第7怪

 程なくして一人の人間のような者が少女らの前に現れた。どうやらその者が安倍晴明というらしい。晴明は何かを考えていた。晴明を待っていた帝が淡々と言う。


「不老不死の仙薬をこの国で最も高い山の上で燃やせ」


 その言葉に帝付きの人間が反応する。


「も、燃やす……ですと? しかし」


「かぐやの居ない世で不老不死になろうと意味がない。月に一番近い場で燃やせば、かぐやに届くだろう」


 帝はどこか喪失感がある。そして晴明に一言。


「不老不死の仙薬となればあやかし共も狙うだろう。かぐやに届く前に妖に奪われては意味がない。それを防げ」






 少女らと晴明らは山を登っていた。数十人いる月の者一人につき、霊能力者や武官が一人ずつ付いている。晴明が担当した少女はその中でも最も幼い子どもだった。


(どうにかこの者らを逃せないだろうか。こんな幼い少女を燃やせなど。帝は狂ってしまわれた)


「お前、名は何という。歳は?」


詩乃しの……十四歳」


 十四の少女が死ぬ為に山を登らされている。本来の通り、不老不死の仙薬にしたとしても死ぬ。すると突然、他の月の者を見ていた人間が叫び出す。


「貴様ら、何者だ!」


「我らは鬼の妖なり、その不死の仙薬……燃やすなら我らが頂こう!」


 そう言って妖は人間を襲い出した。場は混乱を極める。月の者も人間も逃げ出す。


(この混乱に乗じて逃がせるやも知れん)


「いいか、詩乃よ。この鳥を追いかけて下に降りろ。さすれば助けが来る」


「……貴方はどうするの?」


「奴らを片付ける」

 





 無我夢中で走り出した詩乃は山を降り、鳥に続いた。途中他の仲間が付いて来なくなったが気にしている余裕は無かった。ここが生きるか死ぬかの瀬戸際だ。すると一軒の屋敷に辿り着いた。そこには神秘的な白銀の雪のような髪をしている青年が一人。詩乃に話しかけた。


「式神から先に聞いた。お前が月の国の者か」


 これが初めて二人が出会った日だった。そこから運命は大きく変わることになる。






 カラクリ屋敷、外。美玲は相変わらず寝ていた。


「…の……し…の………」


「んん……あれここ外……部長? どうなってんの……」


「なんだ起きてない。お前中で倒れてたんだぞ。そんな怖かったか? この心スポ」


 辺りには美玲と部長の二人しかいなかった。美玲が聞く。


「マジか、他のみんなは?」


「もう帰った。てか時間ヤバくね?」


 時刻は九時になっていた。二人は焦りながら帰路に着く。






(昨日は色々起きたなぁ。ま、私はずっと寝てたんだけどね)


 翌朝、学校で私はカラクリ屋敷で起こったことを振り返っていた。宮本ルルカはどうやら何らかの能力を持ち合わせていて、その力を使って美玲を眠らせたこと。何よりあの変な夢のこと。


(ルルカまだ学校来ないな、問い詰めたいことはいっぱいあるのに)


 しかし、この日をさかいにルルカは学校に来ることは無かった。ガラガラガラと勢いよく教室の扉が開く。純が登校してきたのだ。


「美玲!」


「あっ、純! ちょっと色々聞きたいことが……」


 すると純はカバンも下ろさないまま私の元に駆け寄り肩を掴み、風船のようによろよろとしゃがんだ。


「良かった……マジで……もう、どうなるかと思って……」


 教室中の視線が集まる。悪目立ちするのでとりあえず中庭へ移動した。






「なるほどなってルルカは言ったんだな」


「そう。それでなんか眠くなって……変な夢を見たんだよね」


「それってどんな?!」


 美玲は純に夢の内容を話した。在り来たりでただの夢といえば夢なのだが、何だか重要な気がしてならない。


「帝……月の国……不老不死の仙薬……か、なるほどな」


 純の目が変わった。夢はただの夢ではなかったのだろう。


「ねぇ、これ一体何なの? 私たち、何に巻き込まれてるの?」


 純は少し考えてから重い口を開いた。


奇天烈きてれつで面白味もないし、意味分かんない話だろうけど……こうなった以上、美玲も知っとかなきゃいけないのかもな。どこからどこまで話して良いか分からないけど、今の現状は大体理解出来た」


 そう言って純は話し出した。過去に起こったとある事件を。

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