たったひとつのくだものと自由ヶ森委員会

水上透明

たったひとつのくだものと自由ヶ森委員会

あるところに自由ヶ森というところがありました。

みんな自由なその森は、みんな自由にむやみやたらと実りをとってしまうので、

不毛な年が幾年も続いていました。

そんなある日、ある木にひとつのくだものがなりました。

思わず目をとじてしまうようなかぐわしいにおい、やわらかそうな丸み、かじったらきっと、甘くのどをうるおす果汁があふれるでしょう。

しかしそのくだものを見つけたひとたちが争おうとします。

そこで自由ヶ森に委員会が発足しました。


アカ君手をあげます。

「あのくだものは最初に見つけたひとがとるべきだ。」

みんなが言います。

「それじゃあ一緒に見つけたひとたちが納得しないよ。」


アオ君手をあげます。

「あのくだものは一番力の弱いひとにあげよう。」

みんなが言います。

「優しいけれどそれも不公平。」


キイロ君手をあげます。

「見つけたひとたちで分け合って食べようよ。」

みんなが言います。

「一人分の量があんまり少なくなって食べた気がしないよ。」


ミドリ君手をあげます。

「売ってそのお金を山分けしよう。」

みんなが言います。

「やっと実った大切なくだもの、お金にはかえられないよ。」


シロ君手をあげます。

「このくだものはとらないで、みんなで見守ることにしよう。」

みんなが言います。

「そうしようか、そうしよう。」


と、賛成票が集まりました。

そうして、そのかぐわしいくだものは、みんなで見守ることとなりました。

そして素晴らしいにおいのくだものがあるといううわさが他の森にも伝わりました。

自由ヶ森は、そのひと香りを感じにやってくる観光客であふれ、観光スポットとなり裕福になりました。

そうして幾年も過ぎました。

森が不毛にならないように、委員会は収穫整理券を発行しました。

幾年も幾年も過ぎました。

自由ヶ森は再び豊かに実るようになっていきました。

くだものがなったおかげでいろいろなことが良い方向に向かうようになった。

みんなくだものに、実りに、感謝します。

そんなある日、ポトリ、とあのくだものからしずくが落ちてきました。

見守っていたひとはなんだろうとなめてみます。

するとかぐわしい香りの、甘くつよおいお酒でした。

よく熟したくだものがお酒へと変わっていたのでした。

みんな、大喜びでお酒を分け合います。

誰も文句は言いません。

お酒だったら一人分少しの量で充分です。

その日はくだもののお酒の収穫祭となりました。

酔っぱらった委員会がみんなで手をあげます。

「くだものよ、いままでありがとう。ああ、おいしいお酒だった。」

「はーい、賛成。」

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たったひとつのくだものと自由ヶ森委員会 水上透明 @tohruakira_minakami

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