16. 許してね神様

16. 許してね神様




 それからボクと葵ちゃんは映画の感想を話ながらランチを続けることにする。


「映画すごく良かったよね!雪姫ちゃんはどのシーンが好き?」


「やっぱり……最後に主人公がヒロインの気持ちに気付くシーンが感動的だったよ」


「分かる~。あんな恋してみたいな~」


「なんか甘酸っぱくてニヤニヤしちゃうけどね」


 そう言うと葵ちゃんは少し意地悪な表情を浮かべながら、ボクの頬っぺたを指で軽く突いてくる。その仕草は凄く可愛くて、ボクはドキドキしてしまうけど……でも今はそれよりも葵ちゃんの言葉の方が気になった。


「ふふ。そう……なれるといいな私も……ね?雪姫ちゃん?」


 その一言にボクの心臓は跳ね上がる。葵ちゃんは……ずるい人だ。さっき自分でも分からないって……


 でも、一生懸命その分からない『気持ち』に向き合っている……ボクにはその強さが今はない。だから今はまだ……この気持ちに名前をつけられない。でもいつか分かる日が来るといいなと思っている自分がいるのも事実だ。


「そう言えばさ。雪姫ちゃんはいつも私の右側に座るね?なんで?」


「え?だって葵ちゃんは左利きでしょ?」


「え……私……雪姫ちゃんの前で左手使ったっけ?一応両利きで、外では右手使ってるんだけど……あ、でも……雪姫ちゃんの前では左手で食べちゃってた……かも?」


「たっ食べてたよ!最初!私が左側にいると、腕がぶつかっちゃうから!」


「そうだったんだ……雪姫ちゃんといると安心するからかな……無意識に使ってたんだ。あはは。恥ずかしい」


 少し恥ずかしそうにする葵ちゃん。そんな反応されたらボクまで照れてしまうから止めて欲しいんだけどな……だってすごくドキドキしてしまうし。


 ごめん。違うんだ。毎日見てるから知ってるんだ。神様。今の嘘だけは許してください。ボクは心の中で謝りながら、注文したアイスティーを一口飲む。


 心なしかなぜか少し苦いような気がする……というか苦い。あれ?ガムシロップ入れたんだけど……


「あ。雪姫ちゃん。それ私のアイスティーだよw」


「えっ!?ごごご!ごめん葵ちゃん!」


「あはは。『ごごご』って焦りすぎだよ雪姫ちゃんw」


「ごめんね葵ちゃん。新しいの注文するから」


 ボクが焦りながらそう言うと、葵ちゃんはまた意地悪な表情を浮かべる。その表情が可愛くて、つい見惚れてしまう……それは一瞬だと思うけど、ボクにはその一瞬が長く感じた。


「雪姫ちゃん。『間接キス』だね?」


「かっ!間接……キス……」


 そんな葵ちゃんの一言にボクは顔が一気に熱くなるのを感じた。だって……今まで女の子と……しかもこんな可愛い子と間接とはいえ、キスをしたことなんてない!それに……そんなこと言われたら……葵ちゃんの唇にしか目がいかなくなる。その柔らかそうな唇……それを見ているだけでドキドキしてくる。


「……本当にしてみる?」


「あっあっ葵ちゃん!?」


「ふふ。冗談だよ」


「やっやめてよ……葵ちゃん……」


 そう言いながらボクは急いでストローを咥える。でも、その行為が更にボクの心臓の鼓動を早くさせてしまう。葵ちゃんと本当にキス……そんな想像をしただけで心臓が壊れそうなほどドキドキする……ダメだダメだ!そんなこと考えちゃ!これはさすがに神様も許してくれない!ボクはそんな考えを振り払うように首を横に振る。


「ふふ。やっぱり雪姫ちゃんは……可愛いな」


 そんなことを聞いてくる葵ちゃんにボクは恥ずかしすぎて何も言えずにただ黙ってしまうのだった。

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