暴露話はお好きですか?
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ルシフェル・ナナリ
英国神聖国教騎士団筆頭騎士にして戦争全般を通じた人類側トップエース。
最終決戦となった第六次倉木山会戦で魔王ヴォルデモードを一対一の決闘の末撃破、人類の勝利を決定づけた生きた英雄であることは、この世界では子供でも知っている。
人類最高の魔法騎士ランクトリプルSFLを持つ、文字通り世界最強の魔法騎士。
別名、黒き魔女。
ルシフェル・ナナリの日記より
洞峰での攻勢は失敗。国連派遣部隊4万名全滅。生還者なしの報に接したときは気が遠くなる思いがした。
海兵隊のキース准将も戦死。
あのセクハラはイヤだったけど、人間的には憎めない人だった。
朝、みんなで簡単なお葬式をする。
これで何度目かわからないけど、お葬式の準備も手慣れてきた。
死に接することに慣れていく自分に気づく。
グレンジャーも「騎士辞めて葬儀屋になってやるわ」と自嘲気味に笑っていた。
お昼頃、Yが来る。
やっぱり、この季節にこの服は暑い。ちょっとはしたないかなと思ったけど、相手はY、女の子だし。
「ごめんなさい。ちょっと服、脱ぐね」
「じゃ、外、出てるね」
Yはそういって天幕から出ようとするから、私は「いいじゃない。女の子同士なんだし」って、止めた。それ自体、普通だと思った。
けど、Yはものすごく怪訝な顔をして、私に言った。
「ルシフェル、わかってる?」
「何を?」
「ボク、男の子なんだよ?」
まさか。
私は思わず笑ってしまった。
だって、周りの人たちも「彼女」っていってるし。どこからどうみても女の子じゃない。
何の冗談なんだろう。
そう思った私は、冗談(ホントに、ホントに冗談のつもりだったんだから!)でYの股間に手を回して思いっきり力を込めてみた。
ぐにゃ
「!凸凹○×凹凸!」
なんだかすごく柔らかい、そんな感触がして、Yは声にならない悲鳴を上げた。
Y、ホントに痛そう。
ということは……
答えは一つ。
……うそでしょ?
っていうか、私、なんてことしちゃったんだろ。
生まれて初めて、掴んじゃったんだ。
……その……オトコノコを。
しかも、女の子だと思っていたから、色々、その、男の子には決していえないようなことまで、私、男の子にしゃべっていたってこと!?
その後、私はどうしたのかよく覚えていない。
私の魔法攻撃の直撃を受けたYが3キロ先の湖で目を回して浮かんでいるのが発見されたのは、このことがあってから3時間後だったってことだけは、はっきりいえるけどね。
桜井美菜子の日記より
朝、ニュースで魔法騎士のルシフェル・ナナリさんが退院したと報道していたから、お昼休み、瀬戸さんと一緒に水瀬君に感想を聞いてみることにした。
「ルシフェルさんが退院したそうだけど」
「うん。よかったよ。治りが遅くて心配だったんだ」
「どうしてだったのかしらね」
「いろいろあったんだよね……」と、水瀬君は窓の外を見ながら遠い目をした。
「水瀬君って、ルシフェルさんとは」と、瀬戸さんも興味があるみたい。
水瀬君が黙ってカバンから取り出したのは、お昼食べる前にカバンにしまっていた手紙。
よく見ると国際郵便。きれいな字で水瀬君の名前が書かれていた。
「差出人の所」
「?」
差出人はルシフェル・ナナリ。
「知り合いなの!?」
「友達」
水瀬君はあっさりとしたものだけど、驚いたな。
ただ、魔法騎士同士だと思っていたからふった話題だったのに、まさか知り合いだったなんて。
「中、読んでいいよ」
「え?でも」
「別に公表されて困る内容じゃないもん」
私たちは誘われるままに手紙に目を通した。
何と中身は日本語。
字がすごくきれい。
「ルシフェが日本語の練習にって書いてきたんだ」
中身は近況や水瀬君から送られたお菓子に対するお礼って所か。
『明日、ようやく退院できます。左腕のリハビリも無事に終わって何の支障もありません。最初は騎士生命も終わりかなと思っていたけど、水瀬君が熱心にヒーリングをかけてくれたお陰です。本当にありがとう。』
「……水瀬君?」
「何?」
「熱心にヒーリングって、どういうこと?」
「朝、学校に行く前にロンドンまで飛んでいって、ヒーリングかけてから登校していたんだ。そのこと」
「はぁ!?」
何千キロ離れていると思っているのかな。この人。
「別にウソ言ってるわけじゃないよ。僕の場合、ロンドンまで5分もあれば行けるもん」
「……パスポートとかは?」
「あ。それ、ルシフェに教えてもらった」
水瀬君は自信満々に言ってのけた。
「不法入国っていうんだって」
そんな会話から数日後のお昼。
『職員室より1年A組水瀬悠理、電話が入っています。至急、職員室へ』
