最終章
第29怪
「なるほどな……」
美玲たちに全てを話した次の日、ルルカは久しぶりに学校に来た。部室に集まり事の経緯を説明し、これまでの事をまとめる。ルルカは青崎の情報を流すていで二重スパイをしていた事、梓馬を何者かが操っている可能性があること。
「あたしは美玲さんに前世を思い出してもらって、本当の梓馬様を知りたかったの。青崎が美玲さんに前世を知って欲しくなかったのは分かってたわ。あたしが無理言ったのよ」
颯斗と純は複雑な表情をした。ルルカの説明に美玲が続ける。
「実際、純たちから聞いた梓馬様のことと私が思い出した梓馬様の記憶は全く違った。不老不死になりたかったから邪魔だった袂紳様を殺したのは違うと思う。別の何かが……」
黙って俯いたまま一番端に座る部長に颯斗は視線を向けた。何故今まで黙っていたのか、何を考えて行動してきたのか、一つの結論が思考をとめた。ふとあの日を思い出す。お前なんて弟じゃないと冷たく言い放ったあの時を。
(あぁ、そうだ。頼れないような関係にしたのは俺からだった……)
あの日から一度も兄と呼ばれたことは無い。
話し合いの後、美玲は一人帰路に着いていた。前世の記憶は完全に戻っているが、不可解な記憶が頭にこびりついていた。
(あれは……死後の世界。あの男の人は一体誰だったんだろう)
不意に背後から風がなびく。不穏な気配を感じ、後ろを振り返ると夕日に照らされた漆黒の髪に赤い瞳をした記憶の中の男性がいた。
「あ、あなたは!」
「そろそろ頃合いかと思って……君の知りたいこと、今から実際に見に行こうか」
目の前が眩い光に覆われ、気がつくと千年前の平安時代にいた。美玲の身体は詩乃ではなく本人のまま、薄く透けていた。
(ここは、あの日!)
忘れもしない日だ。魔の物に襲われ、振り返らずに走って逃げたあの日。美玲は逃げる詩乃の後ろを見ていた。その後の梓馬がどうなったのか確認する。
(そんな……)
梓馬の抵抗も虚しく、身体は闇に呑まれていく。数分経つと闇が収縮していき、梓馬の姿が現れた。
(梓馬様!)
ゆらりと立ち上がり、前髪をかき揚げる。
「ふ、ふふ……ふはは! 遂に人間の身体を手に入れた!」
美玲の表情は一気に固まった。あの時置いて逃げてしまった自分を酷く恥じた。
「後は不老不死の仙薬を手に入れるだけだ……そうすれば完璧な存在となれる。俺を見捨てた天界に復讐してやる」
ふらつく美玲をそっと支えるその男性は「次行こうか」と新たな記憶を辿る。
闇に生ける者どもが目を覚ます
「わ、私が……殺した……」
「そうだ、お前が殺した。しっかりと目に焼き付けろ」
夜のような青年は手にナイフを持っていた。辺りは血に塗れていて側には袂紳が倒れていた。しかし、様子がおかしい。二人以上居なければ成立しない会話がされていた。だが目に見える人物はこと切れた袂紳と梓馬だけ。目に見えない何かがもう一人いる。それはおそらく梓馬の身体を乗っ取った者。
「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁ!!!」
梓馬が悲鳴を上げる。その悲鳴も数秒のみで、次に顔を上げたときにはニヤリと笑い、瞳の色が変わったように感じた。やがて月が昇り、夜がやってきた。漆黒の闇のように変わった空は残酷な歴史を物語っているようだ。
「誰だっ!」
その視線は美玲に注がれた気がした。瞬間ガラガラと地面が崩れ、先程までいた通学路に倒れ込んだ。
「これが、僕が見た本当の歴史。どうだい?」
美玲は動揺を隠せていないようだった。
「あなたは誰?」
「僕は亜門、そうだな……魔界の神様ってところかな」
「ずっと見ていたの? 何故……」
にやりと笑い、美玲に向かい合う。
「僕はただ、ことの顛末を見守りたいだけなんだ」
そう言って闇の中にサッと消えていってしまった。辺りは既に夜を迎えている。一人呆然としているとスマホにメッセージが入っていたのに気づいた。颯斗からだった。
『純平が一人で梓馬のところに行った!』
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