俺とコロナと掃除の子

連喜

第1話 かわいい子

 彼のことを初めて知ったのはいつだったろう。


 俺の働いていた職場はワンフロアになっていて、管理職がいる仕切られたブースが独立してある感じだった。それ以外の各席は、低いパーティーションで区切られていて、それぞれ広めのスペースで仕事をしていた。


 ある時、俺がトイレに行って、自分の席であるブースに戻ろうとしていた時、女性たちがこんな話をしていた。


「最近、掃除で入った子、すごいかわいくない?」

 一人は四十くらいで、もう一人は三十くらいだった。

「あ、やっぱり思いました?」

 若い方の人が嬉しそうに言っていた。楽し気に盛り上がっている。それを聞いた俺は話に割り込んだ。

「ほんと?かわいい子が入ったって?」

 二人は俺が急に話に入って来たので笑った。

「それが、まだ高校生くらいの若い子なんですよ!」

「え、そんな若い子が?掃除?」

 掃除の人が多少かわいくても俺には何の関係もないのだが、目の保養にはなるだろう。地方とかに行くと、若くてきれいな感じの人が掃除をやっていたりすることがあるが、ああいう人がうちのオフィスにいたら、会社に来るのが楽しみになるだろう。


「どこ行けばその人に会える?」

「朝、早く来るとこの辺掃除してますよ」

「あ、でも、大体、九時ちょっと過ぎくらいに終わっちゃうので…」

「俺が来る頃には終わってるのか~。明日から早く来ようかな」

「江田さんって、いつも9半くらいに来ますよね」

「電車混んでるの嫌だからさ」

「わざわざそのために早く来るんですか?」

「来るよ。ちょっと早めに来た方が早く帰れるし」

 俺は翌日から早く来る気満々だった。

「私も来ようかな…一本早い電車に乗らないとなぁ…」

 四十代の女性が言った。

「九階が終わった後は、他のフロアにいるみたいですよ」

「よく知ってるね!」俺は呆れた。若い子をいびる小姑みたいじゃないか。

「用もないのに受付に書類持ってったりして…」

「絶対変ですってば!」若い方の人が笑いながら言った。

「でも、そのくらいかわいいんですよ~アイドルみたいで。朝からいいもの見させてもらったなと思います」

「なんでそんな子が働いてんの?俺たちがウダウダ仕事してるから、目覚まさせるために呼んでるんじゃ」

「あー。でも、精神的にみたいですよ。話しかけても何も言わなかったって」

「知的障害みたいな?」

「うーん。それより、対人恐怖症みたいな感じだって」

「いいよ、別に。顔が可愛ければ」俺は本気でそう言った。別に金払ってるわけじゃないんだし。

「でも、男の子ですよ!」

 若い方の子が言った。二人で俺をからかっていたらしい。

 俺は噴出した。

「早く言えよ!今までの時間何だったんだよ」

「そんなかわいい子が掃除なんかやらないですよ!」

「まあね。もっと楽な仕事あるし」

「そうですよ!そんなうまい話ないですよ」

 十代のかわいい女の子が男子トイレの掃除をしてるなんて光景を想像して、期待が膨らんでしまった。一瞬だけちょっと楽しかったのは間違いない。


 しかし、男だとわかって、その話はすぐ忘れてしまった。

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