第13話 ベッドにダイブ

 翌朝7時ぴったりにあかりちゃんが来た。

「ふゆっちおはようー」

 今日も朝から元気いっぱいだ。

「おはよう」

「朝ごはんはぜんざいでいいかなあ? 北海道産のゆであずきとおもちを買ってきたんだけど」

 彼女は俺に缶のゆであずきを見せた。

 朝からぜんざいか……。

 少しひるんだけれど、可愛い幼馴染が持ってきてくれた高級そうな缶詰のあずきだ。ありがたくいただくべきなのだろう。

「いいよ」

 俺は微笑んで、彼女を家の中に招き入れた。


 あかりちゃんは鍋にゆであずきと水、塩ひとつまみを入れ、ガスコンロに火をつけた。

「おもちは何個食べるー?」

「1個」

「あたしは2個食べちゃうね」

 今日も食いしん坊なあかりちゃん。

 彼女は真空パックを切り裂いて、オーブントースターで餅を焼いた。


 食卓の上にぜんざいがふたつ。

 あかりちゃんは砂糖をたっぷりと追加して、お箸でかき回し、食べ始めた。

 彼女は超がつくほど甘い物好き。もはやまったく驚かない。

 俺に配慮してくれて、鍋には砂糖を加えなかったことに感謝すらしている。

 ありがとう、あかりちゃん。

 俺もぜんざいを口に入れた。

 甘すぎず、しっかりとあずきの粒と旨みがあって、ちょっぴり塩味も効いていて、美味しかった。


「今日こそ、ふゆっちの部屋のかたづけをさせてもらおうかな」

 きのうすでに空を部屋に入れているので、あかりちゃんの申し出をことわることはできない。

 ふたりで2階へ行った。

 廊下を見て、あかりちゃんは目を丸くした。

「なにこれえ?」


 廊下には、雑誌がいっぱい積みあげられている。

「きのうからかたづけに着手したんだ」

「それでこの有り様? 浅香とやったの?」

「うん、ふたりで部屋から雑誌を出した」

「おとつい、あたしは部屋に入れてくれなかったのに」

 あかりちゃんは少し不機嫌になった。


「まあいいや、つづきをやろっか。この雑誌をひもで縛って、古紙回収に出そう」

「ちょっと待って。いまこの漫画雑誌を読み返しているところなんだ」

「こんなにたくさんの漫画を読んでいたら、いつまで経ってももかたづかないよ」

「そうだけど、何日か待って。空も読んでいるんだ」

「浅香も?」

「うん」

「どこで読んだの? リビング?」

「いや、俺の部屋で」

 彼女の表情がさらに不機嫌になり、拗ねたように頬を膨らませた。

「あたしもふゆっちの部屋で遊ぶ!」と叫んだ。


 ふたりで部屋の中に入った。

 きのう空のために出した座布団が置きっぱなしになっている。

「そこに座ってよ」と言ったけれど、あかりちゃんは座布団には目もくれず、ベッドを見た。

「浅香はどこで漫画を読んだの?」

「座布団と……ベッド」

「むっきーッ! あたしもッ!」

 彼女はベッドの上にダイブした。

 

 あかりちゃんはブラウンのミニプリーツスカートを穿いている。

 彼女が跳んだ瞬間、スカートが広がった。その下のパンツは、見えそうで見えなかった。

 ベッドにうつ伏せで着地し、俺の枕をぎゅっと抱いた。

 彼女の太ももはむっちりとして肉感的だ。

 ふくらはぎは妙なる曲線を描き、足首はルーズソックスにつつまれている。

 

 童貞を殺す気なのか、と思った。


 彼女は枕を抱きながら、にへっと笑った。

「さあて、ごろごろしよっかなー」

 部屋のかたづけはどこへ行った?

 俺の幼馴染はふたりとも、俺のベッドでごろごろしたいだけなのか?


「なにするの? あかりちゃんも漫画読む?」

「いまは漫画はいいや」

「じゃあどうするの?」

「あたし、スマホがあれば何時間でも遊べるから。ふゆっちは雑誌を読みなよ。読み終わってもらわないと、かたづかないし」

「わかった」

 あかりちゃんはスマホをポチポチといじり出した。


「ねえ、この部屋の写真、SNSにあげていいー? 彼氏の部屋、とか書いて」

 突然そんなことを言い出した。

「だ、だめだよ!」

「そんな大声で拒否しなくてもいいじゃない、ケチー」

「彼氏の部屋なんて書いたら、あかりちゃんが困るでしょう?」

「あたしは困らないかなー。ふゆっちは困るの?」

「部屋の写真は困るかな。プライバシーは守りたい」

「彼氏ってところは? 困る? 困らない?」

「す、少し困る……彼氏じゃないし……」 

 顔が熱い。真っ赤になってしまっているかもしれない。


 スマホのシャッター音がした。

「ふゆっちのレア顔ゲットー!」

「ちょっ、やめてよ!」

「むふふ、カワイーっ」

 あかりちゃんは画面を見つめて笑っている。

「消してよ」

「消したくないなー。かわりにあたしの写真を撮ってもいいよ」

 彼女は俺を見上げ、笑みを浮かべて、脚を交差させた。

 なんかエロティックだ。 

 俺はあかりちゃん似のグラビアアイドルの写真集を思い出した。


 クッキーの缶の中にあるエロい写真集。

 グラドルは最小限の布しかつけていない。

 でもそんな写真よりも、目の前で生きて動いている女の子の方が、ずっとなまなましくてセクシーだ。

 胸がドキドキする。


「からかわないでよ」と俺は言った。少し落ち着きたい。あかりちゃんは俺をからかって遊んでいるだけなのだ。

「ごめんね。ふゆっちの部屋をネットに晒したりはしないよ。こっちのレア写真は消さないけど」

「俺の写真にレアな価値なんかないよ」

「じゃあこれはどうかな?」


 彼女はベッドから跳ね起きて、俺の隣に来て、すばやく自撮りをした。

 その写真を俺に送信した。

 ツーショット。

 あかりちゃんは鮮やかにウインクしていた。

 これはレアだ。

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