第6話 その後

 俺は朝、少年に声を掛けるのが日課になっていた。


「おはよう」

「おはようございます」


 少年はほとんど何も喋らないが、だんだん俺に慣れて来たみたいだった。


「いつも悪いね。今、誰も来てないんだよ」

「じゃあ、皆さん、何してるんですか?」

 少年が口をきいたので俺はびっくりした。

「みんな家で仕事してるんだよ。ネットがあるから、本当は会社に来る必要ってないんだよね」

「じゃあ、(あなたは)何で一人だけ来てるんですか?」

 言い方が率直だった。

「俺は管理職だから」

 少年は何も言わなかったが、「そうですか」と頷いていた。

「もったいないよね…こんな広いオフィスで誰も人がいないなんて」

「はい」

「もしかしたら縮小するかもしれない…ってさ。他の人に言わないでね」

「はい」

 少年はゴミ箱のゴミを集めて出て行った。足元に人が屈むとちょっとドキドキする。俺は変態かもしれないとちょっと思った。やっぱり女の子だけじゃなく、男の子もかわいい方がいいな。


 もし、話しかければ結構しゃべってくれるかもしれないと俺は思った。


 心を開いてくれそうなのが、ちょっと嬉しかった。


 きっとトイレ掃除もやってるんだろう。

すごくきれいな子なのに。

 会ったらちょっと気まずいな。


 俺は一日、顔がかっかと燃えて熱くなっていた。

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