そんな放送が流れた。
「僕に?」
水瀬君は怪訝そうな顔で所員室に向かい、帰ってきた。
しきりに首をかしげている。
「どうしたの?」
「友達からだったけど……。彼女があんなに慌てているの、初めてだよ。なんか、よくわかんないけど、『読まないで』って何度も」
「何ソレ?」
「わかないけど……」
「あ、そうだ。水瀬君、知ってる?」
「何を?」
「ルシフェルさんが、自伝を出したんだよ?」
「ルシフェが?」きょとんとする水瀬君。
「結構、無口だから自伝出すなんて派手なことするように見えなかったけどなぁ……」
「今日、世界4ヶ国同時発売なのよ。帰りに本屋で買っていかない?」
「いいよ。僕も興味あるし。で、タイトルは?」
「えっとね、確か、『長野での思い出』だった」
「ふぅん……」
翌日、朝寝坊。
昨日、『長野での思い出』を遅くまで読み続けていたのが原因。
一年戦争の生々しい戦場の様子が詳しく書かれているし、コンビを組んでいたY君との意外な凸凹コンビぶりが秀逸。読んでいてとてもおもしろかったけど、この朝のつらさはやっぱりイヤ。
遅刻ぎりぎりで教室に入ったらなんか、水瀬君が沈んでいるし……。
その時は、何かあったろう位の感じでしかなくて、まさか放課後までずっとそのままなんて思いもしなかった。
「水瀬君、どうしたの?」
本当は、瀬戸さんがいれば一番いいのに。なんでこういう時に限って、あの人いないんだろう。
「……」
うわっ。思わずひいちゃった位暗い。
「どっ、どうしたの?」
水瀬君が無言で机の上に出したのは『長野での思い出』
「あっ、それ、私も読んだ。おもしろかった」
「……ぐすっ」
……水瀬君、もしかして泣いてる!?
「感動のあまり、ってわけじゃないみたいね」
「……友達だと思っていたのに、こんな風に僕のこと見ていたなんて」
「?」
一瞬、意味がわからなかった。この本の中で時々、悪口書かれていたのって、確か。
「もしかして、よく出てきたY君って……」
「……僕のこと。いろんなこと考えても、僕のことでしかありえないよ」
『外見は小柄な美少女。中身は浮世離れした男の子』って、酷評だけど、ある意味、かなりの正鵠を射ているわ。私でも水瀬君だってわかるもん。
ただ、水瀬君からすればそりゃショックだろう。
ルシフェルさんって、このY君に相当な恨みがあるとしか思えない書き方してたもんね。
ものすごくおもしろかったけど。
本を開いて何行か読み上げてみる。
「……えっと、『またY君にだまされた。いつか絶対しかえししてやる。私の青春を返せ』……『この頃、背中を見る度に斬り殺したくなっている自分に気づく』」
確かに、友達への言葉じやないわね。これは。
「でもさ。水瀬君だって、何か心当たりがあるんじゃない?」
「ないもん!!」
そんなムキにならなくてもいいけどさ。
もう水瀬君、ボロボロ泣いてるし。何か可哀想。
「初めて出来た友達だったもん!大切にしたいって思って、迷惑にならないように気を付けていたつもりだもん!」
……水瀬君って、ホント、怒ると子供がダタこねてるみたい。全然迫力ないない。
思わず笑っちゃいそうになる。
でも、水瀬君今、なんかヘンなこと言ったな。
「――初めての、友達?」
水瀬君は真顔で頷いた。
「僕、いろいろあって、ずっと友達いなかったし、だから、同じ魔法騎士でしかも同い年って聞いたから、だから、だからね?友達になってほしくて、それで――」
あーあ。さらに沈んじゃった。
でも、そうか。
水瀬君が地球半周してまでルシフェルさんの治療続けてた理由って、水瀬君にとってルシフェルさんが大切な友達だからだったんだ。
そりゃショックだろう。
だったら、私が一肌脱いであげましょう。
「でも、悪いの水瀬君だからね」
「わるくないもん!!」
「悪い!」
「わるくない!」
「悪いったら悪いの!!」
途中で止めに入った秋篠君によると、私たち、かなりの時間言い合っていたらしい。
『保母さんがダダこねてる園児を叱ってるみたい』って表現が気になったけど。
「……じゃあ、桜井さんの言い分、聞いてみればいいじゃないか。水瀬」
秋篠君がそういって私に続きを促してくれた。
水瀬君の眼は「絶対違う」って言い張ってるけどね。
「あのね?きちんと読めばわかるのよ。ルシフェルさんが怒っている時って、水瀬君がルシフェルさんに失礼なことした時ばかりじゃない」
「……してないもん」
水瀬君たら、頬を膨らませてすねてしまうし。
「してるのよ。だいたいね?ルシフェルさんのこと、友達って見ていたことはなんとなくわかる。だけど、ルシフェルさんが「女の子」だってこと、どれ位意識していたの?」
「……?」
きょとんとしないでよ!!うわっ。これほど鈍いとは思わなかった!
