そのスライム、無敵につき~『永遠のLv.1』とゴミ扱いされる貧乏社畜、Sランクモンスターから人気配信者を助ける。敵?追ってきませんよ、ワンパンしたので~
第50話 Lv.1が赤羽の河川敷からお送りします
第50話 Lv.1が赤羽の河川敷からお送りします
「時刻は午前7時――はーい、集合! 『エリィの愉快な一団』の配信の時間だよ!」
「あ、魔里奈のSSR当たったぞ。サイン付き」
「「マジ!!?」」
:配信の時間だああああああああ!
:のっけからガチャしてて草
:パン食ってる場合じゃねえぞ山田ぁ!
:は?サイン付き?は??
:神引きしてんじゃん…燃やそ
:山田ぁ!
:それくれ
7月15日。エリィたちは赤羽新ダンジョンへと訪れていた。
ここのダンジョンの役員から軽い説明を受け、早速配信を始めている。
ちなみに壱郎たちが今食べているのは、懸賞した会社の冒険配信者シール付きの菓子パン。飲み物のも含めて同じメーカーのものが支給された。
「えー、ここが赤羽新ダンジョン! 場所は……駅から外れた河川敷、かな? 目の前に荒川が流れてる!」
「赤羽ダンジョンとは反対方面だな。見た目はあんま変わりないが」
先行で入れるのは15人。他の冒険者たちもダンジョンに入る準備をそれぞれ始めている。
「うーん、やっぱり新ダンジョンってこともあってみんな気合入ってるね! そりゃ入っちゃうよね! ユウキも楽しみ?」
「うん、ちょっとワクワクしてるよ」
「二人はそうなのか……俺は少し怖いかな。なにが起こるかわからないからな、難易度不明のダンジョンだし」
「え、それ壱郎くんが言う?」
「君、大抵のことはパワーで解決するじゃん……」
あんなデタラメな力を持っている壱郎のどこら辺に不安があるのだろうか――とエリィとユウキは甚だ疑問である。
他の冒険者の半数以上が成人男性たち。その何人かがチャラそうな見た目、中には般若の御面をした少女もいるが……今、気になったのはそこじゃない。
多くの人が集う中――一際若い二人組。おそらくこの中では最年少。
だがどちらも普通の冒険者じゃない異質な格好をしていた。
「……なるほど、百合葉ちゃんが言ってたことがわかったよ」
「? なにが?」
「あの二人のことだよ、壱郎」
エリィの言葉にピンと来てない壱郞へ、ユウキが二人組を指す。
「あの子たち、夢ハンの冒険配信者だよ」
「……夢ハン?」
「――ラヴ、ラヴ、ラヴィット! 本日は赤羽新ダンジョンからお送りします、夢ハンティング所属、
「……光あるところに陰あり。同じく夢ハンティング所属の武藤シャドーだ」
一人は紺のメカニカル風衣装を基調とした少女。整った顔立ちに斜めカットの前髪が恐ろしく似合っている。ハート型のピンクうさ耳を頭につけ、天真爛漫な笑みを浮かべている。
もう一人はハットを被った少年。ワイシャツにチョッキと、服装をビシッと決めているが……背丈が少々足りないことだけが玉に瑕だ。隣にいるうさ耳少女の方が高いのだから、なおさら悲しく見えてくる。
「名前は
「へぇ、すごい子たちなんだな……ん?」
自分の妹より若いことに感心しつつも、壱郎は先程集めていたおまけシールをおもむろに取り出した。
「……あぁ、やっぱり。あのハットの男の子はわかるよ。ほらこれ、あの子のレアシール」
「そうか……壱郎くんにとって、あの子たちはおまけシールの存在なんだね……」
:草
:草
:これは草
:有名配信者やぞw
壱郎の認識に対してリスナー含めた総勢がツッコミを入れた。
「でも、どうしてそんな有名人がここに?」
「だからこそ、だと思うよ? 先行抽選なんて誰もが欲しがるネタだろうし……あと、彼らは特別なのかもね」
「?」
「ほら、これこれ」
とエリィが見せてきたのは今さっき食べたあんパンの袋。
「ここのメーカーと彼らが所属する夢ハンは、この菓子パンを通してグッズ展開してる。そしてこの先行抽選のスポンサーは……ってこと。要は宣伝も兼ねたコネもあるんじゃないかって」
