第52話 Lv.1、ユニークスキルの真似をする

「じゃあ――行くぞ」


 ――【衝撃波】!


 壱郎は勢いよく跳ぶと、一番近くにいたグリフォンの身体へ一撃入れた。


:え

:は?

:えっ

:!?


 壱郎の戦闘を初めて見たのだろう。ラヴたちのリスナーから困惑の声が上がる。


「まずは一体目だな」


 壱郎の攻撃により、落ちていくグリフォンの身体を踏み台にして方向転換。別の敵へ襲いかかった。


「あっ、ズルいズルい! 【フライ】!」


 先陣を切った彼を見て、ラヴも空中へ浮遊していく。


「さぁーて……ここだね! 【フレイムバレット】!」


 彼女が太ももから抜いたのは銃の形をしたロッド。生成された炎の弾丸はレッドバットの群れをまとめて貫いていく。


 ……と。


「むっ」



 浮遊したラヴに向かってターゲットが集中。グリフォンたちが風魔法発動準備の為に集まっていく。


「援護を――!」

「いえ」


 ロッドを構えようとするユウキだが、シャドーは手で制した。


「その心配はないです」

「で、でもっ」

「大丈夫です、

「へっ――」

「……あっ! ラヴさんのユニークスキル!」


 そう、ラヴは持っているのだ。

 天賦の才――ユニークスキルというものを。


 グリフォンたちがウインドカッターを一斉に放った瞬間……彼女の瞳が黄金に輝き出した。


 ――視える、視えるよ。君たちがどこを狙ってくるのか、そしてどうすれば攻撃全てを避けられるのか……全部ね!


 ラヴが身体を捻ると、ウインドカッターの隙間を縫うようにして攻撃を全て躱していく。


「あいつのユニークスキルは『予測演算』。過去のデータを元に、あらゆることを予測します。防御面では絶対回避として発揮し――攻撃ではウイークポイント及び有効打がパーセンテージとして視えるんです」


 ――66%、72%、62%、75%……ここだっ!


「――【アイシクル・ガトリング】!」


 ラヴが放ったのは氷の連弾。一発一発が全て敵に命中し、次々と撃ち落としていく。


「おぉ……すげぇな」


 彼女の戦闘を見ていた壱郎が、地上に落ちてきた敵にトドメを刺しながら感嘆の声を上げた。


 そして、さらりととんでもないことを言い出す。




「俺にもできるかな、あれ」

「……へっ?」



 なんてボソリと呟いた一言を、エリィは聞き逃さなかった。


「よし、俺も参戦してくる」

「ちょっ、まっ」


 慌てて止めようとするエリィの言葉を聞くわけもなく。


「おっ?」


 勢いよく跳躍し、再び空中戦に戻った壱郎がラヴの真横まで昇ってくる。


「ラヴさん、俺も同じこと試してみたいんだが……いいか?」

「あっ、もちろんOKです! 戦闘とは相手の動きを盗むもので……ん? 同じこと?? んん???」


 勢いでOKサインを出したラヴだが……彼の言ってることが少しおかしいことに、彼女もだんだんと疑問符を浮かべ始めた。


「よし、まずは……敵の動きを予測する」


 そんなことに構わず、壱郎がぐるりとグリフォンやホワイトイーグルの生き残りを見回す。


「んで、ウイークポイントに狙いをつけて――【アイシクル・ガトリング】!」


 彼が右手を突き出すと……手の甲のクリスタルが輝きだし、ラヴと同じ氷の連弾が撃ち放たれた。


「むっ――」


 ――あ、15%。これは外れる。


 だが、一回目からそう上手くいくわけもない。

 最初の数発は狙った通りの場所を射抜いてるのだが……何発目かを発射した途端、モンスターが予想外の動きで壱郎の弾丸の軌道から逃れていく。

 ラヴは彼の弾の動きを読み、3体目のグリフォンが逃れるのを予測した。



 ……が。


「――ていっ」

「えっ」


 ――【衝撃波】!


 左手のデコピンで、3体目のグリフォンへ飛んでいく。


 ――15%から85%!? あっ、次の攻撃はウインドカッターで弾の軌道が……また左手の指圧で修正、奥にいるホワイトイーグルに向かって78%! というか……!


