第8怪

 そして純は重い口を開いた。


「昔の話だ、平安時代に有名な陰陽師がいただろ? 安倍晴明。その時代には主に二つの霊能一族が活躍していた。今じゃ名前を変えているが……そうだな、一部のマニアからこの話は青の一族と赤の一族の対立、みたいな内容で語られてるみたいで……」


「待って、その話知ってる!」


 カラクリ屋敷前、友人が話していた昔話。馬鹿馬鹿しいと気にも留めていなかったが、今になってまた同じ話題になるとは。


「知ってたか、なら話が早い。あの話はおおむね合っているが、重大な事実が一般人には知られていない。知っているのは霊能業界に身を置く奴らだけだ、その事実ってのが……」


 この話に出る人物たちは現代にもいる、ということ。理解が出来なかった。平安時代の人物たちが現代にいる? そして純が続けて言った。


「転生って知ってるよな?」


「そりゃ、心霊好きなら誰だって…………まさか……転生して今の時代で生きてるってこと?」


 純は真っ直ぐ美玲を見つめ、頷いた。ルルカの言った『思い出す必要がある』という話、突然現れた夢というには鮮明な記憶、何よりこの目で見た霊能力と霊の存在。この事実から推測するに。


「その当事者が私。っていうんじゃないでしょうね……?」


「当事者といえば当事者になる。こんな話、信じられる訳がないだろうが」


 美玲は青の一族の当主の妻だった、だが赤の一族の当主が美玲の前世……詩乃姫を好きになり、青の一族の当主を呪い殺した。だがこれは一般人に伝わった話で、実際は月の国の人間であり、不老不死の仙薬になる詩乃姫を狙っての事だと霊能業界では知れ渡っていた。その争いの呪いの影響で転生するようになったのだと。


「と俺は伝え聞いている」


 愕然とした、信じられる訳がない。しかし、美玲の中の何かがざわめいている。妙に信憑性がある。


「今は信じられないだろうな、だがこれから前世の記憶は夢として現れるだろう。そのきっかけがルルカだった。俺たちも全てを知ってる訳じゃないんだ。というか昔の時代過ぎて本当のことなのかも怪しいくらいで」


「ねぇ、ルルカは何でほぼ初対面の私のことがずっと憎かったんだろ。どうして純は私に色々してくれるの?」


 前世とルルカの関係性が分からない。ルルカは一体何者だったのか。


「美玲が眠った後、ルルカは自分を『赤坂ルルカ』と言った。そしてこの赤坂家は話の中の赤の一族だ。美玲は青の一族の当主の妻だったから敵対関係にあるんだろうな」


「なら青の一族は?」


「青の一族の名前は……俺が美玲に色々するのにも、ここに理由があって……」


 純は難しい顔や困ったような顔を繰り返し、返答に悩んでいるようだ。


「ここまできたら腹括るしかねぇ! その青の一族ってのが『青崎家』俺はその青崎家の分家、佐々木家の出身だ。本家の人間に美玲の前世のことは知らせるなと言われているが俺は今反抗期だっ! そういう事にする!」


「えぇーーー?! それでいいの!?」


 純の勢いに押されかけていたが、青崎という名前に引っ掛かりがあった。


(青崎って……佐々木家が分家? ってつまりは親戚ってことよね。てことは純の親戚で……ってか)


 昔から仲が良かった美玲たちは、ほとんど名前で呼び合っていて今更苗字を気にしていなかったが、青崎の名前には聞き覚えがある。


(生徒会長、青崎颯斗。その弟、青崎純平。この2人の従兄弟、佐々木純…………こいつら)


 幼なじみなんですけど?!


「はぁぁぁ!? 自分の事なのに知らなかったの私だけ?! みんな知ってたの? ってかもっと重要なこと隠してたの?!」


「ご、ごめん! だってお前、霊も視えなきゃ祓えもしない一般人だろ!? 言えるかっ!」


 そう言われればそうだ。学校の七不思議で幽霊は見たが、今まで霊感というものは感じたことがない。


「まっ、とにかくホームルーム始まるから教室戻ろうぜ、前世の記憶が戻るまでは今までとなんら変わりないはずだ。だからあんま深く考えんなよ」


 確かに美玲に出来ることは何もない。渋々教室に戻る。






 部活動開始時間、部室の前は異様な空気が漂っていた。それは扉に貼られていたこの手紙のせい。


【怪奇研究部は部活動にあらず! よって解散を希望する。生徒会より】


「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!」

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