「あぁー……なるほど、企業勢の強みってやつだな」
説明を聞いた壱郎はうんうんと頷く。
「んー、参ったなぁ……あの子たちもいるってなると……」
「……同接数が予想よりも下がるってことか?」
と質問してくる壱郎に対し、「そうじゃなくて」とエリィがマイクに拾われないくらいの音量で囁く。
「あの子たち二人にはあまり関わらない方がいいかも」
「……どうして?」
「個人勢から企業勢に声をかけるのって、売名行為だと認知されちゃうんだよ。そうなったら炎上コース間違いなしだね」
「なるほど、それはやばい」
炎上騒ぎの経験がある彼らは肝に銘じることにした。
以前の炎上はなんとかなったものの……企業勢のファンレベルともなると、あの時とは比べ物にならないだろう。
――それに……百合葉がなにがなんでもアンチを特定しようとする。あの執念さを倍の規模でやられたら……。
それだけは阻止せねば――と兄ながら固く誓う壱郎であった。
***
赤羽新ダンジョン攻略開始から1時間経過。
エリィ一団は、壱郎の探知と手描きの地図を頼りに第1階層を探索していた。
「今のところ出てきたモンスターはレッドバット、グリフォン、ホワイトイーグル、シルク……天井も高いし、なんか空飛ぶモンスターが多めだな。まあこんな洞窟内じゃ飛行にも制限がかかるけど。そういや、この辺でシルクが出るのは珍しいよな、エリィ……ん、どうした二人とも?」
「いや……珍しいとか、そうじゃなくて……」
「敵、強すぎないかな……?」
出現するモンスターは大体がCランク以上、たまにBランク。レッドバットとの遭遇は余程のラッキーだ。
そして、ここまでのレベルが通常として出てくるダンジョンならば……今後新ダンジョンに設定される推奨レベルはかなり高いことが明らかだろう。
:新ダンジョンやばい
:レベル高いぞこれ
:空中戦かぁ…遠距離持ってないときつそうだな…
:三人とも、少し休んでもいいんだぞ?
エリィやユウキもBランクモンスター単体ならまだ対処できるが……連戦かつ複数ともなると、かなり辛い戦いとなってくる。
しかも強いられるのはエリィが苦手な空中戦ばかり。地上戦を得意とする彼女にとっては、もどかしい気持ちだろう。
「うーん……そうか? エリィさんでも空中戦だって全然いけると思うぞ」
「いや、私遠距離攻撃できないし……そんな方法、あるの?」
「もちろん。今から俺がやってみせるよ」
「――あっ!? 今のやっぱなし! 見せなくていい!」
猛烈に嫌な予感がしたエリィが慌てて否定するが……もう遅い。
「まずは――こう!」
――【衝撃波】!
膝を曲げた壱郎は、勢いよく飛び上がると、空中にいるホワイトイーグルへ肉薄する。
相手に気づかれる前に殴りかかり、まずは一体。
「んで、次に――」
――【衝撃波】!
壱郎はくるりと身を曲げると、そのまま空を蹴り上げて、軌道を変えていった。
殴って方向変換、殴って方向変換……その繰り返し。
そして最後の敵を仕留めた後、壱郎は華麗に地上へと降り立ってきた。
「……とまあ、こんな感じ。エリィの【インパクト】なら同じことができると思うぞ」
「調整が無理過ぎるよぉっ!?」
やはり彼女の嫌な予感は的中した。
壱郎がする動きなど、およそ人類ができるものじゃないのだ。
:いや草
:草ぁ!
:敵いねぇwww
:滞空時間長すぎぃ!
:マジで動きどうなってんだよ
:信じられるか…?あれ、Cランクモンスなんだぜ…?
:お前を見てると常識がわかんなくなるよ、山田
「そうか? まあ、この階層は大体こんなもんで十分だし、第2階層へ入ってみようぜ……あっ、休憩をしてな。ちゃんと休まないと危ないからな、うん」
「はぁ……あり得ないくらい強いのに、そういうところは慎重なのがね……」
敵は簡単にぶっ倒すくせに普通の気遣いは心掛けている壱郎といると、思考がバグりそうでエリィは深いため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます