第2話 コロナ禍のオフィス
それからしばらくして、コロナが発生した。
最初は2019年12月だ。中国で未知のウイルスが発生したのだけど、その話を俺がタイムリーに知っていたかは覚えていない。
驚くほどあっという間にコロナが市中に広がってしまった。
平和だった日本社会が急変。
毎日、コロナ感染者がどこで発生したか、どういうルートで移動したかに日本中が一喜一憂するようになった。
二月頃には、どうやら本気でやばいらしいという話になっていた気がする。俺は通勤の必要があったから、品薄になる前に不織布マスクを買いに走っていた。普段から会社に遅刻するのが当たり前になっていたから、家の近くのドラッグストアに開店前から並んで、マスクを買ってから会社に行くのが日課になっていた。
確か春節の時期で中国人が日本に逃げて来ていた気がする。一緒に列に並んでいて、複雑な心境だったことを覚えている。俺が行っていた店では、毎日わずかなマスクがリリースされていたのだが、行列に並んでいる人で一気にさばけてしまい、その日の供給分が一瞬で終了していた。
俺は日本中がマスク品薄で困っている中、マスクも消毒液も手に入れ、さらに自転車通勤して会社に通い始めた。俺の勤務先の会社は、割と早くリモートワークに対応し、ほとんどの社員が会社に来なくなってしまった。自転車通勤だとコロナに感染するリスクはないが、排気ガスまみれになって疲れて出勤すると、会社に行ってから仕事が捗らないので、わずか二週間くらいで電車通勤に戻ってしまった。
電車はガラガラでラッシュの時間でも座れるくらいだったと思う。座った方が感染リスクが低いと聞いたので、俺も積極的に座っていた気がする。命がけで仕事に行ってるような状態だった。先の見えない不安が日本中を襲っていた。
物理的に考えて、俺が感染するリスクはかなり低かったのだが、当時はエアゾル感染という感染経路があるというのがメディアで紹介されていて、エスカレーターや外の空気でもうつるという、底なしの感染地獄に陥っていた。毎日、感染を防ぐ方法を調べて実践していた。
会社での鬼門は、トイレとエレベーターだ。トイレでは手洗いを徹底して、ドアの手すりには触らないように、ウエットティッシュを常に持っていた。そのトイレもフロアで使っているのは数人という状態だったのに、その数人のことも信用できずにいた。都心のオフィスの賃料は高い。テナント代に月数千万払っていながら、実際に通勤しているのは、数十人というありさまだった。
オフィスビル賃貸が先細りの業界なのが実感として迫って来た。それなのに、工事中のビルがいくつもあった。
地下の飲食店はがらがら。
閉店した店もあった。
俺自身の雇用も大丈夫なんだろうか。
社会全体が逼迫していた。
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