第30怪
連絡を受け、美玲は急いで青崎家に向かった。そこにはルルカを含めた怪奇研究部員が集まっている。
「家に祀られてた刀のうちの短刀が無くなってる」
そう言う颯斗にルルカは真剣な表情で語った。
「今夜、一族の争いに終止符を打つつもりよ。彼あんたたちには黙ってるみたいだけど、それで納得する人たちじゃない事アタシが一番分かってるから。彼に言いたいことあるんでしょ?」
颯斗は覚悟を決め、走り出す。それに純と美玲が続く。残されたルルカは自分の思いを京子に話した。
「アタシは梓馬様を操るアイツを切り離したい。アイツは堕ちた神だと袂紳は言ったわ。腐った神でも御神体を壊せば消滅出来るはず」
「私も行く」
「でも……」
京子の真剣な眼差しにルルカが折れた。「仕方ないわね」と笑うルルカに京子も釣られて笑った。
「僕も行きます。天使の力で出来ることがあるかも知れない」
三人で顔を見合わせ、赤坂家へと走り向かう。
大きな壁がずらりとそびえ立つ赤坂家、入り口付近には赤坂関係者が数名立っていた。
「ルルカさん、京子さん。僕が囮になって先に侵入します。その隙に御神体をお願いします!」
そう言って真野は天使の羽を出し、壁を飛び越えていった。侵入の気配に気づいた赤坂の人間が真野の方へ向かう。
「京子、行くわよ」
赤坂内部は閑散としていた。梓馬と純平の姿は見えず、赤坂家の人間も出払っているようだ。
「とりあえず梓馬様の部屋に行ってみましょう」
部屋は物も少なく、探す場所も限られた。バタバタと廊下から人が動く気配がする。
「侵入者とは一体!」
「どうやら天使族の血縁らしく、青崎関係者に混血が居たようです」
(御神体を探しているのがバレたら大変だわ……あれを使いましょう)
ルルカはサッとお札を取り出し、水入りペットボトルの中に丸めて入れた。ペットボトルからもくもくと煙が出始める。
「これって」
「えぇ、カラクリ屋敷で使った蜃気楼。これで気付かれずに探せるわ」
部屋の隅々の霊的磁場を探索し、御神体を探す。京子はひたすらにカメラを構えていた。ふと屏風の裏を撮ると先程まで無かった扉が現れる。
「姉さん!」
「ここに……入るわよ」
薄暗い長い廊下が続き、家の構造からあり得ない空間だった。空気が重く、息苦しさを感じながら京子たちは進んだ。進んだ先には一筋の光を浴びる木彫りの人形があった。
「これが梓馬様を乗っ取った奴の御神体!」
普段の通学路も夜は沈んだ雰囲気を醸し出し、人が通る気配すらしない。颯斗、純、美玲は必死に純平を探した。
(単身で赤坂当主のところに行ったっていうのか!? いくらなんでも無謀すぎる)
すると、颯斗と純は身体からフッと何かがすり抜ける気配を感じた。
「どうしたの?!」
美玲が二人に駆け寄る。今まで経験のない感覚に二人は異様な寒気を感じた。颯斗が呟く。
「血筋の呪い」
「何だよそれ!」
「青崎の血縁は全員袂紳と繋がっていて、霊能力を移動させることが出来るそうだ……今まさに霊能力を抜かれている」
一瞬颯斗が固まり、次に絶望した。そして、美玲と純はその後颯斗が語る思いがけない言葉に息を呑んだ。
「あいつ……梓馬と一緒に死ぬ気だ」
「クフフ……待ちくたびれたぞ。袂紳」
木が生い茂る森の中、闇夜に包まれる長い髪の男がいた。ここは赤坂家からも遠く離れている人が立ち寄らない森だ。
「昔の約束……果たしにきたぜ、梓馬」
遠い昔、赤の一族と青の一族がいた。後に赤坂家、青崎家と呼ばれる霊能者一族になる。不老不死の仙薬を奪わんとする赤の一族の当主に青の一族の当主が殺される事件があったが、そこには当事者本人たちしか知らない事実が隠されていた。
「か、身体が言う事を聞かないんだ……すまない袂紳……私を殺してくれ!」
その日現れた梓馬の様子は普段と違った。前日の詩乃姫の話を袂紳は思い出した。
(黒い禍々しい気配……!)
馬乗りになり刃物を突き立てる梓馬。その背後には微かに闇の気配がした。呪いを生業とする赤の一族だが、呪いとは比べ物にならないほどの闇の気配が。
「一体何があったんだ、梓馬!」
呼びかけに応じない梓馬。刺された箇所からじわじわと血が流れる。
(死ぬまでの数分で何か手立てを考えなければ)
「しっかりしろ梓馬! 何があっても必ず助けてやる。何度生まれ変わってもお前の親友だ」
「死の間際、自分に呪いをかけた。時間がなかったから不完全な形になっちまったがな」
あの時袂紳が自身にかけた呪いは二つある。自分の血が流れる者の一族に産まれる呪い。その際、前世の記憶を持つ呪い。不完全な呪いの代償として生まれ変わっても袂紳が死んだ二十五歳に死ぬ。
「ごちゃごちゃと……もうここにお前の知る梓馬は居ない。もう一度俺に殺されるが良い!」
梓馬の黒い気配が襲いかかる。
「朱雀」
ふわりと純平の背後に現れた赤茶色の鳥にまたがり、空の上から何発も弓矢を射る。梓馬が避けながら黒い霧を広範囲に飛散させる。
「千年経ってるんだ! 支配も弱くなっているはず……そうだろう、梓馬!」
「戯言を……グッ……何が……」
途端に黒い霧が地中へと消えていく。梓馬は固まって動かなくなった。
「そんな、はずは……! まさか」
バキンッと音を立てて御神体が崩れる。赤坂家では京子とルルカが御神体を手に取り、思い切り床に叩きつけていた。
「こ、壊れた……壊れたのよね!」
ルルカが京子に語りかける。京子がすかさず写真を撮ると、割れた御神体の中から黒い霧がサァーっと流れて消えていた。
「やった……やったよ姉さん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます