな?」
「私、廿楽ラヴィット。他の人はそれ以外」
「お前みたいな単純思考ばかりだったら、世界はとっくに平和だろうな!」
「――ダメだよ壱郎くん!」
「そんな簡単に受けていい相手じゃないって!」
その一方でエリィとユウキも壱郎へ必死に説明していた。
「向こうは企業勢! 私たちみたいになんでも自由ってわけじゃないんだよ!?」
「そうかなぁ……? 向こうから誘ってきてるわけなんだし、俺はいいと思うんだがなぁ……」
そう、これはラヴからの誘い。階層限定だし、素直に受け取ったって特に問題はなさそうである。
「そういうことじゃなくってね! 壱郎くんも少しは後のことを考えなくちゃ――」
「え?」
なんてエリィが説明しようとした時、壱郎はきょとんした顔で彼女を見つめた。
「『冒険配信者ってのは後先なんて考えない、チャンスだと思ったらすぐに飛び込む』……って、エリィさんが俺に教えてくれなかったか?」
「はっ――!!?」
彼の返答を聞き、エリィの全身に衝撃が走る。
確かに言った覚えがあるからだ。
「……しよう……じゃあ、コラボ、しよう……!!」
「えっ……うぇえっ!? エリィちゃん!? いいの!?」
「言葉とナイフは一緒……! 扱う時には責任を持たなければならないんだ……!」
「こんな時にそんな責任感感じなくてもいいんだよ!?」
これはエリィが壱郎に教えたこと。一団のリーダーとして、自分の言葉を果たさなければならない――と彼女の中に謎の使命感が生まれていた。
「あ、あの……もし二人がよろしければ、ぜひコラボお受けしたいんですけど……」
「ほぉら、言った! エリィさんもこう言ってる! シャドーくん、これなら問題ナッシングでしょ!?」
「うっ……まあ、相手方がそう言ってくださるのなら……」
エリィからの返答を聞き、シャドーも渋々頷く。
「よーしっ、決定! じゃあ、まずは――」
「さっきから狙ってる相手をしてあげようか」
「「「……狙ってる?」」」
一番先に動いたのは壱郎とラヴだった。
「【フレイムバレット】!」
「ほっと」
――【衝撃波】!
二人が頭上へ攻撃した瞬間、なにかの攻撃とぶつかりあって相殺される。
上を見上げてみれば……何体ものの飛行モンスターが五人のことを狙っていた。
「さあ、もう相手は手を出してきた。倒してもいいって合図だ」
「あなたたちも、私の弾で飛んでみる?」
今ここに突発性コラボでの戦闘が開始された。
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