第三話 罠
ニュースを見た
どうやら昨日の空中戦(一方的に打たれるだけ)を見た一部の人間がインターネットに動画を投稿。
それを知ったニュース会社がこぞって取り上げ、とあるニュース会社が空偵隊の隊員へのインタビューにこぎつけたことで、空偵隊内で広がっていた音速の幽霊の噂が外部に発信されたらしい。
「はー。どうすんだよこれ」
通学路を歩きながら一人そうつぶやいた彼の背かなに衝撃が走る。
「よう!元気無さそうじゃん。どうしたのさ」
「
「馬鹿だなあ。曜日確認しろよ。今日の1限は佐々木が担当だぞ。寝てんのバレたら大変だ」
「うわっそうじゃん。だっる」
彼は
彼の数少ない友達だ。
「早く教室行って少し寝るわ」
「そうか、じゃあ急ごう」
こうして彼の平穏な一日が始まった。
「眠気ってすごいな。気づいたら学校終わってんだけど」
「本当に眠そうだったもんな、何言われても上の空であーだのえーだの言って、昼休みになったと思ったら寝てるし。午後もそのままボケボケしてたもんな。最後のほう寝てたろ」
「寝てたかも」
そして速攻で終わった。
幸いにも授業中にたっぷり寝たおかげで眠気は大分収まったようで、彼の都合のいい体はこれから起こる空中散歩に向けて順調に熱をためていた。
「早く帰ろう。帰ってゲームだ」
「まったく懲りてないね」
こうして彼らは帰路につく。
「じゃーな」
「おう、今日こそはしっかり寝ろよ」
電車通学の彼らは駅で別れる。
こうして一人になった快はスマホを開いた。
今朝、寝ぼけていてしっかりと確認できなかったニュースを見ているのだ。
どこまで詳しい情報が出ているのか、それを確認している。
「ふぅ」
ニュースを確認し終えた快は静かにため息をはく。
どうやら詳しい情報はほとんどわからずじまいらしい。
『次は武蔵溝ノ口、武蔵溝ノ口でございます。お出口は左側です。』
こうしてニュースを確認していると彼の自宅の最寄り駅に着いた。
しかし彼は下りない。
そのまま乗り続けること数分。
『二子玉川、二子玉川でございます。ご乗車ありがとうございました』
彼は二子玉川駅で降りる。降りた彼はそのまま多摩川沿いを東京湾に向かって歩き始めた。
ここから徒歩で約3時間。
現在時刻は17時を少し過ぎたところ。
彼はゆっくりと歩き始めた。
ーーーーー
空偵隊東京湾基地 18時
静寂に包まれた作戦会議室に、一人の女性が入ってきた。彼女は現在、この東京湾基地司令の任についている。
そんな彼女が、作戦会議室に集まった全員に聞こえるように話し始めた。
「これよりブリーフィングを始める。今回の
「それでこんなにいっぱいいるわけね」
「そうだ。我々は偵察部隊として空中でゴーストを発見し、攻撃隊にそれを知らせるのが役目だ。以降はゴーストの逃走ルートをふさぐ形で布陣していろと事前に通達されている。変更があれば随時連絡を入れるのでそれに従うように。偵察範囲は東京湾全域だ。質問は?」
「はいはい!昨日優菜が山ほど攻撃したのに一発も当たらなかったって聞きました!そんな奴を攻撃できる部隊なんてあるんですか?
「ああ。その点なら問題ない。攻撃部隊には空撃隊から【流星】と【大気乱流】が参加している。彼女達なら高高度での作戦行動も可能だ。ゴーストを確保、あるいは撃墜可能だと上層部は結論付けた」
「世界中探しても三人しかいない航空攻撃可能な
「それだけ今回の作戦は失敗できないってことだ。上層部曰く、ゴーストは他国で発生した能力者で、日本を偵察するためのスパイの可能性すらあるということだ」
「何としても捕らえたいってわけね」
「そうだ。故に失敗は許されない」
「なるほどね」
質問をした少女は納得したように頷いた。
それに満足したらしい基地司令は視線を少女から会議室全体へと戻し、問うた。
「ほかに質問はあるか?」
「あのっ、質問なんですけど、ゴーストが今日現れるなんて保証はないのに、なぜいきなり全員に召集をかけたんですか?」
「上層部がな、ゴーストの飛行ルートや過去に現れていないかを探るために防犯カメラを片っ端から調べたらしい。結果、ゴーストはほぼ毎日のように同じルートを通っていたことが分かった。」
「毎日?嘘…」
答えを聞いた少女の一人がそうこぼした。
我々は毎日のように飛んでいる目標を見逃し続けていたのか、と。
「でも昨日見つかったんだし、今日はビビッて出てこないかもよ。なのになぜ昨日の今日なわけ?」
そう聞いたのは昨日、フギン隊の隊長を務めた少女であった。
「実はな、我々は過去にもゴーストを発見している。前回も今回と似たような方法で逃げられてな。前回は上層部から他言無用といわれていたので知っている人間はごく一部だが。今回の防犯カメラ調査でな、どうやらゴーストが前回の遭遇戦の翌日にも現れていたことが分かったんだ」
