7話 あるいは最悪の日

「そーいえばお前引っ越したんだっけ」



「ええ。前の家は家族を思い出してしまって、家に帰るたびにさみしい思いをするのもつらかったので」



「そうか」



「そういうあなたは?」



「俺は今も変わらずな。引っ越しも面倒くさいし。」



「そうですか」


お互いに少しぎこちなく始めた会話だったが、今では昔のように話せるようになっていた。


「この後、あなたの家にお邪魔してもいいですか?」



「は?」


久々の会話にようやくペースを取り戻しつつあったかいの耳に、穂香ほのかからとんでもない一言が飛び込んできた。


「べつにいいでしょう?昔はよくお邪魔していたじゃないですか」



「しかしな…」



「まあいいじゃないですか。積もる話もあることですし」



「まあ…いいけど…」


こうして、流されるようにかいは穂香の要求を了承した。


その背後を付けてくる少女のことなど、まったく気が付かないまま


ーーーーー


「ここは変わらないですね。」



「そんなに簡単にかわらねえよ」


くだらないことを話しながらバスに乗り換え、彼らはかいの家についていた。


「懐かしいですね」



「ここで話すのもあれだし、入らないか?」



「そうですね。では


穂香ほのかがそう言いかけた時であった。


「お姉さま!!!」


聞き覚えのある声が響いた


あずさ!?」


まったく予想だにしなかった呼びかけに、穂香ほのかは驚きを多分に含ませた声で少女の名を呼ぶ。


あずさ?なぜここにいるの?」



「それは私のセリフです!お姉さま?お姉さまこそなぜここにいるんですか?」



「それは…」


穂香ほのかは言いよどむ。


「お姉さま言ってましたよね。自分より弱い人を好きにはなれないって!だから!だから私はお姉さまより強くなれるように…なのに、なんでそんな男に!!」


あずさは叫ぶ。

しかしそれも無理からぬことである。

梓の目から見れば、突然誰ともわからぬ男に自身の思い人たる穂香ほのかを取られたわけである。


「あなたさえ…あなたさえいなければ…」


思い人を取られ錯乱したあずさは、住宅街であるにもかかわらず躊躇なく自身の能力を起動した。

あずさの身に魔力が宿るのを感じた穂香ほのかが叫ぶ。


「やめなさい!あずさ!」


しかし穂香ほのかの声は届かない。


「消えてください!」


あずさは半ば狂気に飲まれたような声で、かいにむけ大量の隕石を放った。

この住宅街で能力を使うとは想像していなかったかいだが、その反応は早かった。


「ふっざけろぉ!!」


叫びながらかいは、自身の胸元から赤いひし形のペンダントを取り出し、自身の魔力をこめる

ペンダントからほとばしる閃光は、正確にあずさの作り出した隕石を打ち砕き、その破片までも消滅させた。


「あなた、まさか…あの時の



「悪いが少し寝ててくれ!」


梓がかいの正体に気が付いたのと、かいの攻撃があずさに直撃したのはほぼ同時であった。


あずさ!」


穂香ほのかが叫ぶ


「大丈夫だ、威力は絞った。気絶してるだけだ」



かいの言に少し安堵した表情になった穂香ほのかだが、すぐにまた焦ったような顔になり聞いてくる


「あなたはよかったのですか?こんな住宅街の真ん中で能力を使って」



「この辺はほとんど人も住んでない旧市街だしこの辺の防犯カメラはここをみてない。それに強力な魔力探知妨害を展開した。俺が全力を出しても探知されない優れものだぜ。だから誰も俺たちを見ていないし、気づいてもいないだろう」



「そうですか。ならいいのですが」


説明するかいとそれを聞いていた穂香ほのかはようやく冷静になりつつあり、突然起こった襲撃を理解し始めていた。


「しかし、こいつさすがにここに放置しておくわけにもいかないよな」



「そうですね、少し癪ですがこの子も一緒にお邪魔できますか?この子がつけてきたのは、元をたどれば私のせいなので。心苦しいのですが」


穂香ほのかが申し訳なさそうな顔をしながらいう


「この件は俺のせいでもあるからな。かまわんさ」


かいも申し訳なさそうな顔をしながら答える


「ありがとうございます」



「きにすんな」


そうして2人は、気絶した1人を抱えながらかいの家へと入っていく

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音速の幽霊 音速のとまと @onnsokutomato

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