水瀬君、全然わかってない!
「――水瀬君、たとえばね?ルシフェルさんの服を洗濯してあげるのはいいことしたと思う。でもね。下着まで人目につくところに一緒に干しておくっての、ダメなのよ」
「なんで?」
「女の子って、自分の下着を人目につく所にさらされるの嫌がるのよ」
「……だから、なんで?」
「そういうものなの!!」
「……そうなんだ。」
「よくわかんないけど、わかりました」って顔に書いてあるよ。水瀬君。
私は一気にたたき込んだ。
「いい?悪口書いてある所って、ほとんどルシフェルさんが女の子として恥ずかしい思いした所ばっかりなの。同じ女の子として、私はルシフェルさんの方が正しいって思うわ」
「ううっ……」
「あのさ。この本、俺も読んだけどさ――あった」
横から秋篠君が本を取り上げて、あるページを開いてから言った。
「このY君って、ルシフェルさんにとっても初めての友達だったんだな。で、彼女も彼女で、彼のこと、大切に思っていたらしいぞ」
「そうよ」それは私も認める。
ただ、水瀬君、あまりの酷評の羅列のせいで、それに気づいていないだけ。
「いいか。水瀬、ここんとこ読んでみろ。『今日、Y君とケンカした。誰が悪いっていわれれば私が悪い。でも、その謝り方すらわからない自分に嫌気がさす。やっと出来た友達がいなくなるのが、怖い』とか、『傷が痛くてほとんど眠れない毎日。昨日の夜、むずがゆさで目が覚める。「寝てていいよ」って、誰かの声に安心して眠りに落ちようとして、気がついた。Y君だ。傷の痛みがどんどん引いていく。「Y君?」「ヒーリング。もうすぐ終わるからね」「迷惑でしょ?」「僕たち、友達だよ?」涙が出てきた。あれほど酷いこといった私を、それでも友達だって思ってくれていたんだ』とかな。彼女だって、内心では絶対、このY君ってのを友達だって思っているよ。」
「……よくわかんない」
「水瀬君、忘れちゃいなさいよ」
「?」
「水瀬君、酷いこと言われたってことだけ傷ついているんでしょ。だったら、言われたことだけ忘れちゃいなさいよ。そうすれば、今まで通り、友達でいられるんだから。それじゃダメなの?」
「……そう、だね。うん。そうする」
ようやく、水瀬君に笑顔が浮かんだ。
「ありがとね。二人とも。」
「帰りにラーメン一杯でいいわよ」わざと軽く受け流す私と、
「俺たちだって友達だろうが」と真顔でしかる秋篠君。
うん。やっぱり青春って、こういうもんだ。
「……しまった!!」
秋篠君が慌てて水瀬君に言った。
「すまん水瀬!お前に会いたいって女の子が校門に来てるんだ。つれてくるって引き受けたの、忘れてた!」
「僕に?」
「ああ。いや、今まであんな美人に出会ったことはないってくらいのきれいな人でな。髪の長い、どこかで見たような気がするんだけど……」
秋篠君は「誰だっけ」としきりに首をかしげる。
「髪の長いって、こんな感じ?」
私は冗談半分で本に載せられていたルシフェルさんの写真を見せたら、「あっ!」って、秋篠君、びっくりしてた。
「水瀬、そう、ルシフェルさんにそっくりな子なんだよ!いや。本人かと思ったほどだ!」
「そんな知り合い、いたかなぁ?」
水瀬が席を立って下駄箱へ向かおうとしたから、私と秋篠君もついて行くことにした。
いた。
校門の脇でまるでさっきまでの水瀬君みたいにしょんぼりしている髪の長い女の子。
背は高い方。多分170センチ以上はあるし、白いワンピースがよく似合う、かなり綺麗系。知的な美人って感じかな。
当然、目立つ。
何人もの男子生徒が遠巻きに見ている。彼女自身はその視線にまったく気づく余裕もない程、思い詰めているみたいだけど。
彼女を見つけた水瀬君、彼女の所まで慌てて走っていくと、二言三言かわした後、腕をつかんで校舎の裏までひっぱって、しばらくそこでなにやら話し込んでいた。