 『予測演算』の確率が変動されていく中、ラヴはゾクリと背筋が凍った。


 ――この人……!?


 そう……0.125秒に発射される弾の動きを全て目で追い、その状況に合わせて彼は攻撃を修正しているのだ。


 だが、1秒未満の世界など一般リスナーや地上にいるエリィたちがわかるわけもなく……壱郎の攻撃により、ラヴと同じく全ての敵が撃ち落されていくようにしか見えなかった。


「……ふぅっ、あぶね」


 そして最後の一体に弾丸がぶち当たった時、壱郎はそのまま地上へと戻ってくる。


「なんとか全部当てられた……いや全然よくなかったな、何発か手直ししちゃった」

「…………」

「綺麗な軌道で相手の動きを読むのって、かなり難しいことなんだな。そう考えるとラヴさんはすごい、流石だ」

「……いや……」


 素直に褒めてるつもりなんだろうが……ラヴの心境は複雑なものだった。

 確かに今の攻撃、ラヴなら手直しなどせずに命中させることが可能だっただろう。だが……撃ちだした弾をその場の判断で修正するなんて人間離れした業、彼女はできそうになかったからだ。


:えっ

:こわっ、この人こわっ

:!?

:えぇ…ラヴと同じく全弾命中…?

:この人も同じユニーク持ち?


:wwwww

:やりやがったwww

:おいおい

:いや、できるんかい!

:山田、なにしたんだお前……?


 現にどちらのリスナーも、壱郎の人間離れした動きに困惑の反応を寄せていた。


「……ユウキ、地図貸して」

「えっ、あっ、うん」


 そんな中、黙って見てたエリィがユウキから手描きの地図を受け取る。


「壱郎くん――」

「ん、どうした?」


 地図を手でくるくると巻きながら壱郎の元へ近づくと……手を振り上げ、一言。




「――配信者の見せ場を奪う配信者が、どこにいるかぁぁぁっ!」


 パッカーンと気持ちのいい音を立てながら、壱郎の頭に一撃を入れた。



***



「すみませんっ、本当すみませんっ! うちの壱郎くんには、きつーく言っておきますので……!」

「あぁいえ、全然気にしてないですよ! むしろ取れ高もらっちゃった気分で、逆にありがたいなって感じです!」

「――よし、じゃあ後でフレコ送っとくよ。暇な時、俺たちと一緒に遊ぼうぜ」

「は、はいっ……!」

「おいこらそこぉっ! 人が謝ってんのに、なにちゃっかり連絡先交換してんだぁっ! 配信中なんだから配信活動しろぉっ!」


:草

:草

:仲良しで草


 短い時間だったが突発性コラボも終わり、壱郎たちは次の階層を目指すことにした。

 三人の後ろ姿に笑顔で手を振りながら……ラヴはボソリとつぶやく。


「……山田さんなんだけどさ」

「ん?」


 それは配信画面と音声を待機中に切り替えている二人の会話。


「私のユニークスキルは『予測演算』。人相手なら、大抵の動きは読めるんだけど――」

「あの人の動きは予測できなかった……と」


 シャドーの一言にラヴは微笑むのみ。


「やっぱり生で会えてよかったよ。私の知らないデータが取れた」

「……お前、向こうには向こうの事情があるんだろうからさ。あんま詮索すんなよ?」

「しないってば、そんなこと」


 冒険配信者で秘密を抱えてる人は少なくない。それがどんなことであれ、踏み込むべきではないことくらい彼女はわかっていた。


「でも……今詮索したいのは、シャドーくんにかな」

「……えっ。な、なにっ?」

「隠してるでしょ」

「…………」


 ラヴの黄金に輝く瞳で見つめられ、シャドーは黙ってハットを深く被る。


 だが、彼女にはわかっていた。シャドーのコートの内ポケット……そこにさっきまでない僅かな膨らみがあることを。

 そして、さっき手を振っていた壱郎の手にマジックペンの跡がついていたことも。


「山田さんからなにもらったのかな?」

「……別に。なんか僕のレアシール当ててたから、それもらっただけ」

「サイン、書いてくれたんだ? 嬉しい?」

「額縁に飾ろうと思ってるよ」


 壱郎人生初のサインは、なんの捻りもないただ普通の署名であった。

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