「それで、今回も来るだろうってわけね」
「そうだ。我々はそれを全力でたたく!ほかに質問は?」
声は上がらなかった。
「では任務開始だ!全員出撃して空中待機!所定の班ごとに分かれた後に空中哨戒を開始しろ!」
「「「了解!」」」
現在18時30分
闇夜に溶け込むための黒いスーツを着込み、彼女たちは夜空へと飛び立っていった。
ーーーーー
1時14分 東京湾上空
快はいつものように東京湾上空を飛んでいた。
いつも通りの時間、いつも通りのコース、いつも通りの美しい夜景。
だが、
「誰かに見られている…?」
彼が感じる視線。
誰かに見られているような感覚。
その正体を快はすぐに知ることになる。
『カッ!!!!』
東京湾各地に設置されたサーチライトが一斉に快を照らし出す。
「なるほど。随分長いこと見られていたようだ」
感じる視線の正体に快は気が付いた。
空偵隊だ。
彼女たちはこの空域でその名の通り空中を偵察していたのだ。
視線を感じていた長さから自身が監視されていた時間の長さに、快は驚きを禁じ得なかった。
「念のために顔は見られないようにしていて正解だったな。問題はここからどう逃げるかだが…」
『聞け!貴様は完全に包囲されている!逃げ場は全くない!おとなしく投稿せよ!繰り返す!貴様は完全に包囲されている!おとなしく投稿せよ!』
「逃がしてくれそうもないよなぁ」
彼の周囲は、いつの間にか空偵隊によって完全に包囲されていた。
文字通り、彼の周囲を囲む形で少女たちが飛び回っている。
しかし、彼の真上と真下だけは誰もいない。
雲などに隠れていたであろう少女たちも、雲のない真上と真下だけは展開ができなかったようである。
「誰もいないか。とはいえ、上は罠だろうしなぁ。かと言って下もなぁ」
そういいながら快は下を見る。
下には多数の護衛艦がひしめいている。
「さすがは東京湾。護衛艦なら無限にいますってか。最悪だな」
そうして彼はもう一度周囲を見渡した。
空偵隊所属の少女たちが幾重にも並び、包囲の輪を狭めつつある。
「突破口へ突入せよ、か」
そう一言、彼はつぶやき空を見上げた。
星が輝く夜空の美しさに見ほれかけ、ため息一つで意識を戻した彼は、その背の白翼を大きく広げ加速した。
高度を急激に挙げながら振り返った彼は、誰もついてきていないことに違和感を覚え、正面から感じる強大な圧によってその視線を正面へと戻した。
正面には二人の少女がいた。
彼のように翼に輝く白い羽を広げ、彼の進路をふさぐ形で展開している。
彼はその存在に驚愕していた。
彼女らの白く輝く羽は明らかに夜空で目立つ。
にもかかわらず彼は数秒前まで彼女らの存在に気が付かなかった。
しかし、彼女らの出現方法について考えていた彼は、目に入った二つの紋章でその出現方法について一つの予測が立った。
「流れ星と台風の紋章。羽根付スカイダイビングってわけね。」
彼は彼女達の上昇限界高度を知らない。だが、彼女達がどちらも高度20000m以上に上昇可能なことは知っている。
上昇限界が20000mを超える少女二人、直前まで見えなかった翼、周囲を照らす大量のサーチライト、そこから導き出された彼の予測はこうである。
彼が空偵隊に囲まれていた時、サーチライトのせいで彼は周りの光がよく見えなかった。
そのタイミングで周囲にいくつもあったサーチライトの光の中を上昇、彼の気が付かないうちに超高高度に到達。
彼がサーチライトを出るまで空中待機する。
そして彼がサーチライトを抜ける直前に翼を消し、降下を開始したのだろう
そうすれば彼が真上を見ても彼女らを視認できず、唯一の脱出口である真上へ向かって飛んでいくしかない。
「まったく、まんまと罠にはまったな」
そう一人つぶやく彼の耳に、眼前の少女の声が響いた
『私は空撃隊の
流星の二つ名を持つ少女、
目標が決して応じないと、ある種確信を持ちながら。
『高度落とす気なさそうだねー』
これから起こるであろう戦闘に心躍らせる少女の無線に、けだるげな声が響いた。
「そうでしょうね。そういう人だと思ったから私は志願したの。私より強いかもしれない人と戦えるなんて最高じゃない!!
心底楽しそうに、梓 あずさ は隣にいる
『たしかに少し興味はあるけど、私は眠し早く帰りたい』
大気乱流、
「そんな事言わないで、せっかくの夜を楽しみましょう!さあ、行くわよ!」
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