さすがに何が語られているかは聞こえないけど、どうも女の子が水瀬君に何かを謝っている様子。水瀬君はそれを穏やかに許しているけど。あ。終わったみたい。
うわ。近くでみるとホントに美人。腰まで伸ばした髪もつややかで色白。胸もかなり大きい。
「彼女、日本語しゃべれるから大丈夫だよ」
「え?」
「国籍、一応イギリスだから。あ、ルシフェ、見学の許可もらってくるから、少し待ってて。桜井さん、すこし面倒みてもらっていい?後でラーメンおごるから」
「いいけど。この人、誰?」
「はじめまして。ルシフェル・ナナリといいます」
「あっ。桜井美奈子です。って――ええっ!?」
礼儀正しく挨拶されて思わず返しちゃったけど、びっくりした。さっきまで話の渦中にいた人物、しかも超有名人が目の前に!!
「ほっ。本人!?」
「はい」
少しほほえんだだけ。それでもほんと絵になるわ。この人。
「じゃ、まぁ、立ち話もなんだから、おい水瀬、食堂にいるぞ」
「うん」
水瀬君は職員室へ、私たちは食堂へ移った。
ルシフェルさん。珍しいものばかりらしくてあたりをきょろきょろしてて、なんども角を曲がり間違えていた。とても魔法騎士とは思えない辺り、水瀬君の同類っぽい。
「さて」
放課後だから、人気が少ない食堂で、私たちは言葉に詰まっている自分たちに気づいた。
「あの。日本には」
秋篠君がなんとか切り出してくれたのには正直、助かった。
「私のミスでみんなに迷惑かけてしまって」
「あの本のこと?」
「はい。私、病院で日記を盗まれてしまって。どういうわけか、それが本として出版されてしまいまして」
そうか。だからあれほど歯に衣着せない言い方だったんだ。
「失礼かも知れませんけどね。結構、おもしろかったですよ。水瀬君、泣いていたけど」
「……ですよね」
「でも大丈夫。水瀬君にとってはいい薬ですから」
「……薬?」
「ええ。本人、なんであなたに怒られたのかなんて、何もわかってないんだから」
「……やっぱり、そうですよね」
「そう。鈍いの」
「鈍いですよね」
「そう」
「鈍いですから」
私、ルシフェルさんと一緒に思わず笑ってしまった。
ルシフェルさん、本当に礼儀正しいし、普通に接していると、どこかのお嬢様みたい。
世界最強の魔法騎士なんて肩書き、本当はふさわしくない。
彼女は、一人の女の子として、立派な存在だ。
会話を交わした時間は短かった。
でも、そう感じたことは今でも間違いじゃないと思う。
ルシフェルさん、このまま英国に戻ると言った後で、水瀬君にポツリと呟いた。
「やっぱり、学校って、通ってみたかったな」
「言うと思って」
水瀬君が取りだしたのは何と明光学園の学校案内。
「転校時に必要な願書も入ってるよ。次来るときは制服買いに行こうね」
「水瀬君……」
「一緒に学校に行こうっていうあの時の約束、忘れてないからね」
「うん……」
何とか作り笑いを浮かべようとするルシフェルさんの頬を涙がこぼれ落ちる。
「……自分の道は自分で決めるから」
「応援するよ。それがどんな道でもね」
「私達も、出来る事があれば何でも言ってね。あ、メアド教えてあげるから」
「あ、ありがとう」
私はメモ帳にアドレスを書き込んで手渡した。
何だか、このまま、ルシフェルさんを黙って返したら、とんでもないことになりそうで怖かったから。
一週間後、朝のニュースで各局がトップニュースで報じていたのは一つ。
ルシフェルさんの神聖国教騎士団からの退団。
「自分の道を、自分の足で歩きたい」
その言葉が、何だか痛々しく感じたけど、それでも、その決断に私は心から敬意を持つ。
彼女は、やはり、世界最強だ。
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